十一話
初夏の暖かい日差しの中、学年全体での課外授業バス旅行が始まった。
行き先は奈良&京都の歴史スポット巡り。バスの中では、自由席。
「俺、バスの中で酔うんだよね〜......」
前列に座っている健太は座席に座るなり、既にぐったりとした顔になっている。
「まだ出発して三分だけど」
蒼真は呆れつつも、紙袋を健太の手に渡した。
「これは“お守り”ってことで......」
「ありがたすぎて泣きそう......」
一方、隣の席では朱里がガイドブック片手にテンションMAX。
「京都にさ、ウチの推しの刀があるんよ。『三日月宗近』ってやつ。“みかづっきー”って呼ばれてる」
「そんなアイドルみたいなノリなの!?」
笑いながら窓の外を見た。
青々とした木々が流れていく景色の中、後ろの席では委員長が静かに分厚いノートと睨めっこしていた。
「委員長......ガイドブックに付箋貼りすぎじゃない?」
「旅行は計画から始まってる。効率的に回るための最適解を出しているだけだ」
「でもイインチョーがウチらと同じ班って新鮮かも。何の係だった?」
「バカが迷子になるのを止める係」
「やっぱりそうか!!」
無事、奈良に到着。
バスが奈良公園に到着すると、わらわらと私達は定番の鹿エリアへ直行。
「うおっ、近い近い近い近い!」
健太が鹿せんべいを手にした瞬間、五匹の鹿が猛ダッシュ。
「誰だ、あいつに持たせたの!!」
蒼真が叫ぶが遅かった。健太は鹿に囲まれ「人間やめたい」とうずくまっていた。
朱里はというと......
「おい、さっきの鹿!ウチのスカートかじっただろ!!」
「鹿相手にマジギレしないで!?」
委員長はその横で大仏様に手を合わせていた。
「大仏様......あの人達、どうか無事に学年戻ってこれますように......」
奈良の騒動を乗り越え、次にバスが向かった場所は京都。
班ごとの自由行動で、私達が訪れたのは金閣寺と清水寺。
「金ピカ!ゴージャス!!」
「お前、語彙力ゼロか」
委員長がため息をつく。何やかんや言って委員長も楽しんでるよね?
それから、ぶらぶらと京都の街を散策する。
「俺、抹茶アイス買ってきた〜!」
「何してんだ!バカ四天王!!買い食い禁止って言われてただろ!?」
委員長が叫ぶも、時すでに遅し。
蒼真、朱里、健太、そして私が見事に全員違反して先生に連行される。
「全員、反省文だな......」
「ダメって言われたらやりたくなるよね。分かる」
「これが“味の代償”か......」
「でも美味かった......」
先生に連行されていく私達を見ながら、委員長がぽつりと呟く。
「まぁ、これも思い出......なのか?」




