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向日葵をあなたに  作者: 宇多良 和笹
ポビーを魔女に

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1ページ目 忘れてしまった少女

世界が終わる

私達が作り上げた理想郷が崩れていく

きっとあの時から私達の関係は崩壊していた


私は崩壊していることに気づかず


彼は崩壊していると知っていながら


彼女は崩壊していても見て見ぬふりをして


私達は間違ってしまったけれども

あなたならきっと大丈夫

だって「完璧で幸福な主人公」なのだから

目の前に人間だったものがたくさん転がっている。転がっているものは同じ人間だったはずなのになんの罪悪感もわかない。血と硝煙の匂いが鼻の奥にこびりついて取れない。悲鳴が耳の奥でずっとこだまする。


あと何回殺せばいいのだろうか。


あと何回引き金を引けばいいのだろうか。


あと何回この日々を繰り返せばいいのだろうか。


命令をこなすたびに思ってしまう。

心が歪んでそこから何かドロドロとしたものが溢れそうになる。私の中の大切なものが音を立てて壊れていく。大切な人が、大切な思い出が、大切な何かが音を立ててなくなってしまう。もう何をなくしたのかすら思い出せなくなってしまった。

「なら私が思い出させてあげましょうか?」

目の前の男はそっと私に手を差し伸べる。私がこんなにきれいな手をとってもいいのだろうか。こんなに汚れた私が救われてもいいのだろうか。彼は笑顔で答える。


「失ったものは探せばいい。壊れたものは直せばいい。必要なのはあなたの気持ちです」


私は彼の手を取る。彼は笑顔で私を抱き寄せ頭を撫でる。その手はとても暖かかったのを私は覚えている。


「一緒に行きましょう。架空図書館リバリルへ」


彼がそう言うと本がひとりでにページをめくりそこから文字が中に舞う。文字は私達を包む。不思議と懐かしいようなそんな感覚がして、その懐かしさに私は体を委ねた。


「今度は私が―――」


彼はなにか行っていたような気がしていたが私にはわからなかった。きっと知らなくていいことだろう。




次に目を覚ますとそこは知らない部屋だった。知っているような知らないようななんとも言えない場所でソワソワする。私を一度深呼吸し、落ち着いて部屋を見回す。多分一般的な一人暮らしの部屋とそこまで変わらないのだろう。少し気になる点があるとすればクローゼットに同じ服しか入っていないことと窓が一つもないというところだろうか。それ以外はシンプルな部屋だった。もしろThe・普通の部屋に少し不気味さもある。

服も知らないのに変わっている。カジュアルなクロのスーツにロングコート。サイズも私にピッタリ。まるで来ることが運命だったかのように全てのものが不足することなく用意されている。私はとんでもないような場所に来てしまったのかもしれない―――そんなことを一瞬考えてしまったがあの生き地獄にいるよりは全然いいと思い考えないようにした。ポケットを確認すると社員証らしきものと一枚のメモが入っていた。

「中央に来てください」

メモの通り部屋を出るとそこは、とても大きな図書館だった。何百、何千、何万、何億、数え切れないほど本がひとりでに本棚に戻っていく。本が飛んできたであろうところを辿るとそこには巨大な分厚い本が何本の鎖に繋がれていた。本がページを刻むごとに一冊、また一冊と本を生み出していく。圧倒的な存在感に私は息をするのも忘れて見入ってしまう。ここに来るときにも感じた懐かしさをまた感じる。暖かくて、優しく自分が汚れていることも忘れてしまうようなそんな感覚。しかしそんな感覚はすぐに無くなりページがめくれる音だけになった。


「いつ見てもすごいですよね」


見知らぬ男性が話しかけてくる。服装からして神父だろうか。長い髪の毛は一本にまとめられており、狐のように細い目に整った顔をしている。彼は見覚えのある笑顔で私を見つめる。なぜ彼は私にこんなに優しくするのだろうか。私にはそんな資格ないのに―――彼の優しさが私には辛い。なぜだか罪悪感を抱いてしまう。


「ここは架空図書館リバリル。人生という物語に疲れたものが迷える場所です」

「とても胡散臭い」

「ふふ、警戒するのも無理はありません。まずはあなたのことを教えてくれますか?」

「私は操琴音(あやつりことね)。・・・」

「どうかしました?」


思い出せない。名前以外、自分がどういった人なのか何も思い出せない。ここに来る以前の記憶があやふやだ。思い出そうとすればするほど黒い何かが覆いかぶさるようにすべて隠してしまう。息が上がる。冷や汗が止まらない。自分の中の何かがドロドロと増えて気持ち悪い。自分が自分でなくなるような嫌な感覚。


「落ち着いて、大丈夫。焦らずゆっくりやりましょう」


彼がそっと背中をさする。さっきまであった気持ち悪さが収まり落ち着くことができた。どうやら私は記憶喪失になってしまったらしい。しかも思い出そうとするとなにかに飲み込まれるという呪付きだ。


「・・・名前以外思い出せない。あなたは誰?なんで私はこんなところに」

「紹介が遅れましたね。私の名前は神埼シグレ。あなたは改変に巻き込まれて、、、いえ、見たほうが早いと思います」


そう言って神埼は一冊の本を差し出す。そこには私の名前が書かれていた。私は本のページをめくる。しかしそこには何も書かれていない。ページをいくらめくっても白紙、真っ白、何も書かれていない―――まるで「私」という存在を世界が消してしまったかのように消えている。


「・・・なにこれ」

「これは禁書と呼ばれるものです。禁書は中央の世界の欠片と呼ばれる本から生み出され、私達司書が観測することでそのものの運命を記録していきます。あなたが記憶喪失になったのはここに書かれていた内容が全て消えてしまったからです。」

「・・・ここに私の大切なものが書かれてたの?」

「はい。あなたの全てが書かれていました。あなたが存在したというすべての記録が」

「どうして白紙なの?」

「世界改変という禁書の源――中央の本そのものに干渉され全て禁書の内容が書き換えられたり消失することがありました。あなたもそれに巻き込まれ禁書の内容が消失し、記憶喪失になってしまったのです」

「私はもうこの世に存在しないということ?もう私の大切なものは――」

「いえ、こうして“形”として残っている。つまり――あなたという存在はまだ書き換えられる」


私はそっと本をなぞる。そこには私の過去が、大切なものが“あった”。大切なものがなにかわからないけどまだ取り戻せる。なぞる少し指が震える。すべて失ったわけじゃないんだ―――少しずつ希望が見えてくる。私はそっと本を閉じて神埼と向き合う。


「取り戻したい。大切なものも、自分の存在も。どうしたらいい」

「簡単ですよ。司書として禁書を観測し再び記せばいいのです。自分と向き合い物語を綴りなさい」


自分と向き合う―――目を閉じて自分がどんな存在かを思い出す。ページがめくれる音とともに様々な言葉が頭に流れ世界を作り出す。誰かが私に呼びかける。私に呼びかける声、私と誰かが喧嘩する声、私と遊ぶ声、私と笑い合う声、そして―――私とともに誓い合う声。


次に目を覚ますとそこは図書館ではなかった。

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