21ページ目 土蜘蛛に出会う少女
「おかえりっす虎兄さん」
「ただいまマキナ〜」
頭に立派な角、背中からは本来人間が持っているはずのない六本の長い手。たくましい上半身裸の男性。腰には紫の作業着が巻かれている。身長は神埼より小さいはずなのに筋肉と腕のせいで視界の圧迫感がすごい。
「少し待っててほしいっす」
「あんまりお客さんを待たせるなよ」
巻きなと呼ばれた男は振り返らず作業を続ける。六本の手を自由自在に動かして何かを作っている。技術屋と呼ばれている理由が少しわかる気がする。動きの一つ一つが素人の私でもわかるぐらいには洗礼されていて一切の無駄がない。
一通りの作業が終わったのかこちらに振り返る。マキナも改変のせいか顔に黒い靄がかかっている。しかしシャルの時とは違い黒いモヤは般若の面のようだった。相変わらず相手の顔は見えてないのに表情がなんとなくわかる。
「紹介が送れてすみませんっす。俺の名前はマキナっす。」
「よろしくマキナ。私は琴音。そちらの虎の方の名前は…」
「姉さんが助けたのは【規制済み】っす。気軽に虎兄って呼んでやってくださいっす」
「よろしく〜。マキナこの人さぁ…」
突然甲高い音が響く。それと同時に世界が歪んだような感覚が私を襲った。二人には聞こえてないのか何もなかったに会話を続けている。一瞬の出来事で少し動揺する。これも改変の影響なのだろうか?会話の文脈的に私が助けた虎男の名前だろう。
「大丈夫っすか?」
考え込んでいたせいで二人の会話を聞きそびれてしまった。動揺しているのを悟られないようにすぐに笑顔を取り繕う。
「ん?ごめんごめん。少し考え事しててさ。何の話だっけ?」
「いや、琴音さんがぶっ飛ばしたアンドロイドの話っすよ」
「あのときはやばいと思って力加減もできなくてさ。結構やばいことしてしまったかな?」
「やばいも何も琴音さん知らないんすか?普通の人間がアンドロイドをふっとばすなんて前代未聞っすよ」
「最初に街で見かけたときもそうだけど君ここの住人じゃないよね〜」
「そうっすよね。琴音さん何者っすか?」
「そ、それは・・・」
言葉に詰まる。バカ正直に司書と言っても信じてもらえるだろうか?彼らからしてみれば人間より優れたアンドロイドを軽々と蹴散らした謎の人物。下手したら警察になんてこともある。今自由に動けそうにもないこの状況でそんな事になった観測どころではなくなってしまう。
返答に困っていると思わぬところから助け舟が出てきた。
「ただの観光客ですわ」
振り返るとシャルが立っていた。シャルは丁寧にお辞儀をし、挨拶をする。
「皆様方、ごきげんよう。わたくしの名前はファム・シャル・ロッテ。琴音とともに各地を旅していますの」
「そうだったんだ〜。よろしくね〜」
「まあ、ここに来たのは観光でもありますけど一番はこれですわ」
そう言って出したのは例の銃だった。いつ見ても美しくそして禍々しいフォルム。それに見惚れるのは私だけ―――いや、もう一人それに見惚れる人がいた。
「そ、それは…」
「私がとある人からもらった銃。今回ここによったのはこの中を作った人に会いに来たからだよ」
「お〜これは【削除済み】で作っているものだね〜。ほら、ここの彫刻はうちのものだよ〜」
そう言って指さされたところには蜘蛛と工具の彫刻だった。
「えっと〜名前は…」
「光線収束型小銃、コンバージ・レザーガン。それも弾数を犠牲に威力を上げてる…。こんな改良一体誰が?いやそんなことはどうでもいいっす。少しお借りしてもいいっすか?もちろん使える形でお返しするっすから」
「いいけど何をするの?」
「一度分解して、整備をするっす。必要であれば使いやすくするために改良を…」
―――やっとできたっす!
―――お!どんな感じになった?
―――注文通り威力を極限まで上げたまさにロマン砲っす。
―――いいじゃん、いいじゃん〜。
―――ここに俺のすべてが詰まった最高傑作があるっす。
―――ありがとう。大切に使わせてもらうよ。
懐かしい記憶が流れる。私が失った記憶の一部。私とマキナらしき人物の会話。それが観測を通して私のもとへ戻って来る。
今目の前にあるのは私が信用していた技術者―――いや、人生のすべてを注ぎ込んだ人物の最高傑作。私はそれを壊すことはしたくない
「ごめん、やっぱり使えるようにするだけにしてほしい」
「・・・わかったっす!使い方は後で教えるんでしばらく待っててほしいっす」
「ありがとう」
「じゃあ僕がここについて説明するよ〜」
そう言って私達はマキナと別れることにした。




