神童の家庭教師
1ヶ月後、
「貴方がオルガさんの子供...」
「初めまして。「神童」クラリス・バフォメットさん。レイ=ヴィネアと申します」
話に聞いていたとおり、神童様は女性だった。白い髪のロングヘアーに紅の瞳。思わず見惚れてしまうような容姿の持ち主だ。18歳くらいだろうか。
「オルガさん、本当に修行をするんですか?まだ14歳と聞きましたが。いくら諜報員の人員が少ないからって、ここまでしなくても...てかその通り名...」
「大丈夫だ。レイは類まれな才能を持っている。何人もの諜報員を育てた私が保証しよう」
ならいいですけど、とクラリスが僕に向かって振り返る。
「それでは、貴方がどれくらいの強さなのか知っておきたいので外に出ましょうか」
庭に出て、
「とりあえずかかってきてください」
完全に僕のことを舐めている。果たしてどのくらい強いのだろうか。
お互いに剣を引き抜き、構えを取る。
「見たことのない形の剣ですね。異国のものですか?」
「ええ、まあ」
僕が構えたのは日本刀。この世界では洋風の剣が主流だったから、馴染みが深いデザインの刀を生成しておいたのだ。見たことがないのは当然だ。
「では、参りますー魔流・黒波」
漆黒の波がクラリスに襲いかかる。
「14歳にしてその剣技...見事です。魔流・黒波〈光〉」
煌めく波が僕の軌跡をかき消していく。
ついに僕の剣と交差する。キーンと高い音が響いた。
「くっ!」
とっさに身を捻って回避。受け流される刃を無理やり合わせて押し込んだ。
「技量の分を高いフィジカルでカバー。良い手とはいえませんね」
たしかにその通りだ。力をめいいっぱい加えても、技量がかけ離れている相手には無意味。剣にも負担がかかり悪手なのである。
クラリスが一瞬で距離を詰め、技を放つ。
「魔流・黒雷!」
剣が雷を帯び、恐ろしい破壊エネルギーを伴って僕の脳天が砕かれようとしたその瞬間。
ーC級「空壁」!ー
目の前で剣が防がれた。僕の身代わりとなった壁が光の破片と化しながら消え去る。
「⁉なぜ。私の攻撃は確かに当たった。そして貴方はさっき、詠唱をしていませんでした。...!そうですか。無詠唱魔法、使えるんですねー」
「御名答」
僕はニヤリと笑ってそう答えたのであった。が、次の彼女の一言でそれは驚きへと変わる。
「ー私と同じで」
彼女はそう言うと無詠唱で「空気弾」を放つ。
やばいと思って急いで回避をするが、それは必要なかったようだ。
なぜだか、彼女の魔法は遅いのだ。勿論通常の速度と比べて、だ。
普通の速度が50km/hくらいだから、体感30km/hといったところか。
そして何より、
「魔力が見え見えです」
完璧な魔力制御ではないかぎり、視認できる魔力はゼロにならない。僅かだが、空気に「色」がつくのだ。
「失敗ですか。オルガさんが推薦するのは単なる親バカじゃなかった、と。仕方がないですね。みせましょう、本気を。『戦装!!」
そう言うなり、彼女の風貌が変化する。
白い髪は背中まで伸び、1対の翼が生えている。そして目を見開くのはその魔力量。
恐らく、僕と同じくらいか、それ以上。
ーコレが神童、クラリス・バフォメットの本気ー
「行きますよレイ=ヴィネア。魔流・黒影」
クラリスが一瞬で距離を詰め、一撃を放つ。
間一髪躱せた。そう思ったが、
ポタリ。
血が地面に落ちる。避けたはずだ。あの技の効果を思い返し、納得した。
「刀身の錯覚か...」
黒影は相手にリーチを偽装する技。剣先を透明化して斬りを出す。
「どうですか?降参しても良いのですよ?」
この娘、めっちゃ煽るじゃん。指摘を結構根に持っているようだ。
「早く諦めー」
言葉を言い終えずに彼女は倒れた。
「油断したなクラリス・バフォメット。僕は諜報員だぞ?何もかも隠してこそだろう」
これが僕の考えた作戦なのだが、何も難しいことはしていない。
まず無詠唱で先ほどクラリスが撃ったような「空気弾」を作る。それも結構小さめに。
「気配隠蔽」を付与して完璧な魔力制御ではないが認識を不可能にする。
それを顎に当て、脳震盪でゲームセットだ。傍からみれば勝手にクラリスが倒れたように見える。不意打ちとはいえ大勝利だ。
お久しぶりとなります。ゼナです。高校受験にも無事合格し、春から高校生になれます。皆さんの応援あってこそです。本当にありがとうございます。また更新します。お元気で