十九話
「海だー!!」
「お前らうるさい」
数時間前までは、まさか本当にこんな光景になるとは思っていなかった。
世間は夏休み真っ只中。私達バカ四天王と委員長は海に来ていた。
時は三日前。夏休み、どこに行くかという話になり、最初はノリで「海!」とか「温泉!」とか言っていたけど、結局何も決まらずうだうだしていた私達は、ふらりと商店街をぶらついていた。
商店街の夏祭りキャンペーンで、千円ごとに貰えるガラガラくじの引換券。みんなでわいわい買い食いした結果、気付けば数枚分貯まっていた。
「ま、どうせポケットティッシュでしょ〜」
そんな風に思っていた。思っていた、のに。
「っしゃああああ!!特賞きたあああ!!」
蒼真が叫んだ。
くるくると回った赤い玉。それはまさかの特賞。
一泊二日の温泉宿泊券、五人分。
その瞬間、お店の人がカランカランとベルを鳴らして「おめでとうございます!特賞の白浜温泉旅行チケット五枚分でーす!」と叫んだ。
途端に注目される私達。
「凄すぎる......っていうか、五人ってジャストすぎない!?」
「これはもう行くしかないっしょ!!」
「しかも、温泉宿のすぐ側に海があるらしいぞ」
「神か!?」
「崇めよ崇めよ、温泉旅行チケットを当てた俺を崇めよ」
―――というわけで、全員一致でこの旅行は決行された。
ちなみに、蒼真が特賞を引き当てたのに対し、私と健太はしっかりポケットティッシュを引いた。
現実は厳しい。
―――そして、今。
エメラルドグリーンの済んだ海。
そして一面の、サラサラした砂浜。
和歌山県の白浜は近畿のハワイと呼ばれているらしくて、近くにはヤシの木や真っ赤なハイビスカス。
「海だー!!!」
両手を広げて、きらきらと輝く波打ち際へと走る。
「えーい、今日は日焼けなんか気にしなーい!!」
朱里がビーチボールを頭上に放り投げて、歓声を上げる。
「うわっぷ!」
蒼真が波に足を取られて転びかけ、顔に水しぶきを浴びてびしょ濡れになっている。
「すまん、夏の運動量ナメてた......」
健太はもう、最初のテンションの反動でゼーハー言いながら膝に手をついていた。
その様子を、少し離れたところから見ていた委員長が、日除け帽子を手で押さえながら叫ぶ。
「お前らー!あんまり沖の方に行くなよー!!」
空に響く委員長の声に、私達は声を揃えて返事をした。
「「「「はーい!!」」」」
......が、その足は全員、沖の方へ向かっていた。
「じゃーん!スイカだよー!!」
クーラーボックスから満面の笑みで取り出したのは、丸々一玉のスイカ。
冷たさで薄っら水滴が浮いていて、もう見ただけで美味しい。
「きたきたー!!夏って感じ!」
「おお〜これはテンション上がるー!!」
「いよっ、主役登場〜!!」
朱里と蒼真が手を叩き、健太は何故かスイカに向かって敬礼していた。
委員長は日陰に避難しながらも、ちゃんとビニールシートを広げて準備してくれている。
「じゃ、スイカ割りスタートだな!」
「誰から行く?」
「ここはやっぱ......俺でしょ!」
と健太が名乗りを上げた。
「いや、お前絶対外すタイプだろ」
「フッ、見てろって。俺のサマーブレイクを!」
アイマスクを装着した健太が、棒を持って立ち上がる。
ぐるぐると三回まわされて、フラつきながら進んでいく。
「真っ直ぐー!」
「ちょっと右!いや、もうちょい左!」
「違う、そっち浜辺!!」
「お前らちゃんと指示出せよ!!」
全員が好き勝手に指示を出したせいで、健太は明後日の方向へ。
ザッと波に足を取られ、ずぶ濡れになって帰還。
「......俺、誰も信じない」
「ご愁傷様」
朱里がくすくす笑いながら拍手する。
次に名乗りを上げたのは、もちろん私。
「ふふっ、スイカ割りは直感!感じるままに振れば絶対当たるっ!」
そう言ってぐるぐる回った後、何故か逆方向へスタスタ進む。
「それ全然違う!」
「えっ、気のせいじゃない!?」
「いやどう見ても海!」
「わわっ!冷たいっ!?」
見事に波打ち際へ一直線。棒でスイカどころか貝殻を突いていた。
「......次、ウチ行っていい?」
朱里が笑いをこらえながら前に出た。
「よっ、朱里、頼んだ!」
「さすがにここまで外したら、当ててほしい!」
同じように回された朱里は、途中まで順調に歩き、ぴたっと立ち止まると―――。
「えいっ!」
バシン!
見事に命中!
「やったー!!」
「すっげぇ、当てた!!」
「やっぱ朱里、最高ー!!」
スイカはパカッと気持ちよく真っ二つ。
スイカは真っ赤で、黒くつやつやした種。まるで宝石のようだった。
「うわ〜めっちゃ美味しそ〜!!」
「もう待てない!いただきまーす!!」
みんなで手に取り、大きくかぶりつく。
甘くてジューシーで、ほてった体に染み渡る。
「夏、最高......!」
蒼真がぼそっと呟く。
「来年も来たいね〜、こういうの」
私が笑う。
「その時こそ彼女と......」
「ないない」
健太の淡い希望を委員長が一刀両断した。
「俺にも可能性くらい残しておけよ!」
海辺に響く笑い声と、波の音。
砂に足を埋めながら、私達は真夏の一日を、確かに噛みしめていた―――。




