20 ソシアの治療
僕の魔法鞄は殆ど空にした。よしっ!始めるか。
魔力を込めながら、複雑な魔方陣を描いてゆく。
三時間ずっと集中して、やっと描き上げた。出来た。
ソシア、君の耳と尻尾は直してみせるぞ。欠損してから、時間が経っているのが少し心配だが、試してみないと分らない。
「ソシア、チョットきてくれ。」
仕事終わりの片付けをしていた、ソシアを呼び、スクロールの説明をすると、
「私の為に作ってくれたの!」
と、ビックリしていた。結論から言うと、ソシアの身体は、元通りになった。
その後、ソシアはずっと泣いていた。恥ずかしがって帽子をかぶっていたことも、話してくれた。
僕はソシアに結婚しようと言うと、「はい。」と答えてくれた。
僕は胸の奥から、喜びがこみ上げてきた。そして、次の日、二人で、マックに乗って森の隠谷に向かった。
僕らは2日小屋にいて、これからのことを話し合い、触れあいながらゆっくり過ごした。
店を何時までも留守にできない。店番に任せきりだと問題が起きたときに対処出来ないだろう。
ソシアは、今までかぶっていた帽子を捨て、にこやかに店に入って行った。僕も後からついていく。
「やっと帰ってきてくれましたですぅ。何で、早く帰ってこなかったですか!」
マリーが怒って噛みついてきた。また、何かあったようだ。僕らが留守にすると、この頃何か必ず問題があるな。
「何かあったの?」ソシアが訊ねると、
「泥棒ですよ!店が荒らされました。」
「なんですって!」
店の中は、ぐちゃぐちゃだ。僕は慌てて二階の僕の部屋に行った。
二階も同じだった。本棚に置いていた本をじっくり見てみた。しかし無くなっていた物は無い。
店に降りていき、店の片付けを手伝いながらみても、無くなった物は無かった。
「どうなっているんだ。何も盗まれた物が無いぞ。」
「そうね。不幸中の幸いかしら。」
「良かったですぅ。」
泥棒には目当ての者があった。と言う事か。其れが見付からなかったと言う事は、僕の魔法鞄に入っているものが欲しかったのだ。
アンディ・ループの転移の研究結果の本。犯人は、イヴァロに違いない。彼奴が指示したか、自分でやったかは知らないが、王都でも僕達を監視していたのだろうか。
もし、孤児院に行ったのが分ったなら、直ぐに目星が付く。僕らは名乗ったし、本を受取ったのも知られてしまっただろう。
僕は急いで転移の本の写本をして、様子を見ることにした。
また、きっと彼方から、行動を起こしてくるだろう。もしかすると、ミッシェルも、これに関係していたのかも知れない。彼は、隠谷の場所を探していのか。
この本が欲しければ、渡そう。どうせ、白紙の本だ。あの書見台が無ければ読むことは出来ない。万が一読めたとしても、転移の魔方陣は作る事は難しい。僕の魔力でもギリギリなのだ。
そしてインクだ。特殊な虫瘤から取った汁で魔力を流しながら作らなければ出来ない。
虫瘤は、この森でも滅多に見付からないものだ。知っていなければ、取ってくることはまず無い。
ソシアが心配だ。もし人質にでも取られたら、僕はどうするだろう。
「マック。万が一の事があったら、ソシアを隠谷に連れて行ってくれ。あそこなら、暫く隠れていることが出来る。」
「わきゃった。」
僕は急いで防御のスクロールや、隠密など役に立ちそうなスクロールを準備してマックに持たせておいた。マックに取り付けた鞍の中に、非常食も入れておく。なんとかなるだろう。ソシアは獣人だ。森は馴れている。
そんなことをしている内にとうとうイヴァロが、店にやってきた。
「やあ、やあ。お久しぶりですなトーリ君。」
「その節は、お世話になりましたイヴァロさん。こんな処までおいでになるとは、何か特別な用事でも?」
「とぼけて貰っては困りますな。君、孤児院でシスターから奪っていったものがあるでしょう。其れを私によこしなさい。」
「ああ、あの白紙のメモ帳ですか?燃やすと言っていたから、勿体ないと思い、貰ってきただけです。欲しいなら差し上げます。」
イヴァロは僕のメモ帳という言葉にギョッとした。
そして、差し出された本を見て、ニヤリと笑った。
「おお、これだこれだ。やっと見付かった。君、これが何か分るかね?」
「いいえ、何かあるのですか?」
「ふん、平民には用の無い物だ。これは、世界を変えるものなのだ。君には感謝しているよ。まあ、もう会うことは無いだろうがな。ふ、ふ。」
そう言って、イヴァロは帰って行った。
何はともあれ、無事、終わった。
これ以上こちらにちょっかいを掛けてくるようなら、僕も覚悟を決めなければならない。
暫くは、あの本の解析に時間が掛かるはずだ。解析が出来なかったら、またここに来るかも知れない。
その時に備えておこう。