14ページ目 軍人に戸惑う少女
いつぞやの何もない空間。あの時と同じように白い景色だけがどこまでも続く。ただこの前と違うのはそんな空間に私と軍服務中を着た男性が立っていた。
腰には刀を携えている。ただ現代の軍人というよりだいぶ昔の緑軍服だった。昔は珍しかったであろう茶髪、身長は平均的、筋肉がついている分少し大きく見える。
「私を呼んだのは君かね、少年?」
見るからに熱血といった感じの日本人男性。元気という文字がそのまま人の形をしているようなそんな印象。とても大きい声に圧倒されつつ私は間違えを訂正する。
「呼んだのは私だけど、これでも女だよ。少年じゃなくて少女。あと私には操琴音って言う名前が…」
「これは失礼した。少女よりも少年のほうが呼びやすいからこれからも少年と呼ばせてもらうぞ」
「・・・うん、もういいよ」
「私は糸神家直属傭兵団不死隊隊長神里シンだ。よろしく」
糸神家という名前に少し嫌悪感を感じる。聞いたこともないはずなのに本能で殺意が湧く。ただその殺意も一瞬で消える。本能を逆撫でされるようなそんな不快な感覚がまだ残る。
「どうかしたのか少年。なにかあったのか?」
「・・・いや、なんでもない」
自分でもどうして殺意が湧いたかわからなかった。わたしが忘れた記憶の中でその家とはないか因縁があるのだろうか。思考がまたぐるぐると回ろうとしたときに神里が話しかけてくる。
「そうか。ところで少年、私に何かようがあったのでは?」
「力を貸してほしい。救いたい人がいるんだ」
今は自分のことは後回しだ。一刻も早くシャルを救いたい。そう思い彼を真剣に見つめる。
「誰かを救いたいか…。いいぞ」
「本当に」
「ただし・・・」
一呼吸おき私を悪戯な笑顔で見つめる。
「私と手合わせな願おうかな」
どこかで見たことのあるような笑顔だった。平静を装いながらも何処かで戦場を楽しむ、そんな狂気じみた笑顔。こういう人は大抵何かとつけて戦闘をしたがる。
「一応聞くけどなんで?」
「これでも傭兵だからね。雇い主ぐらいは選べせてもらうよ」
神里は刀を抜き私に向けて構える。先程の笑顔は消えて殺意を持って私と向かい合う。本気で私と手合わせをしたいらしい。
殺意が空間を満たしていく。チリチリと私の体を突き突き刺す。まるで戦場にでもいるかのような緊張感が体を包む。しかし、怖くない。シャルを救いたいという気持ちが私の背中を押す。
私も禁書で銃を具現化しようとするが、それよりも先に神里が仕掛けてきた。刀での一撃。神埼との模擬戦より何倍も早く鮮麗されている。私は咄嗟に木刀を具現化する。
勢いを殺そうとするが―――木刀が真っ二つに切られてしまった。
刀が私の頬を切る。赤い血が流れ床に落ちる。後ろに避けたせいで次の攻撃がかわせない。
私は思いっきって後ろに倒れる。バク転の要領で床にその反動で思いっきり顎を蹴る。が、さすが元傭兵。カウンター当たらない。しかし双方後ろに避けたおかげで時間と距離ができる。
私はデザートイーグルを具現化して発砲する。しかし銃弾はすべて切られてしまう。
「全弾切るとか化物かよ」
「あの状況でカウンターを狙う少年もなかなかだな」
皮肉を込めた一言をどうやら褒め言葉と受け取ったらしい。余裕がある相手に少し焦りを感じる。
銃弾がすべて切られるなら―――私はショットガンを具現化し、構える。神里は待っていたと言わんばかりに突っ込む。大きな銃声とともに無数の銃弾が放たれる。
しかし―――すべて切られる。
神里の一太刀がが首に迫る。
ゆっくりと刀が迫る。
死がすぐそこまで迫る。
嫌だ。怖い。死にたくない。
―――なら、敵は殺さないとね。
そんな嫌いな声とともに何かが切れる音がした。
気がつくと私は家の中にいた。
あの地獄のような空間。周囲から向けられるのはいつも悪意と殺意、そして恨みだった。
普通なら安心できるはずの家は私にとって檻そのものだった。
「生きたいの?なら敵は殺さないとね」
忌々しい男の口癖が頭から離れない。
あの男の命令がないと呼吸することすらできない。
それが糸神家―――私の家族だった。
気がつくと戦いは終わっていた。眼の前には倒れた神里。体には痣や切り傷が無数にできている。刀は真っ二つに折れていた。軍服の所々に弾痕ができている。あたりには
心臓の音が頭に響いてうるさい。呼吸が浅くなる。気を抜いたら今にも倒れてしまいそうになる。
何が起こったか未だに理解できてない。真っ赤に汚れた私の手。自分の血なのか、神里の血なのかわからない。体の所々が痛くて仕方ない。コートがボロボロ。それ以上に喪失感が私を襲う。
「あはははは。まいった、まいった」
「・・・」
「君の依頼受けさせてもらうよ」
「・・・」
疲れたせいか頭がとてもふわふわする。神里がの言葉を理解する場で時間がかかってしまった。神里は満足なのかずっと声を出して笑っている。先ほど殺し合ったであろう相手になんでこんなに笑っていられるのか理解できなかった。
「じゃあ…よろ…しく」
そう言って私は倒れ込んだ。あたりは神里の笑い声だけが残った。




