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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ 13歳 王国騒乱編
97/110

96 薬師、王子たちを巻き込む。

手紙から始まるエトセトラ

『 薬師 ストラ・ハッサム殿

 此度の流行り病対策への貴殿の尽力を称し

 王より直接、ねぎらいの言葉を贈る。   』


 イラっとした。上から目線なことはいい。だが言葉足らずのこれはなんだ?

 王城からの手紙を丁寧に開けて、ちらっと読み、私はそれを閉じる。

「リットン君、突然だけど、ハッサム村へ帰ろうか?」

「お嬢、さすがにまずいっすよ。」

 超逃げたい。もといこの手紙を書いた人間をボコボコにしたいわー。


 というわけで、外に待機していた王子2人ついでに、暇そうにしていた獣人兄妹も引き連れて泣きついたのはメイナ様のゲストハウス。何事かと首をかしげるロイヤルなキッズたちにその手紙を見せ、使用人たちに聞こえるように、文面を読み上げれば、ゲストハウス全体の空気は当然のごとく、凍り付いた。

「なんたる無礼だ。王国の書記官は礼儀を知らんと見える。」

「お義理姉様の貢献に対して、このような文面、しかも礼儀がなっていませんわ。」

 客観的な意見を出すのは獣人兄妹。この二人はあとで親戚の兄ちゃんのことも話さないとなー。

 しかしながら、それ以上にこの手紙は問題である。

 まず敬称が雑。薬師というのは職業であり身分ではない。男爵とはいえ、私は貴族であり、この場合は「ストラ・ハッサム男爵子息」あるいは「ストラ・ハッサム男爵令嬢」と記すべきである。また「王より直接ねぎらいの言葉を贈る」というのもおかしい。手紙の時点で直接でないし、仮にそうだとしたら、もう少し丁寧かつ具体的に言葉を書く。なんならそういう慣用句だって存在する。

 意図的なのか、手抜きなのか知らないが、この手紙は明らかに私や薬師という存在を軽く見た相手が、私を馬鹿にするために書いた手紙となる。

「これはひどいわ。このまま、王へお返しすべき手紙です。失礼すぎます。」

「そうだな、俺たちの方でも、担当の書記官は調べておく。」

 学園のママとパパもプンプンである。手紙の仲介を任された王子たちからすれば、顔に泥を塗られたようなものだ。何を考えての行動か知らないけれど、この手紙を書いたやつは大馬鹿だ。

 これでも私は学園でもトップクラスの成績を誇り、スラート王子やメイナ様などロイヤルな次代たちとも交流がある。手紙に込められた悪意には当然気づくし、それを相談できる相手だっている。いや何なら一般学生でも、先生に相談すれば、この手紙がいかにひどいか周囲に広まるだろう。

「というわけで、苦情は出したのであとはお願いします。私はまだ診察があるので。」

「「「「そういうわけにはいかない。」」」」

 ですよねー。

「父上、国王からは、手紙の内容に不備があったら、俺たちがフォローしろって話だったし。」

「ガルーダ王子、これはフォローとか以前の問題です。」

「そうだ、ハッサム嬢。これを機会にラジーバへ移住しないか。国を挙げて歓迎するぞ。」

 フォローしようとするガルーダ王子だったけど、獣人兄妹がさえぎる。

「ストラ、怒りたい気持ちは分かりますけれど、国王の意図がアナタとの直接の対談だってことはわかっているのでしょう?」

 ぎゅっと私の腕に抱き着き、励ましてくれるメイナ様。慰めてくれているのはわかるけど力強くない。

「そっそうだ。俺たち王子が、エスコートし、いやエスコートさせていただきます。国王陛下は、流行り病を早期に収束させたのが薬師殿ってわかっているんだ。だからこそ、直接会って御礼を言いたいんだって。」

「メイナも同席してくれる。なんならマルクス王子とソフィア嬢も一緒というのはどうだ。此度の一件は、2人の協力があったことは父上も理解している。そのあとのパーティーには、2人も招待されているし。」

「パーティー、バカじゃないの?」

 王子たちが気の毒ではあった。彼らかすれば正式な招待状が私に届き、それをエスコートするだけの仕事だったはずだ。なのにこの手紙の所為で、事態がおかしなことになりつつあるのだ。

「まだ、はしかが完全に収束したわけじゃないのに、パーティー、集団での乱痴気騒ぎとかなめてんのか?王城でパンデミックでも起こしたいのか、今すぐ中止にさせなさい。」

「ええ、しかし。」

「それで、また感染が広がるなら、マジでラジーバでもスベンでも、私は移住します。少なくとも今回の件からは手を引かせていただきます。」

 私は今度こそキレた。感染症対策の基本として、不要不急の集会や外出は自粛するものだ。それを何をヘラヘラとパーティーだと?せめて、北伐が終わってからにしろっての。

「わ、わかった、すぐに連絡を。」

「今、いけ、ガルーダ王子。この手紙も含めて、国王様によろしくお伝えください。」

「わ、わかった。チヨ。行くぞ。」

 王城からの手紙を押し付けて、王子をパシリにする。

 この時点で私は、かなりアレだったと思う。じいちゃんたちからの手紙で薬師としての心構えを再認識したばかりだったのもある。

 はっきり言っておくと、この集まりだって全員マスクつけてるからね。それだけはしかや感染症は、収束するまで先が見えないのだ。

 いかん、眉間にしわがよっている。

「お義姉様、落ち着いてください。」

 そんな私の腕に、ソフィア様がぎゅっと抱き着いた。

「回復魔法でも対処できない病。それは国の存亡に関わる一大事です。それの解決策を見つけた時点で、お義姉様は英雄です。歴史に残る偉業を成し遂げたのです。私たちはそれを理解しているし、もともとお義理姉様を尊敬しています。一部の愚か者の言動なんかで、それは揺るぎません。」

「そうよ、ストラ。そうでなくても私たちにとってアナタは大切な人よ。だからこそこの手紙には起こるし、気の抜けた王城の人達にはうんざりするけど。怒りで目を曇らせちゃだめよ。国中の人がアナタの提案した対策を守っているし、愚か者を処罰するのは他の人の仕事よ。」

 両腕に感じる温かさと、素直な言葉が胸にしみいるようだった。

「失礼しました。連日バタバタしていたので、余裕がなかったようです。」

 疲れていた。

 そう言い訳して許されるわけではない。

 冷静に振り返れば、この手紙に対して「お気持ちは受け取りました。」と一筆添えて突き返せばよかっただけだ。あとはそれを言質に、色々と面倒なイベントをスルー出来たわけだ。

 パーティーなんて乱痴気騒ぎをして、感染が広がったところで、できることは変わらない。対処療法はすでに広まっているのだから、そんな連中まで私が面倒を見る必要もなかったのだ。

 貴賤も理由も問わず救える人間は救う。

 だが、バカにつける薬がない以上。私が同行できることではなかったわけだ。

「落ち着いたみたいね。」

「すみません、メイナ様。お騒がせしました。ソフィア様もありがとうございます。」

 なだめられ、慰められて初めて分かることもある。手紙からこっち、今日の私はどうかしていた。

「いいのよ。それがアナタだもの。」

「そうです、なんだかんだ、言って何もかも面倒見ようとする優しいお義姉様です。」

 うん、ソフィア様、まじでリットン君の嫁に来てくれないかなー。一緒に温泉に入りたい。

 と和む空気に、周囲の温度も少しだけ戻ってきた。ガルーダ王子はお付きのチヨさんを連れて王城へ向かい、マルクス王子はスラート王子と何やら話している。使用人さん達は?

「待ってください、何ですか、そのドレスの山は?」

 やばい、と思った。両腕に込められた力がさらに込められて動けない。

「気づかれたか。」「気づかれましたね。」

「ふ、2人とも何を。」

 左右を見るとニコニコと笑う親友たちの顔がある。

「では、メイナ、ここは任せた。俺は書記官へ確認へ行ってくる。」

「お任せください。スラート様。ピカピカに磨いて、みなを驚かせてあげますわ。」

 そそくさと出ていく野郎ども。そして変わりに補充される使用人さん達。その手にはブラシとかタオルとかなんか高そうな化粧品の山が。

「ストラ、ごめんなさい。手紙の内容はあれだったけど。登城と国王との謁見は決定事項なのよ。」

 ごめんと言っている顔じゃないなー。

「私たちも付き添いという形でご一緒しますから。」

 ソフィア様、この場ではアナタが一番ロイヤルな人ですよねー?

「「明日の謁見に向けて準備をしましょうね。」」

 なんてことだ。

「し、信じてたのに。ひどいわ。」

 私の叫びは虚しく響きわたった。

 まだ昼前だったはずなのに私が一時解放されたのはその日の深夜だった。そして、その日はゲストハウスに止まり、翌日は早朝から徹底して準備をさせられた。

 うん、もうどうなってもいいや。




ストラ「いらっとしました。」

メイナ「絶対に許さない。」

スラート「この国はもうダメかもしれない。」

 手紙一つでこじれる関係 次回、王城へ乗り込みます。

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