第一話「転移」
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「こちら百多々政府空軍SD-2Ti、DEF23である。ここは我が国の領空である。直ちに撤退せよ。繰り返す……」
これは2025年1月、中東・レバノン沖で巨大地震が発生した後米空軍の偵察機が受信した国籍不明機の放った最初のメッセージである。
その国籍不明機は、まるでUFOだとアメリカ大統領のジェイミー・L・スミスは語った。
「正直、私も信じられない。しかし、そこには本当に島があり、人工的に形成されており、ビルも発電所らしきものもあり、人もいた。これは脅威だ。アメリカ政府は調査を続けていく」
混迷している世界の中に、突然現れた島。
しかし、さらに驚くことが起きたのだ。
「只今から百多々自治政府大統領からのメッセージを代読する。我らに敵意はない。我らは事故によりこの世界に転移してきたのだ。教えてほしい。この世界の事を」
転移してきた異世界の国家。それが突然現れた島の正体だと米空軍の偵察機は報告した。
しかし、スミス大統領はそれを信じなかった。
「こんな戯言が信じられるか!この百多々とか言う国……いや国ごっこしてる奴らはやはり怪しい!」
演説の中で強い口調で話したスミス大統領。
ただ、そんな敵対姿勢に対しある国は友好を模索していた。
日本。アメリカの同盟国である。
「総理!本当に百多々とかいう本当に国なのかすら分からない場所に自衛隊を派遣するんですか!?」
そう言ったのは、防衛副大臣の宮下洋平。
「あの通信聞いただろ。日本語だ。しかもアメリカが出した10枚の画像には、大規模な都市とUFOのような飛行体があった。アレは必ず日本にとって有益だ」
そう返したのは、内閣総理大臣の椎野塁だ。
「……分かりました。それで、いつ頃派遣予定なんだ?相手に許可を取る必要もあるだろう」
「早ければ来週だ」
「来週!?」
こうして、自衛隊の百多々派遣が決まった。
「それで、なんで俺が?」
これは、その派遣に唯一民間人として選ばれた男「高坂由真」の物語である。
大阪でプログラマーをしていた高坂は、防衛省を標的としたサイバー攻撃に一人で対処し撃退した事がある敏腕プログラマーだ。
「プログラマーっていうより、その性格や趣味が買われたんだろうな」
そう宮下は言う。
「性格や趣味?あぁ、アニメは好きですけど……」
「そろそろ出発だ。15時間くらいは掛かるから眠たいなら寝ておいてくれ」
時間は日本時間午前2時。一応秘密裏に行われる為、この時間に出発するのである。
輸送機はインド洋上空を飛行中。
「そういえば、あっちって通信回線あるんですかね?」
高坂は聞く。
「知らん。まあSD-2Tiとか言う謎のUFO的なのを作れて飛ばせてるから技術はありそうだが」
宮下はこう返したあと、衛星地図を確認していた。
「現地時間午前10時。まもなく百多々上空に入る」
そうアナウンスが入ったと同時に向こうから凄まじいスピードで、例のUFOのような機体がやってきた。
「こちら百多々政府空軍SD-2Ti、DEF38である。ここは我が国の領土である。直ちに撤退せよ」
こちらからはこう返す。
「こちらは日本、航空自衛隊。我々は敵ではない。あなたたちと話をしに来た。」
すると、例の機体からこう返答があった。
「例の同言語国家か。百多々空港への着陸を許可する。こちらがサポートする」
例の同言語国家。百多々からしたら、異世界で唯一同じ言語を話す国が日本だけだからそう認識しているのだろう。
「まもなく着陸態勢に入る」
そうアナウンスされた後、宮下はこう話した。
「予想以上にちゃんとしてるな。この空港には滑走路が4本もある。もし異世界から来たのが本当だとしたら、ここはハブ空港だったのか?」
宮下はメモを取り、窓の向こうに見える都市などを記録する。
「国際線ターミナルが今は休止中だ。出口のすぐそばにバスを用意している。大統領府まで直行してくれ」
日本から派遣された自衛隊らは保安検査を受けた後、外のバスターミナルに並んでいるバスに乗車する。
「日本のバスとあまり変わらんな」
そういう声が聞こえてくる。実際、四列シートで日本でもよく見られるバスと同じような雰囲気だ。
「出発します」
バスは空港を出ると、高速道路らしき高規格道路に入る。
高速道路はそれなりに通行量があり、転移してきたことによるパニックは起きていないようだった。
「四車線の高速道路が普通に通ってるのか」
宮下はそう言った後、遠くの建物を見て驚いていた。
「あのビル、ブルジュ・ハリファより高く見えるのだが」
ブルジュ・ハリファは、ドバイにある世界一高いビルである。
宮下は防衛副大臣になる前は外交官であり、高層建築オタクだ。
そのような高層建築には目がないようだ。
「まもなく大統領府です。検査があるので少し待っていてください」
大統領府の入り口でしばらく停車した後、バスは門の中に入っていく。
「到着しました。担当が案内してくれますので、バスを降りてお待ちください」
すると、驚きの光景が待っていた。
「日本の皆様、ようこそ百多々へ。私が大統領の元まで案内します」
そこには、ホログラム投影された女性が居た。
「なんだこれ、地面に機械も何もないのにホログラム投影されてる」
すると、女性はこう言った。
「大統領府全体に特殊な魔力を張っており、投影が可能になっています。」
そう聞いた全員が困惑した。
魔力など創作上のもの。
しかし、この国は本来地球ではないどこかから来た訳だ。
だから魔法などもあるのだろうということで、ひとまず大統領の元へ向かった。
「魔法かぁ。アニメの世界みたいだぁ」
高坂はそう言いながらテンションが上がっていた。
「ここが大統領執務室です。そこまで大きくないので、代表者だけ入るようにお願い致します。」
そう言われると、宮下は高坂の腕を持ち部屋に入る。
「えっ俺ですか!?」
「失礼のないようにな」
大統領執務室。そこには、青い髪の若い男性がいた。
「百多々自治政府総合府大統領の、百々原蒼です。」