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向日葵をあなたに  作者: 宇多良 和笹
ポビーを魔女に

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5ページ目 倒れぬ少女

白い天井、白い壁、白いベッド、世界の色がまだ戻らない。機械のピッピッという電子音だけが響く。隣には神埼が座って本を読んでいる。どうやら私は架空図書館リバリルに戻ってきたらしい。

意識がだんだんはっきりしていく。いろいろなことが頭の中に流れ込んでくる。私が人殺しだったこと、笑いながらファム・シャル・ロッテを殺そうとしたこと。そして―――自分が圧死したこと。

思い出した嫌な記憶は黒くドロドロとしたなにかに変わっていく。抑えようとしてもどんどん増えて溢れてしまう。やがて耐えられなくなった私の心は壊れてしまう


「う、うああああああ。あ、あああああああああ」

「おかえりなさい。観測はどうでしたか?」

「う、死にたくない。死にたくない。死にたくない」

「そうですか、死にましたか。大丈夫ですよ、今は生きてますから」


発狂している私を気にせず神埼は続けて話す。私の頭の中には何かが這いずって気持ち悪い。腹を貫かれた痛みがまだ残っている。大木に潰されて炎で体が燃やされたあの感覚が今でも離れない。だが、一番つらいのは自分が殺人を楽しんだことだった。笑いながら銃口を向ける私が、彼女の冷たい目が、頭から離れない。私は思わず胃の中のものを吐き出してしまう。胃酸の匂いが鼻をつく。しかし、木々が燃える匂いと硝煙の匂い、そして濃い血の匂いが鼻の奥に残る。私は黒い何かが出ないように口を抑えながら神埼に助けを求める。


「どうしたんですか?何かありましたか」


目の前の男は微笑みながらこちらを見つめる。私が発狂しているのが見えないかのように語りかける。私は必死に助けを求め続ける。服が汚れるのも構わず、彼の手に―――あの温かさにすがろうとする。


「言ってくれないとわかりませんよ」

「う、うう。なで、なでて。うぐ、うへぇ。あ、あの時、みたいに」

「そういうことですか」


彼はやっと理解したか、頭を撫でる。黒い何かがすっと消えていく。土砂降りの雨が止むように涙が止まる。やがて心のなかにあの温かさが流れていく。それはとても心地よく頭がどんどんふわふわいていく。

ある程度落ち着くと神埼は撫でるのをやめた。


「とりあえず今日は休みましょうか。一日にいろいろなことが起きて混乱していると思うので」


思えば、ここに来るまでに風呂に入ったり、ご飯を食べたりと普通の日常を送った記憶がない。私にできた空白の存在は思った以上に大きいらしい。

神埼に案内にされ浴場に着く。私は改めて思う―――ここ架空図書館リバリルは施設が充実している。浴場も温泉旅館並みの広さと施設の豊富さがある。シャワーで様々な汚れを洗い流す。私のあの感情も水と一緒に流れていけばいいのに―――そんな馬鹿なことを考えながらゆっくり湯船に浸かる。改めて自分の体を見つめる。脇腹にレイピアのあとはない。きれいな肌だけがそこにある。まさに健康体そのものだった。体の筋肉がゆっくりとほぐれる。湯船に入ったのはとても久しぶりに感じる。私が殺人鬼か。銃の引き金を引くあの感覚が手から離れない。前の私は言った何を考えながら引き金を引いたのだろうか。考えても考えてもわからない疑問を放り投げてお風呂を出た。

浴場を出ると神埼がいた。彼は私に気がつくといつもの笑顔で話しかけてくる。


「ゆっくりできましたか?」

「ありがとう。その…後片付けまですみません」


医務室での惨状を思い出し罪悪感に駆られる。私が平謝りしていると神埼が説明を付け加える。


「架空図書館リバリルには現在私とあなたしかいませんので大丈夫ですよ」

「え、じゃあ浴場の管理とかも一人でやってるの?」

「いえ、個々の施設の殆どは世界の禁書のエネルギーによって運営されています。なのでいつ誰が使っても完璧な状態で提供されるのですよ」

「そしたら料理とかも私が食べたいものが勝手に出てくるみたいなことがあるんだ?」

「ええ、そうですよ」


冗談で言ったはずがどうやら本当にそうらしい。いや、よく考えれば魔法が使えたり、禁書を開いたら想像したものが出てきたりとここは私が知ってる常識が通用しない場所だった。ほぼ諦めたかのように知らないことを受け入れていく。

今日は色々と疲れたせいか頭が回らない。神埼に連れられ何処かに着く。目の前にはとても美味しそうなステーキが一枚。なんかもう、食事に何か盛られてもいい。とりあえず食事を終わらせて早く寝たい。ステーキを適当に切り、大きなひとくち。


「・・・美味い!」


ステーキが舌で溶ける。甘みのあるしかししつこくな脂身。弾け飛ぶ肉汁。絶妙な焼き加減で焼かれた究極のステーキに理性が弾け飛びそうになる。さっきまでなかった食欲が急に湧き出る。一口、また一口と食べていき完食してしまった。神埼はいつも以上に笑顔でこちらを見つめてくる。


「それほど美味しかったですか?」

「うん」

「おかわりもありますよ」


神埼の言葉に目を輝かせる。あんなに美味しいものがお腹いっぱい食べてるのか。案外いいところかもしれない架空図書館リバリル。ステーキ以外にもセットメニューで様々な物が出てきた。フカフカを超えた究極のパン。新鮮な野菜のサラダ。美味しいワイン・・・は今回遠慮しといた。だがそれ抜きにしてもとても満足の行く食事だった。ただ食事をしただけなのに心が満たされてとてもポカポカする。

心もお腹も満たされたになったところで部屋に帰された。質問とかは後日と言われたが今日のうちに聞きたいことをまとめたい。

まず一番気になっていることは「なぜ生きているのか」。たしかにあの時私はファム・シャル・ロッテとともに大木に潰されて圧死した。しかし今私の体はピンピンしているし、傷一つない状態だ。その理由によっては今後の行動も大きく変わってくる。

次に「観測は具体的に何をすればいいのか」。予測では禁書の持ち主を観察すればいいと思ってる。だが今回みたいに殺してしまっても観測が可能なのか。色々細かい説明も聞きたい。

最後に「禁書について」。私が死ぬ間際にした想像したものが具現化される現象についても聞きたい。あれは魔法なのかそれとも禁書の能力なのか。どの範囲まで具現化可能なんか。それに、あの声の主は一体誰なのか。疑問点を上げたらきりがない。

他にも「魔女」や「魔法」のことだって聞きたいし、「ファム・シャル・ロッテ」のその後も聞きたい。それに、神埼は私にろくな説明もせずに観測を初めたからそれについてもいろいろと問い出さないとな。

ある程度考えがまとまったところで私は布団に潜る。本当に今日一日でいろいろなことが起きた。

私はじっと手を見つめる。

健康的で傷一つないきれいな手。だが私は知ってしまった―――この手がとても汚れていることを。

ここに来るまでに感じてた嫌悪感はきっと私が殺してきた人の怨念だろう。こんなに幸せでいいのだろうか。ふとそんな考えがよぎる。けれど、重たくなったまぶたにしたが睡魔と仲良くするのだった。

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