94 ストラ 万病薬をさらっと作り出す。
少女暴走中
はしかの流行で王都がゴタゴタして1ヶ月間。一度は過労で倒れた私だけど、2日ほど休んで即座に回復、学園ないの防疫対策とか治療薬を模索す日々はかつてのブラックな教師生活を思い出すものだった。
「だーかーら、回復魔法をかけてくれよ、それで動けるようにはなるから。」
「にがーい、もっと甘くしてくれない?」
甘えたことを抜かすのが学生ならまだ可愛げがある。不満を言いつつも柔軟な思考をできる若い子たちは、私が必要と言えばしぶしぶと従ってくれた。
「た、助けてくれ、聖女さま、聖女様の回復魔法なら。」
救いようがないのは、分別も忍耐もないバカな大人だった。くそ忙しい中で、急患だと騒いで、私とメイナ様を呼び出した上で、ベットで震えながらそんなことを言いやがる。
「だめですよ、国からかのお触れ通り、回復魔法では、病気のもとも活性化してしまいます。薬を飲んで安静にしておいてください。」
「う、うるさい。いいから。」
「ジジジ(かかれー。)」
中には部下を使って脅しまがいなことをして、回復魔法をねだるやつもいたが、例外なくハチに撃退され、兵士たちのお世話になった。
「金なら出す。薬を。」
「そんなものはない。」
あったら、即座に量産して楽しているっての。
そんな日々も落ち着いてきたころ。私は気分転換にクマ吉の寝床、もとい学年園へと来ていた。
「さてさて、畑はどうかなー?」
「ぐるるる(なんか生えてるよ。)」
ペタンと伏せてくつろぐクマ吉にどいてもらいながら、しげしげと畑をみると、たしかになんか生えていた。
20センチにも満たない小さなそれは、つるのように何本も茎が生え、青白い葉っぱがいくつもついていて、見た目は、オオバコのようなものだった。
「うん、ううん?」
よく見ると畑のあちらこちらに生えている。他にも色々植えていたはずなのに、どうやら、この草に生存競争で破れたらしい。
「まあ、それはいいとしてさあ。」
なんでこれがここにあるんだろう?
震える手でその一部をちぎり、ハルちゃんたちに見せる。
「じじじ(強い力がある草)。」
「ふるるるる(このままじゃ食えない、毒だぜ、姐さん。)」
だよねー、毒だよねー。ただ、ゲームの知識がめっちゃ警鐘を鳴らしている。
「クマ吉、ここで何かと戦った?」
「ぐるるる(ここでは、寝てただけ。)」
「そっか。」
お、落ち着こう、まずは専門家に聞くことだ。
いくつかのサンプルを手に入れた私は、園芸学のダメエルフの元に突撃して、それを見せた。ちなみにこのダメエルフは、最初期に感染してぶっ倒れて、それを理由に防疫の手伝いもせずに引き篭もっていたので、居場所はすぐにみつかった。
「ああ、これは「精霊草」だねー。随分と珍しいものをもっているんだね。」
「ああ、やっぱりか。めんどくせー。」
植物の知識だけは確かな、ダメエルフの鑑定ならば疑いようがない。このただの雑草にしか見えない草がえげつないアイテムであるこはたしかだ。
「なんか、ひどくない。でもまあ、ストラ君も知っていると思うけど。「精霊草」は精霊の死体があった場所に生えると言われる毒草だ。まさかと思うけど、お友達の誰かは死んだ?」
「いや、それはないです。少なくとも、あの場所でそんなことはありえません。」
「ああ、あのクマのところか、確かにそれなら把握しているようね。」
精霊草というのは、幻の毒草である。そのままではただの草だけれど、魔力を込めることで強い毒性を発揮する、ファンタジーな草である。その毒性は口に含めば精霊すら殺すと言われるほど強い。栽培は不可能で、野生でもほぼ見つからない。エルフに伝わる伝説では、精霊の死後、その死体から栄養を吸って育つと言われている。私が慌てたのは、その伝説を知っていたのが一つ。
「で、どうするのこれ? 厄介ごとが嫌なら焼き払った方がいいと思うけど。」
「まあ、そうなんですけどねー。」
そしてもう一つ理由がある。この「精霊草」、ゲームでもかなりのレアアイテムだった。なにせ。
「ああ、あれ、もしかして「万能薬」を作りたい感じ?」
「はい。」
そう、「精霊草」は、それだけでは毒なのだが、特定のアイテムと組み合わせるとあらゆる状態異常を治す「万能薬」となる。ゲームでは、敵の罠で毒を盛られた仲間や、不治の病に苦しむモブを助けるためにつかうイベントアイテムでもあった。
「研究するのは止めないよ。でも「万能薬」の製法はエルフの間でも廃れてまともな記録は残ってない。当然、だけど僕も知らない。」
「ああ、そこは期待してないんで。」
「ひどくない。これでも君がかなり正解に近いことはわかってるんだから。」
ははは、やっぱり知ってて黙っているつもりだったな、このダメエルフ。
聞き出すまでもなく、「万能薬」のレシピは私の記憶の中にあった。問題は分量である。
「精霊草と、度数の強い酒、魔物の卵の卵白と精霊の身体の一部は、ハチミツでいいか。」
ぶつぶつと言いながら私は、寮の自室に材料を運び込んで鍵をかける。リットン君は人払いを頼むついでに数日近づかないようにした。一応、違法薬物だからねーこの草。
「じじじ(で、どうするの?)」
「うん、まあ、色々やってみる。」
酒と卵、ハチミツはアサギリ村から贈られた試供品。ゲームでは手に入れるのにそれなりに苦労するもっとレアーなアイテムを使っていたけれど、薬師としての知識がそこまでのものを要求しなかった。
「まずは精霊草を酒につける。」
ボールに刻んだ精霊草を入れて、酒を入れる。恐らくはアルコールによる消毒、あるいは成分の抽出が目的なんだろう。そのままぐるぐると混ぜると、透明な酒(前世のウォッカのようなもの)に緑色の成分が溶け出していく。
「うわーえぐい。」
頑丈な手袋をして、もう一つのボールに布を敷いて漉して、ぎゅっと絞る。問題なのは、搾りかすを使うか、液体をつかうだけど。
「ふるるるるる(姐さん、これはまずい。毒だ。)」
酒好き梟ことサンちゃんの指摘で液体は別の場所動かして、残った搾りかすをみる。確かゲームでも丸薬だったはずなので、こちらの方が可能性が高いだろう。
「卵は卵白だけにして、ハチミツと混ぜてたと。お願い。」
「じじ(任されよ。)」
卵はあえて卵白だけを使う。卵黄にも栄養があるが、薬作りでは、卵白を使うことが多い。前世の市販薬の多くは、卵白を加工して固めたものだと言うのは何かの本で読んだ。まあ、それがいいかどうかは知らない。
「これって、あく抜きなのか?」
搾りかすになった精霊草を新たて見ながら、ふとそんな考えが浮かぶ。タラの芽やぜんざいなどは美味しいけれど、そのまま食べると食あたりになる。だから重曹を溶かした水につけたり、灰につけたりしてあく抜きをする。
毒と毒を組み合わせて、解毒をするという考えはある。だが、薬は有効な成分を抽出して調合して作る。トリカブトは漢方薬として使われることもあるけれど、少なくともこの世界とじいちゃんの教えの中に強い毒を組み合わせるという考えはなかった。
ご都合主義な考えだけど。ゲームで数行のテキストと演出で作られたアイテムに、そんな複雑な工程はないと思いたい。
「これはあとでどうにかしよう。」
毒が溶けたと思える酒は、厳重に封をして放置。残った材料を、なんとなくで混ぜていく。泡立った卵白はメレンゲだねー。実際の市販薬だとなんか遠心分離機とか使っていたようなイメージだったけど、よくわからないから混ぜて固める。これは・・・
「サンちゃん。」
「ふるるるる。(任されよ。)」
鉄板の上に並べた生地をサンちゃんにあぶってもらい。
「レティ。」
「ぴゅううう(このくらい?)」
粗熱を取って固まるのを待つ。
「上手くいけば、あざかな緑色になるんだけ?」
まあ、最初の一回は黒焦げになったんだけど。
「じじじ(これはゴミ?)」
「ぴゅうう(美味しくはなさそう。)」
まあ、一回で上手くとはおもってなかったけど。
「でも手ごたえはあった。」
問題は分量だ。最初だからメレンゲ大目にしたから、すぐに焦げてしまった。
それが分かればなんとでもなる。
その後、3日ほど試行錯誤を繰り返した結果、私は記憶と文献と外見の一致する緑色の丸薬を作ることに成功したけど。
「ストラ、何考えてるの、このバカ。」
その後にぶっ倒れてメイナ様にめちゃくちゃ怒られたのはご愛敬だろう。
ストラ「なんかできた!」
ハル「じじじ(なんかすごい薬だ)」
サンちゃん「ふるるるるる(この酒、毒抜きしたら美味そう。)」
さらっと作っていますが、生薬の配合や、薬の処方は専門の知識と資格が必要です。あくまでファンタジー。