19 回復魔法
僕はカルマ支店にソシアを迎えに来た。
カルマは、ここでも精力的に働いていた。ここの働き方改革をしていたようだ。
僕はおかしくなって、
「ソシア、ここのことはここの者に任せようじゃ無いか。もう僕達の手は離れたんだよ。其れを理解しないといけない。」
「そんなこと言ったって、見過ごせないこともあるわ!余りに非効率的よ。」
ソシアはソシアだ。チョットした事が気になるのだろう。だが、前の世界の暖簾分けのつもりでここに支店を作ったのだ。細かい事は彼等の自由にして貰わないと。僕らはこれらに口を出しては、元の木阿弥になって仕舞う。忙しさを解消するために作った支店なのだ。頑張れば彼等の儲けになり、だめなら潰れるだけだ。僕にとっては儲けなど関係ないのだ。
僕の目標は、ソシアとのんびり生活することなのだ。
ソシアがもっと稼ぎたいのなら、別の仕事を考えよう。でも、時間を取られすぎるのはだめだ。
僕達はトロンに帰って、トロンの店に入った途端店番の女の子マリーが走り寄ってくる。
「お帰りなさい。良かったです。これからどうしようかと、思っていたですぅ。」
何かあった?」
「魔術師の方が帰ってこなくなったです。」
帰ってこない?
「どこかに行ってたの?彼は確か、ミッシェル君だ。ミッシェル君、店の二階に常住するって言ってたけどな。」
「ええ住んでます。一昨日、森の中に入って行ってから、帰ってこなくて。店の在庫が足りなくなりそうです。」
「彼は、冒険者もしてたのか?」
「いえ、違います。一週間前に手紙が来てから、森に行くと言いだして。」
手紙が来て森に行く?彼は先生の知り合いの魔術師だ。多分魔物を倒したことは無いはずだ。何時も机にかじりついて居るタイプだった。そのが彼が森に入ったら危険だ。
「一人で行ったのか。」
「いえ、獣人の冒険者が一緒でした。」
全く分らない。取り敢えず在庫の補充をして、後は、ミッシェルが帰ってくるのを待つしか無い。
獣人が付いているのなら大丈夫だ。彼等は森を知り尽くしている。
四日後、店に獣人の冒険者が入ってきて、ミッシェルが魔物に襲われて、死んで仕舞ったと報告しに来た。獣人の冒険者は、森の道案内で雇われたと言っていた。
「これ以上は無理だと何遍も言ったんだ。それでも『如何しても奥に行って調べてこないと私が殺される。』と言って、勝手に走って行って野良の飛竜に喰われて持っていかれた。」
飛竜の所まで行ったのか。僕は冒険者に知らせてくれたお礼を言って帰って貰った。ミッシェルは何を調べに行った?飛竜の崖には卵を取りに行ったわけでは無いのか?
僕は先生の所に飛んだ。
「先生、申し訳ありません。折角紹介していただいたのに、こうなってしまって。」
「いや、こっちこそ。森に入るなぞ、何を考えていたんだ、馬鹿が。あれはちょっとの間、流れの魔術師をしていた。仕事を探していた様なので君の所にやったんだ。あちこち行って、自信があったようだ。森の魔物を軽視していたんだろう。」
代わりの魔術師は当分見付からないだろう。仕方がない、今まで通りの仕事を続けていこう。
値段を上げたせいで、商人からの大量購入は減ったので、思ったほどの忙しさは、無くなり僕に少し時間の余裕が出来た。
これから、回復魔法の勉強をする。
ミッシェルが居なくなったため、また店の二階に僕は住んで本や資料を読みふける。
暫くは森の隠谷には行けそうに無い。マックは度々森に行っているようだった。
回復魔法には簡単な治癒魔法ヒール、複数の人を一偏に治癒させる魔法エリアヒールと、部位欠損を元に戻す治癒魔法エクストラヒールの3種類があった。これらを総てスクロールにしてみた。
今まで、魔力をこんなに使うスクロールを作ったことは無かった。最後のエクストラヒールのスクロールは、作っている途中で魔力切れを起こしたのか気絶していた。
また、明日にでも試すか。魔力が無限にあるわけでは無かったのだな。
若しかして魔法鞄に魔力を使いすぎているのかも知れない。鞄の中身の整理をしてから、もう一度試した方が良いかもしれない。
僕は本や、普段使わない鍋、衣類など其の侭になってを擦れていた者を取り出して倉庫にしまったり、本棚に整理したりと、バタバタし始めた。
「何やっているの、トーリ?」
「ああ、鞄の整理。欲しいものがあるなら、持って行けよ。」
「この魔物素材は、売り場に置きましょう。」
そうか、大分以前に鞄に入れたままになっていたから、凄い量が入っていた。ティムの分もあったし。
これで、かなり中身が減った。今日こそは、エクストラヒールのスクロールを完成させる。