2 異世界に普通に転移していた
僕は彼が消えた後を見ていた。
その場所には彼が着ていた服や、付けていた防具らしきものなどが、彼の消えた其の儘の状態で残っていた。
其れを綺麗に拭き、血の付いた服を洗った。ブーツも残っていた。
「ここは、若しかして異世界というものか。」
竜も居たし。竜は今どこかに行って仕舞って居なくなっていた。
ご主人が死んでしまったので、自由になったのだろう。この世界で生きて行かねばならないとしたら、僕はどうしたら良いのか、途方に暮れた。
「未だ、誘拐の方が良かった。助かる見込みもあったかも知れないのに。」
飛竜のような動物がそこら辺にいるような世界では、僕は完全に詰んだな。
「腹が減ったな。」
彼の残した鞄を漁ってみる。そしたら、出るわ出るわ、あり得ない量の食料や服、剣、何か分らない巻物、本、まだまだ入っているようだが、後で確認することにした。
「この鞄は、所謂魔法の鞄か。」
中に美味しそうなパンがどっさり入っていたので、其れを食べ、ゆっくり考えた。
「カルマの街のセレスティン。」「キュウ、キュルルッ。」
竜が帰ってきた!僕は慌てて外に出た。竜は獲物を咥えて僕の前に置いた。
そうか僕のために獲物を捕ってきてくれたのか。
「ありがとう。君の名前は分らないけど。これから飛んでいって貰うから。よろしくな。」
だが、この獲物を、僕に如何しろと?大きな鹿?角が異様に長い。
「これは君が食べて。」
竜は、いそいそと、もの凄い音を立てて食べ始めた。僕は竜の食べる姿、牙や口や竜の鋭い爪を見て戦慄し、そそくさと小屋の中に入っていった。怖くて見ていられなかった。
次の日の朝。水浴びをして身体を洗い、彼の服に着替え、ブーツを履いた。幸いなことに、彼の体格は僕と同じくらいだ。彼はやや褐色で黒髪黒目だった。
僕は体格が良い。僕に会う服はオーダーメイドでいつも作って貰っていたのだ。
彼が、この世界の標準なら、僕でもなんとかなるかも知れない。顔の造りは仕方ないが、そんなに目立たないかもな。
飛竜に乗って、飛竜に御願いした。
「カルマの街まで飛んでくれる?」「キュルッ」
高いところは好きだ。爽快な気分になって、上からこの場所を見てみた。
ここは周りが深い森になっていて、何処までも森が広がっていた。
「ここから出ることは、どだい無理な話だったな。飛竜がいなければ来る事も出ることも難しい場所だ。」
僕はこんな処に一体どうしてきたのだろう。誘拐された後に死んで仕舞ったのだろうか。
暫くすると、遠くに開けた場所が見えてきた。
道がくねくねと通っている。その道に沿って飛竜は飛んでいた。所々に集落らしきものがあり、ずっと向こうに石壁に囲まれた街があるのが分る。多分あそこが『カルマ』の街なのだろう。
飛竜は街の直ぐそばで降り立った。門番がいる近くだ。
門番は僕のそばまで走り寄ってきた。
「おや、飛竜とは珍しい。何処の所属の方ですか?」
僕は困った。所属とか聞いていない。もじもじしていると、飛竜が何かの鑑札らしきものが着いた足爪を差し出した。こいつ。言葉を理解するのか?凄いな。
「やや、これはカルマの所属ですな。確認しましたので、どうぞ、お入りください。飛竜はこちらでお預かりいたします。」
街の中をキョロキョロしながら見て回る。まさしく異世界だ。白い建物がビッシリと建っている。エーゲ海によくあるような白の連なり。でも、建物はもっと洗練された造りだ。殆ど7階建てで、集合住宅になっているようだ。窓からは、色とりどりの花の鉢植えが据えられていて華やかに見える。
結構密集して立っている。街の中心に近づくに従い、密集ではなく緑の庭を持った立派な家が増えてくる。更に奥へ行こうとしたら、石壁があり、先に行くためには門番に鑑札を出さなければ、通れないようになっていた。
僕はそこで、Uターンして、元の道を戻っていった。
「取り敢えず宿を取る。異世界のセオリーだな。」
金は沢山魔法鞄に入っていた。これで大丈夫だろう。ここのお金の単位は分らないが、その内分ってくるだろうし。
僕は余り貧相なところではなくソコソコの宿を取った。
決め手は見た目だ。綺麗に掃除がされていて、大きめの建物、中心に近めなどで決めた。
ここの宿は、地方のビジネスホテルのような雰囲気で、余り細かい質問やなれ合いがないあっさりした対応だった。僕は安心して中くらいの部屋を借りることにした。
部屋には風呂もトイレもなかった。一階に集中してトイレや風呂があった。
僕が借りた部屋は3階だったからそれほど不便はない。
食事は朝食だけ、4階で食べる事が出来た。
「さて、セレスティンという人物をどうやって探せば良いのか。」