11 飛竜の育て方
僕のマックは特別だった。
こう言う個体はごく稀に居ると言う。言葉を解するのは飛竜の大部分が出来るが、言葉を話せるのは、すごく珍しいと言う事だ。
学習の能力がずば抜けていて、風の魔法属性も使いこなす。普通の飛竜は飛ぶためだけに風の属性を使っているが、魔法を使い攻撃にも使える特殊な個体は、貴重だ。
未だ、生れたばかりなのに「はい」「いいえ」は言える。
「マック、お腹が空いた?」「キュッ」
「マック、トイレは?」「キュウン」
微妙な違いが分るのは僕だけだが、それでも意思の疎通はある程度出来るのだ。
これから大きくなれば、人と会話できるようになると言う。
未だ、大きさは尻尾を入れても60㎝くらいだ。小さな羽根が大きくなれば、飛ぶ訓練が開始される。
飛ぶ訓練と並行して、人の指示に従うことを教えていくそうだ。
其れまでは、一緒に暮らして甘やかして育てると良いそうだ。まるで犬のようだな。
「マック、本当は僕はこの世界の人間では無いんだ。知らないうちにここに来ていた。でも、君に会えたのは素敵なことだった。これから僕と一緒に生きて行こうな。」
「キュルッ」
僕は心の中を隠せずに話せる仲間を得て、とてもスッキリした。
毎日マックに話しかけている。その姿を見ていた、エルは、
「まるで、恋人同士みたいだ。余り好きすぎると彼女に嫌われて仕舞わないか?」
彼女などこちらに来てからはいない。以前は何人か付き合ったことはあった。皆、僕では無く僕の後ろにあるものをみているようだった。高校生でも、お金の魔力には弱いみたいだ。自分で稼いだものでは無い。先祖の資産のおかげと言うだけだ。
ここでは、純粋に僕の事をみてくれる仲間が出来た。
エルとお兄さんと僕は、また森に来ていた。
マック達の餌の調達と訓練の初歩のためだ。マックは僕の頭の上に陣取っている。チョット重くなってきたが、未だ飛べない。
エル達の飛竜はかなり大きくなったが、やはり未だ飛べないで居る。彼等の飛竜は彼等の背中にぴったりくっ付いて居る。おんぶされているみたいに見える。
この時期が一番手が掛かるのだそうだ。ヤンチャになり、勝手にどこかに行こうとして落ちて、鳴いている。人間の2歳児のような感じだろうか。でも、一番可愛い時期でもある。
三体でキュルキュルと言い合っている。飛竜同士は言葉が通じているようだ。
「幸い私達の飛竜は仲間になっている。複数で育てることが出来るのは非常に幸運だな。連携の仕方を教えなくて済む。直ぐに役立つ個体に育ちそうだ。」
飛竜に関して一家言あるお兄さんはそう言っていた。
「トーリ、あっちに大鹿の群れが居る。あれを仕留めよう。」
「分った。まず、逃げ道を塞ごう。何頭狩る?」
「五頭かな。余り狩っても、トーリの魔法鞄の場所塞ぎになって仕舞うだろ。」
場所塞ぎにはならないが、大鹿は大きい。一頭で1トン位ある。暫く狩りに来なくてもいい位だ。
一杯取れたら、冒険者ギルドか、商業ギルドに下ろせば良いか。良い稼ぎにもなって、エル達は嬉しいだろう。
僕は十頭を囲った。周りを火魔法で囲ったのだ。其れをエルとお兄さんが一頭、また一頭と、倒していった。彼等の剣技は凄い。綺麗に首だけをスパッと切っていく。僕は見ているだけだ。
飛竜達も、興味津々でみている。
大鹿は、魔物の定義は当てはまらないと言うことだが、僕には違いが分らない。大きくて、僕の以前の世界には居ない見た目をしている。魔力も多少あるそうだ。
魔物の定義は肉食で、魔石を持っている。魔力を身体に多く帯びている事らしい。
大鹿の肉は旨いと効いた。そう言えば初めてみたこの世界の生きものは大鹿だった。
飛竜が凄い勢いで食べてしまったが。
僕は商業ギルドに直接獲物を卸ろした。冒険者ギルドに卸すより高く買い取ってくれるからだ。だが普通の冒険者はこれをしたら罰せられる。ギルドの営業に差し障るからだ。
僕は商業ギルドにも所属しているから出来る裏技なのだ。
エル達は臨時収入に喜んだ。結構な稼ぎになったので、家の修繕が出来るとお兄さんが言った。
そうか母屋は、少しくたびれてきていた。今度は母屋の改築を手伝おう。
エルと僕お兄さんの三人で、改築することになった。お兄さんの家族は今街に住んで貰っている。
改築が終わったら帰ってくる。お兄さんの子供のためにも街の生活を経験させたかったようだ。
いずれは以前の屋敷を取り戻すつもりだと言っていた。この家はエルに受け継ぐようだ。
だから、エルは改装に力を入れている。
エルの他の兄弟は皆独立して遠くの領に仕官しているそうだ。両親は街に戻りたいと言っている。お兄さんの家族もそうだ。
エルはここで好きな人と暮らしたいと考えている。
僕は今度は何処にいこうか考えなければならない。何時までもエルに世話になるわけにも行かないだろう。マックと一緒なら、何処でも住めそうだ。例えば初めに僕がいた場所。あそこなら、マックも住みやすそうだし、マックに乗れば、直ぐに人里に行けるのだ。