22ページ目 嫌悪感を感じる少女
虎兄さんに連れられ階段を上がっていく。二階が応接間なところなんだろう。一階の作業場とは違いとてもきれいなところだった。向かい合ったソファーにガラスの机。近未来でもそこは変わらないらしい。
「とりあえず〜どこまでここについてしてるのか教えてほしいな〜」
「今渡した銃がここで作られてるってことぐらいかな」
「そっかぁ〜。じゃあまずここ【削除済み】について教えるね〜」
またあの不快な音が響く。シャルを見てみるが特に反応がない。私も何もなかったかのように自然に振る舞う。そんなことを思っている私をよそに虎兄さんは装置を出したかと思うとそこからホログラムのマップが映し出される。虎兄さんは手際よくズームし、見覚えのある場所が見える。先程ドンパチやらかした繁華街だった。
「まずここ【削除済み】は科学と工業が発展した都市になってるんだ〜。人間が開発したとされる人工知能を搭載し、機械自体が考え行動するアンドロイド。今では都市の人口の7割を占めるぐらいにはいるかな〜」
「確かに、人間って呼べそうな人は殆ど街で見かけなかった」
「うん。労働のほとんどが人間よりも器用にかつ効率的にできるからね〜」
「じゃあ、その君やマキナみたいな人たちは一体…」
「僕達は人造人間だよ〜」
そう言って虎兄さんが機械をいじるとホログラムの映像が変わった。そこには私達、人間が写っていた。
「アンドロイドの普及とともに、人間を開発しようっていうブームがまき起こったんだよ〜」
次に見せてきたのは見たことのない遺伝子構造と角が生えた人間だった。人間の面影はなくはないけど、完全にエイリアンとか、宇宙人の域だった。
「そのブームは科学者や貴族から始まり、一般市民にまで広がったんだよ〜。特にここは妖怪とか八百万の神々の伝承が根強くあったからそれにあった改造をしていく人が多かったんだよ〜」
「では、皆様方は元人間という分類でして?」
「いや、今いるのはその子孫って人がほとんどだよ。だから正真正銘人間ってのはほんとに少数だね〜。今じゃあ改造しない人なんてアンドロイドにも人造人間にも実力で勝てないから差別する人がほとんどだよ〜」
虎兄さんの説明とともにどんどんホログラムの映像が変わっていく。人間からどんどんそうでない何かに変わっていく。変わっていくたびに私の中のあの気持ち悪い感覚が増えていく。眼の前のものに対する拒否感がどんどん増えていく。やがて私の禁書に再び刻まれる。
私の知りたくない記憶がノイズのように映る。複数の白衣を来た不気味な人が私の体に何かを注入したり、体のあちこちにメスを入れられる。それでもあの人達は笑って事を進める。痛くて、苦しくて、死にたくない。
「あれは私の最高傑作だ!」
あの男の声と同時に映像は消える。
あまりの気持ち悪さに手で口を覆う。ただ映像なのにアイツらの手の温かさが、注射の針の感覚が、メスで切り裂かれる痛さが、嫌な笑い声が体に残る。ドロドロとしたなにかが抑えきれないぐらい膨れ上がる。
「大丈夫〜?顔色がすごいことになってるけど〜」
「そうですわよ。何かありまして?」
「・・・」
「琴音?」
―――早く観測に戻れ、お前の存在価値を思い出せ
聞き覚えのある女性の声。私が一番キライなあいつの声だった。
あいつの声だが、頭がスッキリする。別にあいつに従うわけじゃない。だた言ってることは一理ある。
「あ、あぁ。だ、大丈夫。少し嫌なことを思い出しただけ」
「そうですの?あまり無理はしないでくださいまし」
その場は誤魔化す。あまり観測中によそ見をしていると重要なことも見逃してしまう。私は無理やり心を切り替えて観測に集中する。
「何度も中断してごめん。説明を続けてほしい」
「無理はしないでね〜。嫌なときははっきり言ってね〜」
「ありがとう」
「それじゃ、ここのカーストと主要組織について説明するよ」
「お願いしますわ」
「まず、カーストについてだけど大きく分けて3つだよ〜」
そう言ってホログラムに三角形が映し出される。言われた通り大きく3つに区切られている。
「まず一番下ここは人間。琴音のように改造されてない人たちがここに振り分けられるね。人数も少ないよ〜。次に僕達改造人間。まあその殆どはその子孫のことが多いかな。最後にアンドロイドたち。トップに居るだけはあって性能は優秀だよ〜」
「性能は…ね」
「そうだね〜。アンドロイドの殆どは人間差別主義者だね〜。人造人間はアンドロイドを嫌う奴らもいれば、人間を差別するやつもいる。まあ、そこら辺は君たちと変わらないかな」
「どの時代も差別というのはありますのね」
「そうだね〜こればっかりは生物の性だからね〜。君たちも出かけるときは気をつけたほうがいいよ〜」
壊してしまったアンドロイドも私のことを劣等種と言ってたことから本当に差別がひどいのだろう。そりゃあの繁華街で人影を見ないわけだ。少し悲しい気持ちになる。
「次に主要組織について話すよ〜。主要組織は大きく3つ、“原点連合”、“アイアンズ”、“工房スパナッシュ”だね〜。それぞれ特徴的なシンボルと主義を持ってるから見ればわかると思うよ〜」
「それぞれどんな組織なの?」
「原点主義連合はその名の通り原点、つまり改造のされてない体こそ至高っていう考えの人たちの集まりだよ〜。人間はもちろんアンドロイドも旧式…君の銃がつかわれてた頃のフォルムを好む人達の集まりだね〜」
そう言ってホログラムで映し出されたのは星の中に人間のシルエット、それに祈るかのように無数の手が描かれている。
「次にアイアンズ。原点主義連合とは違って改造こそ至高といった考えの集まりだね。よく原点主義とアイアンズは敵対してるから気をつけてね」
ホログラムにはアイアンズのシンボルマークが映し出される。バケツからなにかからたれている。それをすくい上げる手、しかしその手は人間とはかけ離れた機械のような手だった。
「最後に工房スパナッシュだね〜。僕達のような技術者や科学者の所属する組織だよ。特許の申請とかをまとめてる組織で言っちゃえば労働組合とかそういった労働者のための組織だね〜。特に主義とかはないけど人数は多いかな」
ホログラムには歯車に工具とシンプルなマークが映し出されている。ほか2つと違ってとてもシンプル。おそらくそういったことにこだわりはないのだろう。
「まあ、今日はこのくらいにしようかな〜。ふたりとも一気にいろんなことを話したから疲れたでしょ。それにせっかく来たのにただ話を聞くのはつまらないしね〜」
「話してくれてありがとう。今日は近くの宿にでも泊まろうかな」
「そしたらここを出た先に宿があるんだ〜。ここらへんは工房スパナッシュの人が多いから安心しな〜」
「感謝しますわ。それでは」
「うん、こっちの作業が終わったらこれで知らせるよ」
渡されたのはここにあるホログラムの機械に似たものだった。大きさは半分程度で持ち運びに便利そう。
「これは?」
「マイクロニカっていう通信機だよ。何かあったときに便利でしょ〜」
「何から何までありがとう」
「うん、じゃあまたね〜」
そう言って私達は工房を出て宿に向かう。宿主は暖かく歓迎してくれた。どうやら先に虎兄さんがお代を払ってくれてたらしい。借りた部屋は豪華とは言えないが昔ながらの温かみのある部屋だった。一安心してベッドに寝転がる。そのまま、今日の疲れを癒やす。明日も続くであろう観測に期待と不安を抱きながら目を閉じる。
―――次に目を覚ますとそこは世界の欠片の前だった。




