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向日葵をあなたに  作者: 宇多良 和笹
ポビーを魔女に

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11/25

11ページ目 救いたかった少女

「・・・ええ、そうね」


口調が変わり、声のトーンが落ちる。

顔は黒いモヤで見えないはずなのに怒りや憎しみと言った感情が伝わってくる。

想定していたことだったはずなのに体がビクつく。机の下では体の震えを抑えようと腕を力強く握る。逃げ出したい気持ちを抑えこむ。


―――まだ、逃げるときではない。


必死で自分に言い聞かせる。ここで逃げれば大事なことを聞き逃してしまう。私は更に踏み込む。


「シャルは何も悪くないのに。悪いのは魔女なのにね」


黒いモヤが私を引き込もうとより一層色が深くなる。禁書を必死に握る。空気がひりつく。空気の冷たさが私の体につき刺さる。

笑顔を取り繕うとするが引きつった笑顔しか出てこない。目の前の化物から全力で身を隠したい。段々と理性が恐怖心に負けそうになる。死にたくない。逃げたい。その考えで頭がいっぱいになる。


「・・・そうよ。わたくしは悪くない。全部悪いことをするアイツ…ラ…イケ…ナイ」


そこにはいつものお嬢様口調などなかった。

彼女という存在に改変が加わる。

彼女の体に亀裂が入る。

どんどん大きくなっていくヒビからは黒いモヤが溢れっていく。

やがて黒いモヤは彼女の体を包み別の生き物へと変化させた。


―――すべて、裁かねば。愛するものを傷つけた醜いあいつらを


運命が改竄され、世界が改変される。



気がつくと知らない家の中だった。藁でできた天井に石と木材でできた壁、暖炉や蝋燭といった電気を必要としない中世ヨーロッパの質素な家。窓からは近くに小さな農村、少し遠くには王国らしきものが見える。部屋の所々に怪しい瓶や植物が置いてある。そこには見覚えのある赤い帽子とローブが壁にかかっていた。台所では一人の女性が料理をしていた。おそらくファム・シャル・ロッテだろう。私の存在には気づいていないのか鼻歌を歌いながら料理をしていた。

突然玄関の扉が開かれる。ヤギの角に、黒い羽、3mはあるであろう大きな体、家には全然合わない金の装飾がされた貴族服をきた男性…だった。明らかに人間ではないものが部屋に入ってくる。私は呆気にとられて動けない。彼は私に近づくと何もいないかのように、文字通り私の体をすり抜けていった。

おそらく私は誰かの記憶を覗いているのだろう。わたしは邪魔にならないように部屋の隅に移動する。

料理していたシャルが男性に気づき嬉しそうに駆け寄る。男性も嬉しそうに彼女と話す。シャルは先程作った温かい食事を机に運ぶ。男と彼女は向かい合って座りまた楽しそうに話しながら食事をする。

ふと男性は思い出したかのようにポケットを探る。出てきたのは一つの小さな箱。そこからはきれいな赤い宝石がついた指輪だった。シャルは顔を赤くしながらそれを受け取る。家の中は幸せでいっぱいだった。

突然私の体が燃え上がる。しかし不思議と熱くはない、むしろとても心地よいくどこか懐かしい温かさだった。驚きながらもその炎に身を任せる。


炎が私を包み私を次の場面につれていく。あの家の中だが女性のお腹がとても大きい。どうやら新たな生命が宿っているのだろう。シャルはお腹を撫でながら嬉しそうに何かを呟いている。男性もそれを見ながら女性の代わりに家事をしていた。怪しい薬の入った瓶や植物は高いところにしまわれていた。また家の中は幸せでいっぱいになる。私も親の幸せというものを初めて知った。


また炎が私を包み次の場面につれていく。可愛らしい女の子が大きな三角帽子を被って遊んでいる。シャルはそれを見ながら子供の手の届かないところで薬の調合をしている。あの男性は出稼ぎに行っているのかここにはいない。

突然、ドアが叩かれる。シャルが扉を開けると40代の男性だった。見た目からして近くの村に住んでる農民だろう。彼は最初とても楽しそうに話す。シャルは笑顔で対応するがどこか困ったような表情していた。最後男は何かを諦めたのか怒って出ていってしまった。怒った声にびっくりして子供は部屋の隅に隠れてしまった。震える子供はギュッと三角帽子を握っている。シャルはため息を付いたあと子供の元に行き抱きしめた。少しずつ不穏な空気が部屋に満ちていく。

最後怒った農民がシャルの子供を見ていたところに少し嫌な予感がいた。私はあの農民に嫌悪感を持ちながらあの家族の幸せを願った。


不穏な空気とともに炎が私を包み場面が変わる。シャルのお腹は再び大きく、これからお姉ちゃんになるであろう子供は家事を手伝っていた。とても幸せそうな家族。そんな幸せは長くは続かなかった。

突然玄関の扉が開く。松明や農具を持った複数の農民が一斉に押しかける。シャルは子供たちをを後ろに庇い必死に農民たちから守ろうとする。10歳にも満たない子供と妊婦、抵抗などできるわけもなく縄に縛られる。家から金目の物や薬などを手に抱えて農民が出てくる。その手には男性がシャルに上げたあの指輪もあった。

最後に出てきた農民が三角帽子を上に掲げる。そして一気に下に叩きつけ何度も踏みつける。「やめてよ」と言おうとしたが、声が出ない。手を伸ばしても触れることすらできない。

何もできないまま二人…いや三人は木でできた十字架に縛られる。子供は泣き叫び、シャルも何かを訴えている。下には木や藁など燃えやすいものが多く敷き詰められている。農民は石を投げて罵詈雑言を三人に浴びせる。一人の男が松明を掲げながら何かを叫ぶ。その男は怒って出ていったあの農民だった。

どんどん火の手が三人に迫る。子供が叫ぶ声が段々と力がなくなっていき、最後は抵抗すらできなかった。シャルも必死に縄をほどこうとするが何もできない。子供を見つめながら涙を流し燃やされていく。農民は笑いながら燃えていく三人を見る。その目は達成感に満ちていた。

私は必死に彼女らを助けようとするが触れることすらできなかった。何もできないという事実が重くのしかかり心がぎゅっと締め付けられる。私は拳を強く握りしめながら燃えていく三人を見るしかできなかった。


炎が私を包み最後の場面になった。人気のない焼け野原、村は灰と炭の残骸だけになってしまった。中央には三人の焼死体をただ呆然と見る悪魔が一人。焼死体を十字架からおろし、優しく抱く。そこで徐々に視界が暗転していく。最後まで男性は三人を優しく抱いていた。


私はただその光景を見ることしかできなかった。

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