22 決戦
やっと仕掛けてきたか。
向こうに飛竜に乗った一団が米粒のように見えてきた。こちらに向かってくるのが分る。
「キュウルルッ!一杯きた。」
「ああ、きたな。マック、ソシアを守ってくれよ。」
「まきゃせて!」
僕達は今、隠谷にいる。
ここが見付かるのは分っていた。態とここに彼奴らをおびき寄せたのだ。
小屋の中には、ソシアはいない。マックの、鞍に隠れている。マックには、離れて貰っている。
あんなに大群出来てもここには降りることが出来ない。
一頭の飛竜が降り立ってきた。他は滞空姿勢を保って居る。
「やあやあ、トーリ君。まだ私に渡して無い物がありますね。」
イヴァロが言っているのは書見台のことだろう。と言う事は、解析が全く出来ていないと言うことだ。
懸念がなくなった。相手が転移を使ったら、こちらは不利になる。まずは、これを渡してしまおう。
「これのことですか?」
僕は書見台を渡した。
「こんな物があったのですね。全く油断も隙も無い。まずは本物かどうか試してから、君の処分をきめましょう。そこから動かないように。動いたら、上から、火が降ってきますよ。」
僕はじっと待った。
「ほう、見えてきた。素晴らしい。は、は、・・!なぜだ!」
そう、もうその本は只の白紙の本になった。書見台に設置した吸収の魔方陣が総てを吸い取ったのだ。
「君!一体なにをした。このような貴重な物に対する冒涜だ!絶対に許さん!」
イヴァロは攻撃魔法が得意なのだろう。杖をかざし、僕に魔法を放ってきた。凄い威力だ。今までに無い魔力のほとばしりが僕の周りに渦巻いている。こいつが稀代の魔術師なのか。
確かに、魔術師らしくは見えなかったが、実力はあったんだな。
ボーとして其れを僕は見ているだけだ。何もする必要は無いからだ。
彼がいくら魔法を放ったとしても無駄だ。僕の周りには吸収の魔方陣がある。
そして相手がいぶかしんでいる隙に、イヴァロの額に、魔方陣を焼き付けた。一番苦労して作った僕の会心の魔法。相手の魔力を永遠に闇の中に吸い取る、危険な攻撃魔法だ。
お前はもう、しん・・いや、ただの人だ。
イヴァロは只呆然と自分の杖と手をみている。
上に控えていた物達は、魔術師なのだろうが、何もしてこない。
何故だ?
中の一人が降りてきた。魔術師だ。
「貴方は一体なにをしたのですか?私達にかかっていた、服従の魔法が今、解けたのですが。」
服従の魔法?そんなのもあったのか。
その魔術師の腰には灰色に変色した数珠があった。
僕達は、トロンの街に帰った。魔術師の一団も一緒に付いてきた。
沢山の飛竜達は森の浅い所に居て貰う。飛竜達が居る場所はここにはないからだ。
「どうぞ、お座りください。皆さんの座る場所があるかな。」
「いえ、お構いなく。皆、銘々自由にするでしょう。久し振りの自由です。トーリ君のお陰で、私達は自分を取り戻すことが出来ました。ありがとうございます。」
彼等は、普通の魔術師だった。特に野心など無い、地方の魔術師や、街の魔術師。
彼等の他にアレス真教の本部には沢山いる。だが殆どは術に掛かって居るだけだ。普段は普通にしているが、命令されれば逆らうことが難しい。この魔法は、イヴァロが独自に開発した物らしい。才能があったのだ。彼は、貴族ではあったが、家督が継げない妾の子だったそうだ。魔法の才能があったため引き取られたが、貴族社会の厳しい中央で、なかなか成果が認められなかった。
分るけども、結局なんなのだ。あんな男のエゴのためにアンディ・ループやティムやその他の人達が苦しんだ。これからも似たようなのが現れないことを祈るのみだ。
☆
僕はカルマの領主にイヴァロを預けた。
イヴァロは裁かれるだろう。彼のアレス真教に居る魔術師の一団もそうだ。
だが、もう僕には関係ない。勝手にやってくれ。僕の大事な物に危害が無ければ、貴族だろうがなんだろうが関係ないのだ。人を助けた覚えは全くなかった。
暫くした後に、貴族の称号を与える、と言う使いが来たが、丁重にお断りした。
使いの者は、酷く怒って帰って行った。
「ねえ、そんなに意固地にならなくても、貰える物は貰っておけば良いのに。」
ソシアはそう言うが、とんでもない。称号という物には、紐が付いている。
其れこそ、服従の魔法のような物だ。百害あって一利無し。
そんな物はない方が、僕らは幸せになれる。
「ソシア、何も無くても僕に付いてきてくれるだろう?」
「勿論!貴方がすきよ。」