4 魔法というもの
僕はこの屋敷の一室を与えられ、もてなしを受けている。
これと言って、やることもないので、ティム(死んだ彼の名前)に貰った魔法鞄を調べてみることにした。
鞄の中には大量の本と巻物が入っていた。
剣数本、防具、お金、着替え、マント、テント、毛布、ブーツ、鍋釜類、皿類、よく分らない棒、何に使うか分らない四角い板、サンダル、宝飾品、丸い色とりどりのガラス玉?が数十個、獣の皮、白紙の紙(羊皮紙?)馬に付けるような鞍などが入っていた。そして、空の小瓶が大量に入っているポシェット。多分これには治癒薬が入っていたはずだ。ティムはこれを飲んでもだめだったのか。
未だ入りそうな余裕がある。一体どれくらいの容量があるのだろう。
僕は領主のセレスティンに、これは返しますといったが、彼は
『もうトーリ君に権利が移っている。飛竜の権利は換えて貰いたいが、他は君のものだ』
僕の名は、八幡徹と言うのだが、領主は、トーリ・ヤヒターとしか発音出来なかった。面倒なので其の侭にしている。このまま、トーリで良いかもな。
飛竜は貰っても困るので、直ぐに権利の委譲をした。飛竜は悲しそうな目で此方を見て居たが、どうしようもない。飼い方も世話の仕方も全く知らないのだ。飛竜の頭を撫で、「元気でな。」と声を掛けた。
領主からは、更に報奨金も貰った。結構な金額なのだろうが、こちらのお金の価値がよく分らない。かなり重さがあり、江戸時代の小判を厚くしたような見た目の金貨だ。ありがたく貰っておいて、魔法鞄に突っ込んでおく。
巻物も気になるが、大量の本が一番僕の心を引きつけた。
魔法に関して書いてある。僕は街の探索は後回しにして、部屋にこもり本を読みふけった。
一ヶ月もそうしてじっと部屋に籠もっていた。
「トーリ様は、魔法に興味があるようですが、教師をお付けいたしましょうか。」
部屋付きのメイドが僕に提案してくれたので、是非御願いします。と言って、僕に魔法の教師を付けて貰えることになった。
本はあらかた読んでしまい、後はどうやれば良いか分らなくなっていたのだ。丁度良かった。
巻物のことも聞くことが出来そうだ。
教師は背の低い老人だった。この街に住む魔導師で九十八歳だという。年は取っているがしっかりした歩き方で、よぼよぼではない。
白い長い髪と髭、鋭い目、ピンと伸びた背筋、いかにも魔法使いが着ていそうなローブを纏って居た。
そして僕の魔法鞄に入っていた、よく分らない棒と似た杖を持っていた。
ティムは、魔法使いの勉強中だったのかもな。彼は未だ十六歳だった。見た目二十歳を超えているように感じたが、僕より年下だった。平民の孤児ではあるが、才能があったので領主のセレスティンに声を掛けられ仕えることが出来たらしい。なんにしても死んでしまった。
この世界の成人年齢は十五歳だと言うことだ。僕は立派な成人と言う事になる。
僕はこの街にいても違和感がないようだ。街の住人は色んな見た目の人々がいた。黒髪、金髪、茶色い髪、赤毛、オレンジがかった髪色。目の色も肌の色も様々だ。背の高さもそうだ。
「君は何処の出身かよく分らない顔をしているな。」
教師に指摘されたが、こちらに東洋系の顔は見当たらない。やはり、目立つだろうか?
「まあ、人族である事には変わりはない。亜人だと魔法は使えんからな。」
亜人?若しかして獣人とかも居るのか?会ってみたい。
僕は本を見てある程度のことが分っていた。後は実践だけなので、教師は直ぐに杖の使い方から教え始めた。
「古代文字が読めるとは、手間が掛からなくて、良かったわい。」
この本は古代文字で描かれていたのか。普通に読めていたので、違いが分らなかった。
直ぐに魔法の使い方が分ってしまった。只杖を持って、呪文を唱えれば良いだけだった。
杖は魔力を吸い、魔法を発現させてくれる。媒体のようなものらしい。人族は魔力の保有率が十パーセントなのだとか。魔力というものが僕にもあったと言うことになる。
亜人は魔力を持ってはいるが魔力の質が違う。人族とは種類の違う力があるそうだ。
「先生。この巻物はどういう風に使うんですか?」
「ほほう。これは魔方陣が描かれておらんな。この呪文の他に魔方陣を描かなければ使う事は出来ん。巻物は魔力や、魔石さえあれば誰でも使うことが出来るが、高価でな。」
多分これは、ティムの自作の巻物だ。彼は魔方陣の勉強をしていたのかも知れない。
「この本を君にやろう。魔方陣が沢山書いてある。これを見ながら魔力を込めて描けば使える様になるじゃろう。余りに早く終わってしまったので、代わりのものだ。」
一日で教える事がなくなってしまった代わりと言う事か。
魔法は簡単にマスター出来たが、次は巻物に魔方陣を描くことか。これには、特別のインクが必要らしい。久し振りに街へ出てみることにする。