二十話
その夜。
リュックから取り出したのは、飛鳥くんが今朝渡してきた『飛鳥時代ゲーム。目指せ中央集権国家』だった。
「お、ゲーム?」
「飛鳥時代って......えーっと、昔のことだな!」
「奈良時代の前で、日本で初めて刑法・民法などの法律が定められた時代だ」
「さすがイインチョー」
画面に表示されたのは、意外にもハイクオリティなマップと、ナレーションのようなテロップ。
『都の場所を決めてください。』
選択肢がいくつも並んでいる。
―――『持統天皇は藤原京』
―――『元明天皇は平城京』
―――『聖武天皇は恭仁京』
―――『難波宮』
―――『紫香楽宮』
「都、いっぱいあるね......」と呟くと、委員長は自信満々に頷いた。
「飛鳥時代の都は移動式だったからな」
「サラダチキンより軽やか。......飴やる」
朱里が飴をみんなに手渡す。レモン味だった。
「例えが現代すぎる。飴ありがとう」
とりあえず定番っぽく、『平城京』を選んでみる。
画面が切り替わり、またもや選択肢が並ぶ。
『所属する省を決めてください』
―――『中務省、朝廷の公的の補佐』
―――『治部省、儀式・外交』
―――『式部省、役人の人事・教育』
―――『民部省、戸籍・租税』
―――『兵部省、軍事・警備』
―――『刑部省、裁判』
―――『大蔵省、国財の管理』
―――『宮内省、朝廷の私的な補佐』
「いやいや、もう漢字からして時代が違うやつ」
「そもそも、どれが正解とかあるの?」
「全部“正解”だ。飛鳥時代には中央官制『八省』っていうのがあって―――」
「それ授業で聞いた!!」
「......とりあえず、民部省?」
ポチッ。
『戸籍班に配属されました。班員を集めて、土地を分配してください』
画面に映し出されたキャラたちは、まるでリアルな飛鳥時代の人。
朱里が操作キャラを動かして、米俵を運んでいる。
「ゲームで働かされてる......これがブラック労働」
「つらっ」
「RPGのはずが、ただの“村作りシミュ”」
「このゲーム、かなり忠実に作られてるな」
委員長がゲーム機を覗き込む。
(このゲームを作った人が当時の人だなんて、口が裂けても言えない......)
村を作っていたら、スペシャルミッションという文字が現れた。
『僧尼の脱走を阻止せよ』
「......どういうこと!?」
「次は治部省になりきるのか。僧尼は当時、勝手に出家したり寺を出たりするのが禁止されてたんだ」
「脱走僧を追いかけるの、絶対バカゲー展開だわこれ」
「追え―――ッ!!!」
“お坊さん”が竹やぶを抜けていく!!
“飛鳥時代の公務員”たちが網で取り押さえる!!
成功!
『脱走僧、無事確保。仏教秩序を守りました』
「お坊さん確保ってパワーワード過ぎる」
『大化の改新を実行せよ』
「おお!格好良さそう!」
「昔の人、夜中ポテチとかしないんだろうな」
「蘇我入鹿を暗殺するイベントだな」
「物騒!!」
健太がキャラをそっと屋敷の中に忍び込ませる。
「教えて委員長!入鹿ってどんな人?」
「何でも俺に聞くなよ......。蘇我入鹿は蘇我氏の超権力者だ。皇族より偉かった説もある」
「凄い人じゃん!」
「さっきまで平和だったのに......一気に修羅場になった」
「平和だったか?」
蒼真が画面を覗き込む。
「待って。選択肢あるよ?」
画面には四つの選択肢が並んでいた。
―――『刀で斬る』
―――『毒を盛る』
―――『馬で轢く』
―――『火炙りの刑に処す』
「馬!?」
「火炙りって......残酷だなぁ」
「刀だろ、やっぱり王道!」
「でも毒って......時代を感じない?」
朱里が悩んだ末に、無言で「馬で轢く」を選んだ。
「朱里!?」
「馬の迫力が見たい気分」
画面の中で、馬に乗ったキャラが正面から全力で入鹿に突っ込む。
ドーンッ!!
『蘇我入鹿を撃破!改新、始まる―――』
「スーパースロー演出とか要らんから!!」
「意外とグラフィック頑張ってる......!」
場の空気がどっと笑いに包まれる中、委員長がポツリと呟く。
「これ作った人、蘇我入鹿に恨みでもあるのか?」
その後、みんなでワイワイ言いながらゲームをしていたら、とっくに朝の四時になって速攻で寝た。睡眠時間は三時間。
「楽しかったなぁ」
「うん、楽しかったよな」
「夏休みって、最高〜」
「俺は寝不足」
「委員長、寝不足なのはみんな一緒」
「もう一回くらい、海行こっか」
「賛成。次はサメ倒そう」
「どんな海だよ!!」




