器
とある村に、神様が住む小さな祠があった。その神様は村人たちの悩みに耳を傾けたり、時には願いを叶えたりして、昔からとても大切にされてきた。
ある日、一人の青年がその祠を訪れ、気安い調子で話しかけた。
「なあ、神様。どうしてこんな小さな村にずっといるんだ? 都会に行けば、もっと有名になれるだろうに」
すると、祠の中から重々しくも優しい声が響いてきた。
「私はこの村が好きなんだ。村人たちが幸せでいてくれれば、それで十分なんだよ」
青年は鼻でふんと笑った。
「そんなこと言ってさ、本当は大した力がないんだろ? 都会なんて怖くて行けないだけなんじゃないか? 願いを叶えるって言っても雨を降らせたり、怪我や病気を治したりするわけでもないだろ。せいぜい探し物を見つけるくらいで、でもそれも、ただの推測や勘だったり、話しているうちに置き場所を思い出させてるだけじゃん。指に刺さった棘すら抜けないなんて、神様としてどうなんだよ。なあ」
と、青年はせせら笑った。だが実を言えば、都会に出たがっているのは彼自身だった。けれど、不安もあり、村を離れるのが怖かった。だから、こうして神様を煽り、一緒に村を出る流れになればいいな……と、そんな甘えた期待を抱いていたのだ。
もっとも、神様には、そんな浅はかな思惑などお見通しだろう。
ふと気恥ずかしくなった青年は、口をつぐんで顔を逸らした。そして、ちらりと祠を見やる。
そのとき、祠の中から声が返ってきた。
「……うるせえなクソガキが。生意気な口きいてんじゃねぞ。死ねよ」
「あっ、“器”が小さいからここにいるのか……」