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向日葵をあなたに  作者: 宇多良 和笹
ポビーを魔女に

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9ページ目 踊らされる少女

肉が焼ける匂いとと紅茶の甘い匂いが混ざり合う。眼の前には心臓に穴の空いた神埼が驚いた表情を見せていた。力なく倒れる神埼。彼の下に血溜まりができる。大きな赤い円が広がる。


「え、あ、え?」

「・・・」


私の心音だけが部屋に響く。冷や汗が止まらない。黒くドロドロとしたあの感覚がどんどん増えてく。また人を殺してしまった。真っ赤に染まった両手が震える。


「また、殺しちゃった…」


私の言葉だけが響く。事実を受け止められないず、ふらふらと神埼の方に足が向く。私は近づき本当に死んだか確かめる。

脈がない。心臓は動いてない。呼吸もしてない。こんな血が流れてて生きてる方がおかしい。

ドロドロとしたものが増えていき溢れそうになる。このまま私を飲み込む勢いで増えていく。どんどん体が重くなる。もしこの重さに体を委ねたら私は楽になれるのかもしれない。いつの間にか持っていた銃を頭に当てそっと引き金を引こうとする。

だが、小さな疑問がギリギリのところで私を引き止める。普段なら見逃してしまう本当に小さくて些細な疑問。

―――顔が“きれいすぎる”。

最初に入れた蹴りの負傷が治るならまだわかるが、ゴム弾での負傷が治るのは説明つかない。普通なら2週間以上かかる怪我だ。それが急に治るなんてありえない。もう一度よく神埼を観察する。心臓の出血も止まり傷がきれいに塞がっている。

小さな疑問が結びつき一つの結論を出す。


「もしかして、神埼の禁書は不死…?」

「・・・。」


神埼はすっと起き上がり私を見つめた。そしていつもの笑顔になる。頑張ったご褒美なのかそっと頭に手を置き撫でる。あの心地良い温かさが体に流れ込む。あの不快なドロドロは消えて体が軽くなる。

そして、急に世界が滲んでいく。何かが頬を伝う。


「泣くほど心配でしたか?」

「・・・」


涙が止まらない。手で何度も拭ってもずっと流れる。色々言いたいのに声が出ない。言わなきゃいけないことがあるのに、言葉がつっかえてなかなか出てこない。


「少し遊びが過ぎましたね。大丈夫ですよ。あれぐらいでは死にません」

「・・・ごめんなさい」


絞り出すかのように言いたかった物が出てくる。神埼はすべてを受け入れたかのように私を撫で続ける。


「ふふ、いきなり魔法を出したときはびっくりしましたが私の体は少し特殊ですので平気ですよ」

「よかった」


自然と涙は止まり少し落ち着く。呼吸も、鼓動もいつも通りに戻ろうとしていた。

安心したせいか体の力が抜ける―――いやこれは違う。安心したからじゃない。

鼻血が出てきた。急に視界がぐるぐる回る。急な体の変化で受け身が取れず倒れる。しかし体に痛みはない。どうやら神埼が受け止めてくれたらしい。


「あれ、なんかたてにゃい」


呂律も回らず頭がとてもふわふわする。景色がぐるぐる回ってとても気持ち悪い。自分で立とうにも全身の力からが抜けていて指一本も動かせない。わけも分からずにいると神埼が説明してくれた。


「おそらく魔法を使った影響でしょう。少し休めばもとに戻りますよ。観測の続きは休んでからにしましょう」


神埼が私を抱えて部屋へ戻る。無言がとても気まずい。20歳にもなってお姫様抱っことは…とても恥ずかしい。


「さっきから顔が青くなったり、赤くなったりあなたは本当に面白い人ですね」

「うるしゃい」


なされるがまま抱っこされて部屋につく。優しくベットに下ろすと神埼はベット横の椅子に座り本を読む。

一時間ほどすぎると大分落ち着き体力が戻ってきた。神埼は特に気にせず本を読み続けている。正直動いたからお腹が空いて仕方ない。またあのステーキが食べたいな、なんて考えているとお腹がなってしまった。


「すみません」

「・・・?そういえばお昼がまだでしたね」

「だいぶ体調も良くなったので食べに行ってもいいですか?」

「一緒に食べに行きましょうか」


食堂に行くと昨日の夜食べたステーキが用意されていた。私は食べようとしたがふと一つの疑問が浮かび手が止まる。昨日は何も考えず食べてしまったがこれ食べても本当に大丈夫だろうか?いや、今のところなにもないから大丈夫だろうけど。少し気になったがここまで来たら食べ物がもったいないので食べてしまうことにした。

美味しさは昨日と変わらず溢れ出す肉汁にほっぺが落ちそうになる。野菜も新鮮でとても美味しい。うん、残すのやっぱりもったいないから全部食べよう。


「いつ見てもいい食べっぷりですね」

「まあ、ここの料理はとても美味しいからね」


神埼は昨日と同じく見ているだけ。この人は一体私に何を求めているのだろう?笑顔の裏に隠されてるものが見えない。なぜ自分を殺した人と笑顔で一緒にいられるの?神埼の見えない腹の底に少し疑問を持つ。しかし、今のところ危害などはないので後回しにした。今はこの食事を全力で味わうことにしよう。

一通りご飯を食べ終わると私は観測の続きをすることにした。早くファム・シャル・ロッテを改変から解放してあげたいというのもあるけど、なにより神埼から少し距離を置きたい。いくら危害を加えないからと行って不気味な人とずっと一緒にいれるほど私のメンタルは強くない。それにいつまでもここでダラダラしているわけにもいかない。早く自分の記憶を取り戻したい。


「観測に行ってくるよ」

「わかりました。気をつけてくださいね」

「わかった」


私は足早に食堂を出て世界の欠片の前に行く。いろいろなことが頭の中をぐるぐると回る。ファム・シャル・ロッテのことも、神埼のことも、そして自分自身のこともすべてが謎に包まれたままだ。一つ理解すると複数の謎が湧き出る。


「はあ、悩んでも仕方ないか。頑張れ自分、これが終わったら美味しいワインをたくさん飲むんだ」


自分を鼓舞し、禁書と向き合う。今度はファム・シャル・ロッテとわかりあえたらいいな。そんな希望を持って私は観測に向かった。

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