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向日葵をあなたに  作者: 宇多良 和笹
アイビーを土蜘蛛に

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26ページ目 叱られる少女

白い天井。鼻に残る部屋独特の匂い。見覚えしかない。病室だ。どうやら私は()()()()()()()気を失ってしまったらしい。いつも通り神埼は読書をしている。シャルは力を使い果たしたせいか手のひらサイズの可愛らしいフォルムに戻っていた。


「えっと…おはよう?」


起きたことに気づくなりシャルはこちらに飛び込んでくる。忙しなく私の周りを飛び回る。


「目が覚めて良かったですわ!わたくし、本当に、本当に…」


ポロポロと涙を流すシャル。私はそっと撫でる。神埼も気づいたのか本を閉じて私に話しかける。


「おはようございます。体調はいかがですか?」

「なんともないよ。それより…何があったの?」

「そこの愚かな魔女が加減もせずに最終章観測を行ったせいで死にかけたんですよ」


静かに神埼はシャルを睨みつける。シャルは怯えて私の手の中に隠れる。これは相当怒られたらしい。なんだかシャルが可哀想に思える。シャルを慰めつつ、私は神埼に詳しい状況を尋ねる。


「えっとその最終章観測って何?」

「禁書の切り札みたいなものです。司書は何かと危険がつきものですからね」

「へぇ、じゃあ私も使え…」

「ないですよ」


食い気味に神埼は答える。シャルが怯える理由が少しわかる。なんだか少し怖い。いつもと変わらない彼の優しさなのにどこか言葉にできない違和感がある。


「最終観測は禁書の運命を相手に強制させるものです。今の貴方は強制させる運命そのものが無いのですから使えるわけ無いですよ」

「そうなんだ…」


多少の違和感を抱きつつ話を聞く。あれだけ食い気味に言われてしまったのだ。きっと使えない以上に使ってほしくないのかもしれない。


「・・・すみません。少し感情的になってしまいました」


いつもの笑顔になる。何の変哲もないいつも通りの見慣れた表情。


「こっちも迷惑かけてごめんね」

「ええ、私はみなさんが無事ならいいんです」


―――【規制済み】さえ無事ならいいんです。


誰かの言葉が重なる。いつどこで誰が言ったのかもわからない。それでも私の大切な人が言っていた気がする。


「大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫。少し休憩したあとにまた観測に戻ろうかな」

「そうですか。では私は部屋に戻りますので何かあったら呼んでください」


そう言って神埼は部屋に戻っていった。シャルは泣きつかれたのか手の上ですやすやと寝ていた。私は起こさないようにゆっくりと起き上がる。

さっぱりしたい―――無意識で私は浴場に向かっていた。


「風呂ですの?」


シャルも起きたのか目をこすりながら起き上がる。


「おはようシャル。こっぴどく怒られちゃったね」

「・・・ええ、そうですわね」


少し重い空気が流れる。どうやら思い出すのも嫌らしい。


「お風呂入ってリフレッシュしよ!」


私は無理にでも元気に振る舞う。いつものシャルに戻さなきゃ困る。


「わかりましたわ」


シャルは私の手のひらから降りて幼女の姿になる。どうやら少しは戻っただろう。


「やっぱりこの大きさぐらいがちょうどいいですわ」

「いつ見てもすごいなぁ」


体の改造…というより変化に近いのだろうか。服を脱ぎながら改めてシャルを見る。2mの身長だったり、こうやって女児の姿だったり15cmぐらいの大きさになったり、魔女というのは本当にすごいな。


「あら、わたくしの体が気になりまして?」


幼い体と声、忘れがちだが中身はあのシャルだ。魔女のことはよくわからないけどこの世界では普通のことかもしれないし、あまり気にするべきことではないのだろう。

体を洗いながら考える。私の最終章観測はどんなものなんだろう。あの神埼が食い気味に止めるぐらいだあまりろくなものではないのだろう。私は一体どんな運命を背負って生きていたの?一体どんな残虐で不幸な人生だったのだろうか?考えても考えても終わらない問いに今はため息しか出ない。


「なにか考え事ですの?」

「うん。私はどんな人生を送ったのかなって」


体の古傷を指でなぞる。大小さまざまな傷。普通ならつかないであろう傷もたくさんある。手に馴染んだ銃の感覚、入浴中でも解けない警戒心。それに神埼と初めて会ったときに見たあの数々の死体。きっと私は平凡とはかけ離れた人生を送っていたのだろう。


「あら、そんなことですの。そんなの今考えなくてもよくて?」

「え?」


予想外の答えに驚いてしまう。


「改変による忘却はどれだけ努力しても元には戻りませんわ。そんな無駄な努力に時間と労力をかけるのではなくて観測に全力を注いだほうがいいですわ」

「それも…そうか」


湯船に浸かりながら少し納得する。ここに詳しいシャルが断言するぐらいだ。自分の記憶のためにも観測をするべきなんだろう。

もちろん死ぬのは怖いし、痛いのだって嫌だ。

でも自分の大切な人を忘れたままなのも私は嫌だ。


「よし、観測に戻ろう」


色々寄り道をしたがそろそろ観測に戻らないと。心も体もきれいにして、さっぱりとした気持ちで観測の準備をする。と言っても軽く腹ごしらえをしたり持っていく武器の手入れだったり特別なことはあまりできないけど、それでも準備万端で行きたい。

部屋にコートを取りに行く。何かと危険でいっぱいな観測で武器を隠し持てるほうが何かと良いだろう。あとは機械だからいざとなればワイヤーとかで動きを止めるほうがいいのかな?


「まあ、いざとなれば私が道を切り開くぞ。緑の少年」


振り返ると軍服のよく似合う男、神里が立っていた。随分と久しぶりにあったような気がするけど…気のせいだろう。


「どこに行ってたの?こっちは色々と大変だったんだよ」

「少年。一ついいか?君たちの禁書がとても重要で切っても切り離せないものだ。それと同じように私、いやアーティファクトもこの体自体が本体ではなく物が本体なんだ。私の場合はこれだな」


そう言って見せてきたのはとても古いドッグタグだった。古いからと言ってボロボロというわけではなくしっかり手入れされていた。


「これが壊れれば私は消滅するし、これを持ち歩かないと私は少年とともに観測に行くこともできないんだ。そう、これを持ち歩かなければね」

「・・・あ」


そこで思い出す。そういえばシャルの観測後神里のドッグタグを机においたような置かなかったような。


「頼むよ少年。君には期待しているぞ」

「はい、スミマセン」


この場にシャルがいなくてよかった。もしもシャルが知れば…うん、今度から気をつけよう。

こうして色々な準備を終えた私達は二回目の観測へ向かうのだった。

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