表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日ノ本元号男子  作者: 安達夷三郎
第三章、夏休み開幕と戦の時代
19/41

十九話

「海だー!!」

「お前らうるさい」

数時間前までは、まさか本当にこんな光景になるとは思っていなかった。

世間は夏休み真っ只中。私達バカ四天王と委員長は海に来ていた。

時は三日前。夏休み、どこに行くかという話になり、最初はノリで「海!」とか「温泉!」とか言っていたけど、結局何も決まらずうだうだしていた私達は、ふらりと商店街をぶらついていた。

商店街の夏祭りキャンペーンで、千円ごとに貰えるガラガラくじの引換券。みんなでわいわい買い食いした結果、気付けば数枚分貯まっていた。

「ま、どうせポケットティッシュでしょ〜」

そんな風に思っていた。思っていた、のに。

「っしゃああああ!!特賞きたあああ!!」

蒼真が叫んだ。

くるくると回った赤い玉。それはまさかの特賞。

一泊二日の温泉宿泊券、五人分。

その瞬間、お店の人がカランカランとベルを鳴らして「おめでとうございます!特賞の白浜温泉旅行チケット五枚分でーす!」と叫んだ。

途端に注目される私達。

「凄すぎる......っていうか、五人ってジャストすぎない!?」

「これはもう行くしかないっしょ!!」

「しかも、温泉宿のすぐ側に海があるらしいぞ」

「神か!?」

「崇めよ崇めよ、温泉旅行チケットを当てた俺を崇めよ」

―――というわけで、全員一致でこの旅行は決行された。

ちなみに、蒼真が特賞を引き当てたのに対し、私と健太はしっかりポケットティッシュを引いた。

現実は厳しい。


―――そして、今。

エメラルドグリーンの済んだ海。

そして一面の、サラサラした砂浜。

和歌山県の白浜は近畿のハワイと呼ばれているらしくて、近くにはヤシの木や真っ赤なハイビスカス。

「海だー!!!」

両手を広げて、きらきらと輝く波打ち際へと走る。

「えーい、今日は日焼けなんか気にしなーい!!」

朱里がビーチボールを頭上に放り投げて、歓声を上げる。

「うわっぷ!」

蒼真が波に足を取られて転びかけ、顔に水しぶきを浴びてびしょ濡れになっている。

「すまん、夏の運動量ナメてた......」

健太はもう、最初のテンションの反動でゼーハー言いながら膝に手をついていた。

その様子を、少し離れたところから見ていた委員長が、日除け帽子を手で押さえながら叫ぶ。

「お前らー!あんまり沖の方に行くなよー!!」

空に響く委員長の声に、私達は声を揃えて返事をした。

「「「「はーい!!」」」」

......が、その足は全員、沖の方へ向かっていた。


「じゃーん!スイカだよー!!」

クーラーボックスから満面の笑みで取り出したのは、丸々一玉のスイカ。

冷たさで薄っら水滴が浮いていて、もう見ただけで美味しい。

「きたきたー!!夏って感じ!」

「おお〜これはテンション上がるー!!」

「いよっ、主役登場〜!!」

朱里と蒼真が手を叩き、健太は何故かスイカに向かって敬礼していた。

委員長は日陰に避難しながらも、ちゃんとビニールシートを広げて準備してくれている。

「じゃ、スイカ割りスタートだな!」

「誰から行く?」

「ここはやっぱ......俺でしょ!」

と健太が名乗りを上げた。

「いや、お前絶対外すタイプだろ」

「フッ、見てろって。俺のサマーブレイクを!」

アイマスクを装着した健太が、棒を持って立ち上がる。

ぐるぐると三回まわされて、フラつきながら進んでいく。

「真っ直ぐー!」

「ちょっと右!いや、もうちょい左!」

「違う、そっち浜辺!!」

「お前らちゃんと指示出せよ!!」

全員が好き勝手に指示を出したせいで、健太は明後日の方向へ。

ザッと波に足を取られ、ずぶ濡れになって帰還。

「......俺、誰も信じない」

「ご愁傷様」

朱里がくすくす笑いながら拍手する。

次に名乗りを上げたのは、もちろん私。

「ふふっ、スイカ割りは直感!感じるままに振れば絶対当たるっ!」

そう言ってぐるぐる回った後、何故か逆方向へスタスタ進む。

「それ全然違う!」

「えっ、気のせいじゃない!?」

「いやどう見ても海!」

「わわっ!冷たいっ!?」

見事に波打ち際へ一直線。棒でスイカどころか貝殻を突いていた。

「......次、ウチ行っていい?」

朱里が笑いをこらえながら前に出た。

「よっ、朱里、頼んだ!」

「さすがにここまで外したら、当ててほしい!」

同じように回された朱里は、途中まで順調に歩き、ぴたっと立ち止まると―――。

「えいっ!」

バシン!

見事に命中!

「やったー!!」

「すっげぇ、当てた!!」

「やっぱ朱里、最高ー!!」

スイカはパカッと気持ちよく真っ二つ。

スイカは真っ赤で、黒くつやつやした種。まるで宝石のようだった。

「うわ〜めっちゃ美味しそ〜!!」

「もう待てない!いただきまーす!!」

みんなで手に取り、大きくかぶりつく。

甘くてジューシーで、ほてった体に染み渡る。

「夏、最高......!」

蒼真がぼそっと呟く。

「来年も来たいね〜、こういうの」

私が笑う。

「その時こそ彼女と......」

「ないない」

健太の淡い希望を委員長が一刀両断した。

「俺にも可能性くらい残しておけよ!」

海辺に響く笑い声と、波の音。

砂に足を埋めながら、私達は真夏の一日を、確かに噛みしめていた―――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ