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10 卵を育てよう

僕の卵を温めるために、専用の籠を用意した。鶏の卵なら、温め方は大体知っているが、竜の卵は知らない。エルに聞くと、日の当たる所に置いておき、偶にひっくり返して、自分の魔力を当てると良いと言う事だった。

卵を窓辺の日の当たるところに置き、偶にひっくり返して魔力を当てる。一日中一緒に居て、面倒をみて、一ヶ月経った。でも、未だ卵が孵るそぶりはない。

僕はスクロールを作りながら、ずっと部屋に閉じ籠もっていた。

「お客さん、用事があるという人が来てますよ。」

部屋の掃除を担当していた、宿の従業員が、僕に来客を告げに来た。

一階に降りてみると、エルがいた。

「エル、もう帰ったの?君は未だ実家にいるものだと思っていたよ。」

「うん、其れが、兄がトーリにお礼を言いたいと言って、来ているんだ。会ってくれるかい?」

「勿論。」

彼のお兄さんはエルと良く似ていた。只、堂々とした押しの強そうな人だった。

「君にお礼を言いたくてね。」

「いえ、エルの情報が決め手だったので、そこまで大した事はしていません。」

「そうか。其れで、君も卵を育てているんだってね。」

「ええ、でも未だ孵らなくて。教えて貰ったとおりにしてはいるのですが。」

「未だ、暫くは、孵らないよ。あと2ヶ月は掛かるだろうね。持ってきた卵は、産んだばかりみたいだった。」

そうか。まだまだ掛かりそうだ。僕は余り期待しすぎて、焦り始めていたようだ。

「そこで君に卵が孵った後の育て方を教えたくて、ここに来たんだ。」

ありがたい。其れも悩んでいたことだ。エルのお兄さんは、色んな事を知っていた。飛竜が好きで勉強したと言っていた。彼にやった飛竜の卵は、知り合いの騎士達に安く分けたようだ。それでも、借金は返せたし、卵は二個自分達で育てることが出来る。彼とエルがそれぞれ自分用の飛竜を育てるようだ。

「トーリ、俺、飛竜隊に入ることにした。冒険者は辞める。君は僕の所に来ないか?飛竜が大きくなるまで、僕の家に居て一緒に訓練しよう。」

僕はありがたくその提案に乗った。善は急げだ。僕達は次の日、宿を引き払いエルの実家へ行くことにした。


エルの実家はここから馬で2日ほどいけば着く小さめの街だった。その郊外に彼の実家はあった。

旧い農家で、一家が借金に苦しんでいたとき、以前の屋敷を手放し、ここに移ったらしい。でも、飛竜を育てるには最高の場所だった。飛竜にとって直ぐ近くに魔物が一杯いる森があるし、土地も広々している。

僕は離れを借りてそこに住むことにした。納屋の二階で、結構広さがある。ここを改造しても良いと言われ、早速自分好みに改装した。一階には風呂も作った。出来上がると何故か、エルも、ここに住むと言いだした。

広さは十分にある。改装も手伝って貰った。快く承諾し、一階に部屋を作りエルは一階に住むことにした。

「こんなに住みやすくなるとは、思いも寄らなかった。母屋より住みやすい。トイレも風呂もあるなんて、急にリッチになった気分だ。」

トイレは深く地面を掘り其処に魔方陣を設置して、分解、消臭の効果を付けた。

偶に、魔石を投げ入れておけば、ずっと持つ。地面に石を置き其処に魔方陣を描いたからだ。

僕らが使う分には問題なかった。

「トーリ、これを作って売ったら、君は大金持ちになれる。」

と言っていたが。確かにそうかも知れない。必要は発明の母とはよく言ったものだ。もう少し改良して、もっと使い勝手が良く出来れば、これを登録しておこう。僕は商業ギルドにも登録しているから、簡単だ。

風呂の水は僕の魔法で簡単に出せる。毎日風呂に入れる贅沢を、久し振りに思い出した。

僕は以前の生活よりも、ここの方が好きだ。もし帰れるようになっても帰らない。

家に帰れば、また同じような生活だ。確かに裕福ではあったが、それだけだ。家族のふれあいは少なかったし、何時も先を目指す事を期待されていた。窮屈な思いをしていたのだ。

ここでは、危険もあるが、自由がある。好きなように生きられる。

エルははしゃぎまくっていた。こちらの常識では十九歳にもなる男は、結婚して子供も居る年齢だ。だが、僕達はまだそこまで、精神的に育っていないようだ。いつまで経っても少年の気質が抜けない。


僕達の卵がそろそろ孵りそうだ。納屋の改装の間、エルのお兄さんに世話をして貰っていた。食事を取りに母屋に行ったついでに自分たちの卵に魔力を当てる。その繰り返しだった。

なんにせよ、いよいよ僕の飛竜にご対面だ。

エルとお兄さんの卵は大きい。育てば、大型の飛竜になるだろう。飛竜隊には滅多に無い大型だ。

僕のは小さめか、中型の飛竜になるだろう。自分だけの相棒だ。

卵がコロコロと動き、中から鳴き声が聞こえる。「クルッ」「キュウルルッ」

未だ小さな鳴き声。自分の前に僕の飛竜が現れた。僕は飛竜と目を合わせて、

「初めまして、僕はトール。君の名前はマックスだ。マックと呼ぶよ。」

「?キュッ。マキュウキュッ」

え!なんか鳴き声がチョット違うような気がする。勘違いかな。個体差であるかも?






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