第九話「内政」
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2025年3月2日。第一回陽洋共和国上下院総選挙が行われた。
「情勢安定化と食料自給率100%、少子化解決」を公約とした陽洋自由党は、野党共闘となり統一候補を出した陽洋民政党との一騎打ちとなった。
「僕は兵庫、池崎は岡山、田宮は静岡選挙区か。池崎と田宮は当選が濃厚だけど、兵庫選挙区には元与党の前文部科学大臣がいるからなぁ」
高坂がそう言うと、田宮はこう言った。
「心配しなくても、街頭演説しまくったでしょ。結果はきっといい方に来るわ」
時刻は7時59分。高坂らは電話を止めそれぞれの会場に向かう中、テレビでは選挙特番が始まった。
「こんばんは。まもなく第一回陽洋共和国上下院選挙の開票速報が始まります。陽洋共和国では18歳以上に被選挙権が与えられており自由党は35歳以下のみを擁立。注目は、野党共闘となった民政党と大胆な公約を打ち出し注目された自由党の一騎打ちです。まもなく出口調査の結果が出ます!」
カウントダウンが進み、いよいよ8時になる。
「自由党が上院360議席中246議席、下院640議席中469議席を取って過半数で与党に!35歳以下のみを候補として擁立しましたが政権を確保しました!」
その直後、池崎と田宮の当選確実が出るが高坂は中々出ない。
民政党の候補と競っているようだ。
「そして大統領に決まっている高坂由真氏は現在民政党で前文部科学大臣の箕部氏と競っており、当選確実は出ていません」
そこから3時間、開票は進み開票率57%。
「現在箕部氏が高坂氏をわずかにリード。しかし差は0.3%とまだまだわからない状況です」
高坂は若干不安になりながら、応援会の会場で待っていた。
4時間後、深夜になり眠気も出てきた。
「ここで当選確実の速報です!高坂氏が得票率52.1%で兵庫選挙区で当選確実!」
ホッとした高坂は、支持者への挨拶をした後すぐに仮眠を取った。
翌朝、高坂は東京の大統領府へ向かい組閣について会議を行っていた。
その後、引き継ぎ式へと移動。いよいよ大統領としての日々が始まる。
「高坂くん。これから頼んだよ」
椎野総理はそう言って総理官邸を後にした。
翌週。国会が始まるのを前に国営半導体企業「Medama」の売上について報告された。
「昨日までの1年で純利益は560億の黒字。台湾の大手からの仕事もあり順調な利益です。」
高坂はこう言った。
「なんか圧倒的な半導体作れないかな」
これがのちに本当になるとは、思ってもいなかった高坂だった。
「2025年度、陽洋共和国下院議会を開会します。まず、大統領高坂由真さんの演説です。」
議長がそう話すと、高坂は演説を行う。
「皆様、私はプログラマーです。ですが、この国を変える意思を持っています。国民の皆様、そして議員の皆様。この国を、必ずいい方向に向けましょう!」
そうすると拍手が広がるが、民政党の議員からは「プログラマーが政治語るな!」などといったヤジも聞こえてきた。
「それでは、民政党、辻丸浩紀さん」
まずはじめに野党の党首が質疑を行う。
「まずはじめに、与党といえば裏金が問題になっていましたが自由党で対策などは行っていますか?」
裏金。政治のニュースを見ているとほぼ必ず出てくる話題だ。
「自由党では、使用したお金を必ず党内のシステムに申告するようにしています」
民政党の党首はこう返す。
「システム制作にお金がかかったのではないでしょうか?無駄な税金が!」
高坂はこう返す。
「いや、私と池崎と田宮の三人で自費で作っています」
党首は返す言葉を考えた後、こう話す。
「なるほど、お答えいただきありがとうございます。では、続いて公約の食料自給率100%!あんな事は可能なのですか!」
高坂はこう返す。
「可能だから公約にしているのです。国有地や提供された農地を複層農場や複層の牧場にし、効率的な生産を行います。既に2日前に建設が始まった所もあり、今年度は10%の自給率増加を目標としています」
党首は何も言い返さず、こう言う。
「では、次に少子化問題。マッチングサービスを国営で公開し子供一人あたり20万の補助金を出すということですがサービス制作と補助金の財源は?」
高坂はこう返す。
「マッチングサービスは私と池崎と田宮が既に基礎システムを完成させております。また、補助金に関しては国営半導体企業の純利益として黒字が560億出ておりますので」
民政党の党首はだんまりしながら質疑を終えた。
続いて、民政党の幹事長が田宮に質疑を行う。
「田宮副大統領は同性婚合法化法案を提出予定と話しましたが、それは本当に必要なのでしょうか?」
田宮はこう返した。
「必要です。世界では再び多様性を無視するようになっている国がありますが、陽洋共和国が率先して多様性を重視する事が大事だと考えます」
幹事長はこう返した。
「多様性は大事かもしれませんが、当事者達の事は考えているのでしょうか?」
田宮はこう返した。
「私は池崎さんと交際関係にあります。なので同性愛者になると思いますし、当事者の友人も『同性でも好きな人とは結婚まで行きたい』と話しています。もちろん、公私混同にならないように国会など公務ではちゃんとしておりますよ」
国会がざわつく中、幹事長はこう返す。
「分かりました。頑張ってください」
「池崎と田宮って付き合ってたんだ」
高坂は驚きながら質問する。
「ええ、現実で付き合い始めたのは先月からですし、選挙区の都合もあって自宅はそれぞれ別ですけどね」
翌月。国会は会期を終え、高坂と田宮は百多々を視察するため政府専用機に乗り込んだ。
「国鉄の高速鉄道と採石場視察か」
高速鉄道に乗り、百多々南部に移動する。
グリーン車のような車両を貸し切り移動しているが、乗り心地は今までにないくらい良く速さも400km/h出ているらしい。
「まもなく、列車は南浜に到着です」
南浜、沿岸部には海軍のドックもあるらしい。
「ここが国営南浜採石場です。主に純魔石が取れます」
「純魔石?」
田宮がこう聞くと、担当者はこう返した。
「採掘しても10年で復活する上、多く採れることから百多々ではよく建材に使われる鉱石です。価値はほとんどないですが、不思議な事に電気に反応するんで伝説で『触ったら光る石』という話もあるんです」
すると、高坂は興奮しながらこう言った。
「それって、半導体の材料になったりしないか!?」
田宮はこう言った。
「それなら半無限に採れる上コストを抑えた半導体が作れますね。Medama社に送ってみますか」
2週間後、北海道にあるMedama社工場。
高坂の予想は当たっており、シリコンに近い性質を持っているほか半導体としてはシリコンよりかなり高性能だと判明。純魔石を使用したコンピュータ用半導体を製造することを会議で話し合っていた。
「純魔石をシリコンウエハーのように加工したところ、半導体は熱耐性が五倍、電力効率に至っては十倍という結果が出ました。」
技術者がそう言うと、もう一人の技術者はこう言った。
「グラフィックボードってあるじゃないですか。あれって高性能なのだと市販品でも30万円とかするのであれを低価格にして売れるんじゃないですか?」
高坂はそれに頷き、低コストのグラフィックボードを試作することになった。
その三週間後、試作品が完成した。
純魔石グラフィックチップ「MGP-1」。消費電力100Wを切り、レイトレーシング性能が市販最上位モデルの二倍、AI性能は五倍、独自のアーキテクチャを搭載した代物である。
「それでは試験を始めます。起動確認!続いてベンチマークを開始!」
高坂はゲームベンチマークを見ながら、こう話した。
「ん、市販最上位のハイエンドモデルより数値が良く出ながら進むな」
ベンチマークの結果が出ると、技術者は驚きながらこう言う。
「凄いですよこれ!現行の最上位ハイエンド、DIVIA5090より三倍早くAI性能は五倍ですよ!これはCPUとかを作っても革命的な性能が出ますよ!」
田宮はこう言う。
「消費電力が抑えられるってことなら、データセンターとかは楽になりそうですね」
高坂はこう返す。
「いや、こんなの市場に出したらアメリカのメーカーが全部潰れる。しかもこのテストモデルはVRAM8GBでこの性能だ。VRAM24GBなんかにしたらこれを数台使えばAIのモデルが作れるぞ」
その日以降、Medama社の北海道・群馬・熊本の三工場は純魔石半導体専用ラインに改装され、CPUやマザーボードも製造を始めた。
2025年8月1日。Medama社製純魔石グラフィックボード「MGP-1」が1万2980円で発売。
はじめは実績のない国営企業が突如発売した謎のグラフィックボードであまり売れなかったものの、購入者がベンチマークを取った所30万円を軽く超える価格に上がっていたDIVIA5090の三倍の性能を出したことを動画にし、2日目から爆発的に売れた。
東京・秋葉原や大阪・日本橋、百多々・春葉では大行列ができ売れまくった。
高坂は大統領官邸で池崎と田宮にこう話した。
「これから世界のコンピューター産業は、我が国がほぼ独占状態になってしまうだろう。これに合わせ、民間企業を呼び込み『魔石のシリコンバレー』を北海道に作る事にする」