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向日葵をあなたに  作者: 宇多良 和笹
ポビーを魔女に

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19/25

18ページ目 幸せに浸る少女

観測が終わり私達は架空図書館リバリルに戻ってきていた。帰ってきた途端ドッと疲れが出てくる。身体的な疲労もそうだが何より精神的な疲れが酷い。

わたしは禁書をもう一度確認する。十数ページ、何か書かれているが知らない言語で書かれているせいで読めない。その他のページも白紙が続くばかり。後どのくらい観測すればいいのだろうか。同じことを後どのくらいこなせあいいのだろうか。そんな不安が私を襲う。

また心のなかに黒いヘドロが湧き出てくる。とても苦しい。必死に押し込もうとすればするほど溢れて余計に悪化する。視界がだんだん滲む。得体のしれない何かに押しつぶされて立っていられずその場に膝から崩れ落ちる。

床の冷たさだけが私を現実に結びつける。静寂の中に近づいてくる足跡が一つ。


「お疲れ様です。無事観測が終わってよかったです」


どこからか神埼が現れる。あの優しい笑顔で近づく。私は涙目になりながら助けを求めようする。しかし、声が出ない。神埼は不思議そうにこちらを見つめる。


「・・・あ。そういうことですか」


神埼はそっと頭を撫でる。あの温かさが頭から全体に流れ込む。不安とともに黒いヘドロが消えていく。呼吸が楽になっていく。自然に涙が止まり話せるようになった。


「ありがとう」

「いえいえ。観測はとても疲れますからね。今日はもうお休みなられますか?」

「夕食を取ってから寝るよ」

「では、私もご一緒にせていただきますね」


二人で食堂に向かう。段々といい匂いがして食欲をそそる。食堂への扉を開くととても豪華な食事が並べられていた。宴会を開けるレベルの食事の量。テーブルの中央にそびえ立つ肉の山。とてもみずみずしいサラダや熱々のグラタン。名前は知らないがどれも美味しそうな料理。私はその料理の数々に圧倒されていた。しかし、一つ目の引くものがあった。


「こ、これって!」


黒く美しいボトルに入ったガーネット色の酒。とても年季の入ったラベルそこには…


「ラ・ルナ!?あ、あの伝説級の最高級ワインが…」


震える手でそれを何度も撫でる。神埼はニコニコしながらそれを指差す。


「ラベルを良く見てください。ただのラ・ルナではありませんよ」

「・・・?!1945年ものだ…と」

「一番美味しかったものを私の方で用意させてもらいました。もしよければアーティファクトとともに召し上がってください」

「いや、一人で飲みます。絶対に渡さんからな」

―――あはは。少年思う存分飲んどけ!


私は用意されていたワイングラスにワインを注ぎ入れる。グラスがガーネットに染まっていく。香りだけでもう満足できる代物。すべてが完璧に調節されたバランスと無限に続く余韻。久しぶりのアルコールが体に染み渡る。


「ふへへ。幸せいっぱいだよ」

「それは良かったです。あまり飲みすぎないでくださいね」

「は〜い」


ご機嫌になりながらつまみとともに美味しくワインを頂く。気づくとボトルが空になっていた。幸せいっぱいになった体とともに余韻に浸っていると神里が声をかけてくる。いつも通りのキラキラした目が眩しい。


―――少年。大丈夫か?

「大丈夫。これぐらいで泥酔するほど下戸じゃないよ」

―――そうか。そろそろ私は休むとするぞ

「ありがとうね。これからもよろしく」

―――ああ!こちらこそよろしくだ少年!


神里はそう言って何処かに消えてしまった。そういえばアーティファクトのことについて神埼に聞きたいことがあったような。まあ、明日でいいか。そう思い空になったボトルとともに部屋に戻ることにした。


部屋に戻ると私は服も脱がずにベットに倒れ込んだ。相変わらず普通の部屋。しかしかすかにだが雨音がする気がする。まあ、窓がないから確認することはできないけど。とても落ち着く音を聞きながら天井を見つめる。まだ幸せの余韻が残っている。アルコールなんていつぶりだったっけ?私が思い出せる限り結構飲んでなかった気がする。そう思っていると禁書のページがひとりでにめくられる。禁書は強い光を放つ。突然の事で驚いて腕で顔を隠してしまう。


「やっっと出れましたわ」


聞き覚えのある声が部屋に響く。とても手入れの行き届いた金髪ロングの赤い目。赤い三角帽子にローブ。だが、一つだけ違う、なんか小さい。1等身のファム・シャル・ロッテが立っていた。突然のことで空いた口が塞がらない。


「え…あ…えええ!」


何か言おうとしたが驚きのあまり情けない声しかでない。シャルは少し呆れつつ話を続ける。


「まったく禁書に取り込んどいて外にも出してもらえないなんて何を考えていますの?」

「いや、取り込んだって?いや出れるって何?あと体…」

「ん?少年知らなかったのか」

「わあああ!」


いつの間にか現れた神里にびっくりする。一気に酔が冷める。いろんなことが起きてて混乱するがまず聞きたいことが一つ。


「えっと、シャルでいいんだよね?」

「そうですわ。私は原初の魔女ファム・シャル・ロッテですわ」

「なんでこんなにちい…可愛らしい体に?」

「禁書は生命の源ですの。その禁書の大半を失った今の私は体が小さくなる上に魔法も通常より制限されますのよ」

「そうなんだ。なんかごめんね」

「いいえ、心配には及びませんわ。改変に侵されたままではわたくしの存在ごと消えていた可能性がありますの。それに比べれば多少の制限はありますが今のほうが安全ですの」

「そっか。まあ助けられたならいいや」

「まあ、あなたの禁書がなくなればわたくしも消えてしまうリスクはありますわね」


なんだかとんでもないことを言われた気がする。それよりも気になることがある。


「なんかすごく詳しくない?」

「これでも元架空図書館リバリルの館長でしてよ。ここにいる誰よりも詳しいですわよ」


どうやら私が最初に観測した人物はとんでもない大物だったらしい。とても心強い味方を仲間にできて心に余裕が出てくる。


「頼りになるね。これからよろしく」

「ええ。よろしくですわ」


小さき手と握手する。小さな体がとても頼りに感じる。まだまだ問題は山積みだが少しは前に進めただろう。少し安心したら段々と眠気が強くなってきた。


「ごめん。色々聞きたいことはあるけど眠気が」

「少年。今日はゆっくり休め!」

「そうですわ。今後のことは明日に話し合いしますわよ」


その場は解散し、私は重くなるまぶたに負けて眠りについた。

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