6 ドルンの街
ドルンの街に着く前に、飛竜に頼んで近くの岩山に降りて貰った。飛竜はこのまま帰って貰おうとしたが、ドルンまでが飛竜に託された命令なのだろう。帰ろうとしなかった。
「じゃあ、ここいらで、何か餌を捕ってくれば良いよ。僕もここで狩りをするから。」
そう僕か言うと、さっと飛び立っていった。
「本当に言葉が分る、賢い生きものなんだな。」
僕はここで、何かの魔物を獲っていこうと考えた。どちらにしても冒険者をしていた方が、自由に移動出来そうだ。間違ってここの領主に仕官でもしてしまったら、自由が利かなくなってしまう。
岩陰に潜んで、魔法の杖を持ち、腰には剣を差して、獲物を待ち構えた。
岩場にいた、山羊がこちらまで走ってきた。上を見るとなんと飛竜がこちらに向かい飛んで来る。これは若しかして、誘い出してくれたのか。なんと賢い生き物なんだ。
僕は、山羊に向かい火の槍を放った。火の槍は山羊の片眼を貫き、山羊はその場にドーッと倒れ息を引き取った。そのまま魔法鞄に山羊を突っ込み、飛竜を呼んで、街までひとっ飛びした。
門番に飛竜を託しこの街に入ることが出来た。飛竜は街に入るための鑑札の役目もあるのだろう。僕に対しては別段取り調べることも無く簡単に通してくれたのだ。カルマの領主の気遣いに感謝だ。
多分ここの街もカルマと似た造りだろう。外塀に沿って歩いて行くと、冒険者ギルドに行き着いた。
一応聞いてみないと、ドルンの街の冒険者ギルドは違うやり方かも知れない。
「すみません。ここで、冒険者になりたいのですが、僕にもなれるでしょうか?」
ギルドは今が暇な時間なのか、殆ど人を見かけない。受付に女性が一人居たのでそちらに向かって聞いて見た。
「はい、成れますよ。鑑札は持ってますか?」
ここは鑑札が必要か。やり方が違うみたいだ。仕方ない、出直すか。
「鑑札は持っていないです。鑑札は何処で手に入りますか?」
「ここで大丈夫です。只お金が掛かりますね。15万シル。持っていますか?」
「はい?カルマの街では言われなかったのですが。」
そこでこの女性はさっと顔色を変え、奥に引っ込んでしまった。
いつの間にか僕の後ろには、男が立っていた。
「オイ、兄ちゃん。だまされるとこだったぜ。」
と冒険者らしき男が声を掛けてきた。あの女性は僕から金をだまし取ろうとしていたのか。
「あの女はギルドとは関係ない只の下働きだ。今頃どっかに逃げているだろうさ。今、ギルドは空いているだろう。だからそのすきに兄ちゃんみたいな|かもを引っかけようとしてたって訳よ。前々から目を付けていたんだ。泥棒の尻尾を捕まえられて良かったぜ。よう、兄ちゃん、冒険者をしたいなら、何か魔物を取ってきな。」
僕は魔法鞄から、山羊を捕りだして見せた。
「へえ、こりゃマウンテンゴートじゃあねえか。よく捕まえたな。よし、今日から兄ちゃんも冒険者だ。」
マウンテンゴートは毛皮が高値で取引され、堅い角も肉も買い取りされた。
こちらでの買い取りは30万シルと言う事だった。これを解体し商業ギルドに下ろしてギルドの運営がなされてる。冒険者ギルドには税金が掛からないそうだ。領主が積極的に魔物を倒して貰うためこのような政策を取っているらしい。その代わり冒険者は自己責任。保証は無い。多分これだけあれば一ヶ月は食べていけるだろう金額だ。稼げる仕事だという事だ。
後で知ったが冒険者ギルドの建物は外と直接行き来できる出入り口があると言うことだ。魔物の買い取りはそこで行われる。買い取り金額を書いた紙が渡され其れを受付に持って行く仕組みになっていた。
確かに魔法鞄は誰でも持っているものでは無い。高価な鞄だ。大きな獲物を持ったまま街に入るのは衛生面でも見た目にも良くないものな。
僕に声を掛けてきた男は冒険者ギルド長だった。
冒険者ギルドには伝言板のような板があり、其処に今欲しい魔物の名前や情報が張り出されていた。買い取り金額や、相場が変わるので確認した方が良いとアドバイスされた。
「皆、字が読めるのですか?」僕が聞くと
「字が読めねえ奴は多い。そいつらは読める奴に頼んでいる。僅かなお礼金と引き換えにな。」
伝言板のそばには、中年の女性が椅子に座っていた。彼女が読んであげるアルバイトか。
ギルド長におすすめの宿を聞き、其処に落ち着いた。
ギルドから歩いて20分程掛かるが、治安は良さそうだ。其処は食事が朝夕食事付きだった。
酒は出さず、各部屋で飲みたければ飲むという感じだ。
部屋は2階を取った。ここもトイレと風呂が一階に集中していたからだ。食堂も1階だったため、2階は値段が高い部屋と言う事になる。上の階へ行くほど値段が安くなる。ここも7階まであった。
一泊7000シル。僕はここに一ヶ月分を支払った。
明日はここの領主に頼まれた書類を届けに行かなければ成らない。書類の中身が気になる。僕の紹介状であったら、困る。今更悩んでも仕方がない。その時は事情を言って断ろう。