23ページ目 厳しさを知る少女
世界の欠片がいつも通り物語を生み出す。無機質に、ただ無情に、現実を突きつけてくる。神埼はこちらに気づくなり読書をやめて笑顔で迎える。
「おかえりなさい、観測はどうでしたか?」
「・・・は?」
突然のことで驚きが隠せない。いつ私は殺されたんだ?私相手に音もなく?どうやって?
その問いに答えるようにシャルの口が開く。
「禁書の持ち主様が亡くなったのですわ。完全に油断しましたわ」
「そっか、私だけじゃなくてマキナのことも考えなきゃいかないのか」
「ええ、わたくしも失念していましたの。琴音は悪くありませんわ」
「どうしよう…」
「反省会の前に休憩するのはどうでしょうか。私で良ければ相談に乗りますよ」
「いいですわね。三人寄れば文殊の知恵ですわ」
「そうだね。この前のカフェでいいんじゃない」
「決まりですね」
私達は食堂横のカフェに向かう。席につくなりシャルは魔法で3人分の紅茶を出す。神埼は色とりどりのマカロンを持ってくる。私もなにか出したほうがいいと思い、禁書でシャルの観測のときに食べたケーキを3人分出す。紅茶のいい匂いとお菓子の甘い匂いがカフェ全体に広がる。
「始める前に少し失礼しますわ」
そう言うとボンッという音ともにシャルの体から煙が出る。煙が晴れるとそこには幼児化したシャルの姿があった。本来の大人びたシャルとは違いとても可愛らしい。
「御免遊ばせ。あの姿ですと少し疲れてしまいますの」
「どんな姿でも私は大丈夫」
「さて、準備もそこそこにそろそろ観測について考察タイムといきましょうか」
魔女の幼女に、神父、私の視界がカオスなことになっているがそんなことはよそに考察が始まっていく。
「まず、観測が終わった理由についてだけど…」
「それは禁書の持ち主が亡くなったからですわ」
「その根拠は?」
「琴音が休まれてから数時間後に工房方面から爆発が起きましたの。おそらくそれが原因かと思われますわ」
「となると、あそこで宿にはいかず近くで待機のほうがいいね」
「ええ。それに対象を守るのであれば琴音様が万全の状態でなければいけませんわ」
「たしかにそうだけど、シャルが動けたら大丈夫では?」
「前も説明しましたけど今の私は以前の力の半分も出せませんの。魔法の種類や威力は保証できませんわ。あくまでも威嚇程度になりますわね」
「うーん。そしたら最初に襲っていたアンドロイドはどうしようかな?」
あのアンドロイドは動きは単調でも私が本気で蹴らないとびくともしなさそうな耐久力だった。銃が効かない以上素手での戦闘が必須になってくる。かといって本気で殴ったりすれば次は腕が使い物にならなくなってしまう。
陶器の当たる澄んだ音だけがカフェに響き渡る。その沈黙を破ったのは神埼だった。
「それではアーティファクトにまかせてはいかがでしょう」
「その手がありましたわ!あ、ですが…」
「そういえばあの人どこに行ったんだろう?」
「アーティファクトは良くも悪くても自由ですから。そのうち帰ってきますよ」
まあ、猫みたいなものと思って頼りすぎないぐらいがちょうどいいのかもしれない。次の観測までに会えるといいな。そんなことを考えながらケーキを口にする。さっぱりとしていてだけど上品な甘さがある。自分が出したものだからなにか仕掛けられているという心配もしなくていい。ケーキの美味しさに舌鼓を打ちながら次の話題にうつる。
「次は、観測の進行状況だけど。多分最初の進行条件は虎兄さんを助けることだと思う」
「異論ありませんわ。彼のお陰でマキナに会うこともできましたし、禁書の世界観についても知ることができましたの。少なくとも助ける価値がありますわ」
「そうだね。司書としてアドバイスするなら印象に残った人物ってのは何かしら禁書の持ち主に接点があるから手助けしてあげると良いですよ」
「うーん、あとはマキナを生存は絶対だけど…」
なにか重要なことを見落としてる気がする。なんというか観測に無駄な時間が多いような気がするし、なにか回収し忘れたフラグがあるような。
紅茶を飲みながら考える。そもそもなぜ工房で爆発が起きたのか。シャルの観測を参考にするなら観測で起こった出来事の一つ一つに意味があるのだろう。
シャルの禁書での空間ではシャルの心情の変化に合わせて周りの森がどんどん燃えていった。シャルの使う魔法が処刑に関するものだったのも「断罪」というものから来てたからだと思う。となると今回は虎兄さんに教えてもらった三派閥が深く関わってくるのだろう。何より今は情報が足りなさすぎる。
「すごく悩んでいますが結局観測とはトライアンドエラーです。とりあえずはマキナの護衛に集中してはいかがですが?」
「うん、そうしてみるよ。ありがとう神埼」
「いえいえ、お役に立てたならなによりです」
ティーパーティーは終わり解散する。
「神埼もなにかあったら言ってよ。いつでも相談に乗るよ」
何気ない一言だった。
「・・・ありがとうございます」
何の変哲もない返事。だけど私の中ではほんの一瞬見せた神埼の感情―――強い憎しみが脳裏に焼き付いて離れなかった。




