8ページ目 能力を知る少女
照準を神埼に合わせ撃とうとするが引き金を引く指が重い。手が震える。もしここで撃ったら?至近距離では神埼は避けれない。ファム・シャル・ロッテを撃ち抜いた感触、撃ち抜いた光景が体から抜けない。
撃てなかった。神埼はこのチャンスを逃さない。銃を構えて固まっている私に木刀を振るう。銃が弾かれる。横からまた木刀が迫りくる。
避ける?いやこれ間に合わない。受け流そうにも銃を上に弾かれた状態だからこれも無理だ。ならせめて…
木刀が右脇腹に当たると思われていた。右足で軌道をずらす。勢いが失われるが、無理に受け流したせいか当たった足ががずきずきと痛む。痛む足に無理やり蹴りにつなげる。神埼の顔に入る。
「随分と足癖が悪いですね」
「なんの説明もなしに木刀振り上げる神父も異常だけどね」
「これでもハンデをあげてるのですよ。私近接武器の中でも刀はあまりうまく扱えないので」
「にしては結構器用に扱えてるよね」
私は皮肉を言いながら彼を睨む。神埼は鼻血をポタポタと垂らしながらこちらを見る。笑いながらまた刀を構える。いつもと同じ笑顔なのにそこからはあの時私が陥った狂気と同じに見える。心臓が一気にうるさくなる。呼吸が荒い。落ちつけ、相手は木刀だ。死ぬことなんてない。
再び銃を具現化する。今度はリボルバーを具現化する。だが、中身は実弾ではない。
銃を構える、そして引き金を引く。大丈夫、当たっても死なない。
頬を伝う汗。私はそっと息を呑み覚悟を決めて―――引き金を引く。
ドンという空気が低く破裂する音とともに殺傷力の低いゴム弾が放たれる。神埼は驚いて回避が遅れる。放たれた弾は神埼の額に命中する。少しふらつき数歩後ろに後退りする。当たった場所は青くなっていた。
「結構痛いんですけど」
「私だって右足に木刀が当たって痛かったからおあいこだよ。」
「それもそうですね」
ここで追撃するべきか?いや、今回は神埼の能力を当てれば終わりだ。私は銃をしまい素手での戦闘を選択する。一呼吸置き、神埼を見つめる。
神埼は待っていたと言わんばかりに笑顔でこちらに向かってくる。リーチがこちらが不利。しかし体が小さい私のほうが被弾面積も少ない。更に私のほうが神埼よりも瞬発力に優れている。
神埼はフェイントを入れながらこちらに仕掛ける。私は姿勢を低くしながら攻める。迫りくる木刀。私はそれに合わせて拳を添える。木刀は弧を描き完璧に受け流す。両手が自由に使える分受け流すのが楽だ。
できた隙に合わせて蹴りを入れるが、避けられてしまう。わたしは 次の攻撃に備える。
木刀の軌道をしっかり見る―――この行動が裏目に出る。
神埼は少し距離を取ったあと、まっすぐ突っ込んでくる。木刀は大きく右からくる。受け流せるからのカウンターが決まる。そう思っていた。
私は忘れていた。床の銃がないことに。気づくのが遅かった。神埼がそっと木刀から手を離す。私は木刀から目を離せずにいた。神埼から注意がそれてしまう。世界の動きがゆっくりになる。神埼は私の耳元で私が最初に落とした銃で発砲する。
耳を轟音が貫く。視界が真っ白になる。喉がきゅっと締まり声が出ない。
「あ…あが…ぐっが」
「・・・」
神埼が言っているようだが何も聞こえない。私の頭の中には耳鳴りだけが響く。
平衡感覚が失われ上下左右、世界が回る。筋肉は硬直して動けない。息が詰まる。
神埼は何かを宣言したあと、満足そうにあの笑顔でこちらを見つめる。
戦いは終わった。誰もがそう思っていた。
私の禁書が落ちて開く。
ひとりでにページがめくれ、ある場所で止まる。
無意識に、だがそれが必然であったかのように。
まるで世界が―――神がそれを望んだかのように。
物語という名の運命を綴る。
―――罪人は裁くものですのよ
突然の出来事で私も、神埼も動けなかった。
淹れたての紅茶と甘いケーキの匂いがほのかに香る。
そこにはいないはずの友人がいた。
あの優しくて、温かい魔女が指を指して微笑んでいた。
空気が焦げるとともに正義の炎が形を取り始める。
気づくと―――炎のレイピアが神埼の胸を貫いていた。




