85 リットン君の人気が面白いことになっていた。
獣人王子とのすったもんだ2回目です。
怒りに任せて、クマ吉を召喚しようとして、そこまでじゃないなと思った私は、ハルちゃんとサンちゃんに指示をだす。
「やっちゃえー。」
「ジジジ(いいよ、やっちゃえみんな。)」
「ふるるるる(たぎるぜー)。」
ハルちゃんの号令の下、隊列組んで突撃する兵隊ハチと、私の肩に乗って力をためるサンちゃん。
「くそがー、しかしこの逆境をはねのけてこそだ。」
時間差で飛び込んでいく兵隊ハチ達の攻撃を、身を捻って躱すマルクス王子。手加減しているとはいえ、ハチさん達の突撃は弓矢よりも早く、凶悪だ。
「ははは、同じ手は食わん。」
それをかわす身体能力はさすがは獣人といったところ。身体能力が根本的から違う。カイル先輩もそこそこ強いらしいけど、純粋な競争や力比べでは獣人は圧倒的だ。
「ふるるるる(こいつはどうかな。)」
まあ、速い相手なら面制圧すればいいんだけどね。ハチさんたちの突撃を躱したタイミングで出現する炎の壁。精霊特製の炎を前に、さすがに足が止まる。
「はっ?」
急ブレーキで、ぶつかる前に止まったのは偉い。だがそれを織り込み済みで最初の壁を起点に更に2枚の壁が発生させる。
「ひ、っひいいいい。」
燃え盛る壁(見掛け倒しでヤケドの心配はないです。)に囲まれ、さすがのマルクス王子も悲鳴を上げる。
「ふるるるる(火を恐れている時点で、しょせんは動物)。」
ニヒルに決めているサンちゃんこと、ホットオウルは炎が得意な精霊なので、こういう芸コマなことができる。おっと、ほめたり自慢する前にやることがあるだった。
私は炎の壁から目をそらさずに道のわきにいって、境に埋めてあるレンガを拝借し。
「ほい。」
炎の三角柱の中に向かってぽいぽい投げていく。
「ぎ、ぎゃああ。」
ははは、隙をついて飛んで逃げるなんて甘い考えだぞ。
そうそう、三角形というの形を考えたのは羊飼いだったという説があるのはご存じだろうか?より少ない材料、工程で囲いを作ろうとした場合、三角形はもっとも効率がいいのだ。利便性があるから四角形とか円形の方が便利だけど、三角形を組み合わせたあとで対角線を取り除くことで四角形も作れるぞ。
「な、壁の向こうにも壁が。」
起死回生、やけども覚悟で炎の壁の向こうにはまた壁がある。ジャンプして逃げようとすれば、進路を塞ぐように石が置かれているの。しかもその石は、炎であぶられた焼き石である。
「ひいいい、やめて、やめてくださあああああい。」
誇り高き獣人の王子が降参するまで、それなりの数のレンガと壁が破壊されたとだけは言っておく。
体育座りでさめざめと泣く王子。自慢の毛皮にはところどころが焦げ、頭にはたんこぶができている。
「うわ、えげつない。大丈夫ですか、マルクス王子。」
薬液(私調合)を片手に駆けていくリットン。大丈夫だよ、その薬は強力だし、獣人は頑丈だ。
「ううう、怖かったよ。炎怖いよ。」
「そうですねー、怖かったですよねー。あれマジでやばいですからねー。」
「うん、うん。ぎゃあ、染みる―、苦い、痒いー。」
とまあ、献身的なリットン君だが、この状況、彼の所為でもある。
入学当初から、そのスペックを遺憾なく発揮していたリットン君。そんな彼がお姉さまやお貴族様から熱烈なアプローチを受けたとき、彼はてんぱって対策に困った。つい最近まで庶民だった彼には、自分がモテる理由が理解できなかった。一方で、私の英才教育のおかげで貴族相手のマナーや言質を取らせることの危険性は分かっていた。そしてそういったときの対応も
「私は、将来的には父の跡をついでハッサム村の家令になるので。」
そういえば、田舎への嫁入りに夢が冷める女子はあきらめるし、婿にと思っていた女子や青田買い目的の貴族様も一旦は引く。強くでれば、同じようなハイスペックな私、そしてそのバックにいるメイナ様や辺境伯様と妙な関係になるからだ。
「ああ、本人は望むならぜひもらってあげてください。」
前者はともかく、後者に関しては私は笑顔でフォローしている。リットン君がトムソンの跡を継いでくれるのが一番楽だけど、彼の人生を縛る気はない。下手にしばって反抗されてもやだし、リットンルートに入るのもやだし。
ちょっとスパルタでスペックを上げすぎたかなって、ドヤ顔はしたくなるね。なんというか親目線?姉目線的なものは感じるけど。
「ビー様、素敵。」
そんな中、リットン君に一目惚れ?もとい彼のスペックを本能的に感じ取ったのが、獣人族にして、同級生のソフィア・ルーサーちゃん。
「お義理姉様、素敵ですわ。今のはどうして三角にしたんですか。土魔法でも行けますか?」
そんな彼女は私の腰に抱き着いて、キラキラした目で見上げていた。はい、ここまでの流れの中で彼女は私に抱き着いたままです。なんなら、一緒にレンガ投げてたよ。狂犬のような彼女に対して、彼女はまるで柴犬とかポメラニアンの類だ、人懐こく、小柄で可愛らしい。
入学試験と数度の実技を経て、彼女もまたリットン君のスペックと顔面偏差値の高さに興味をもった。そして、彼の性格とスペックのトリコになった。ハッサム村の「だってばよ。」ワンコの相手に、獣人とのコミュニケーションスキルも磨いていたリットン君の対応力のやばさもやばかった。
まあ、そのあたりはいずれ詳しく語るとして。
「ビー様、そんな駄犬は放っておいても構いませんわ。丈夫さだけが取り柄のバカ犬なんですから。」
「ソフィア様、実の兄に向ってそのような口調を言ってはいけません。」
トテトテ(私の主観です。)と近づき、兄へ侮蔑の目を見せるソフィアちゃんに対して、リットン君はまじめな顔でそんなことを言う。
「それが家族への距離感ならば、行動そのものは咎めません。ですが、アナタは王女で貴人です。その美しい口から、そのように汚い言葉を使うのはもったいないですよ。」
「まあ、美しいだなんて、子どもですわ。他の子と比べて、私は褐色ですし、」
「そうですか、まるで磨かれたスピネルのように艶があって美しいかと、何より艶のある髪の色も、夜空を溶かし込んだように深くて取り込まれそうです。」
「まあ、御上手ですわ。」
見なよ、うちの従者。あれを生真面目にやってるんだぜ。そりゃ、惚れるわ。
「くっ、リットン君、やはり君は我が国に必要な。」
「お兄ちゃんはだまっててて。」
「ぐは。」
おお、いいとどめがはいったねー。
まあ、それはそれとして、私は片付けをするとしよう。
「はい被害報告。」
私の号令のもとにハチさん達は周囲を確認してすぐに戻ってきた。
「じじじ(残ったレンガはもとにもどして、被害確認―)」
「じじ(残数紹介、不測15 破損20です。)」
「クマ吉のとこへ行ってもらって、」
「お義理姉様、ここは私におまかせください。あれから練習したんです。」
「そうなの、ならやってみよう、はい、レンガ。」
「む、むむむ。」
いつの間にか戻ってきたソフォアちゃんにレンガを渡す。なんというか、ネコみたいな子である。オオカミ獣人で性格はワンコなんだけど、気まぐれに近づいたり離れたりするのは猫っぽい。
「ぐぬ、むむ。できました。」
「お見事、すごいね、短期間でこれだけ魔法の精度をあげるなんて。」
「がんばりました。」
ふんすと笑顔で作り出したレンガを渡してくるソフィアちゃん。彼女、入学当初はこういった細かいさ作業はだいぶ苦手だった。可愛らしく振る舞っているけど、その影、めっちゃ努力をしたんだろう。
「ソフィア様、すごいですね。まるで本物だ。」
「そ、そんな。ビー様やお義理姉様に比べるとまだだまですわ。」
「あ、あの、ビーというのは呼びなれないので。」
「い、いえ、殿方を名前でお呼びするのは・・・。」
そして、この慎ましさである。リットン君も彼女には照れつつもだいぶ親しみを感じているようであるが。
「ふるふるるる(坊のやつ、すっかり騙されてるなー。)」
「じじじ(あれは、得物を油断させる擬態)」
「まあ、可愛い皮だからいいじゃん。」
気絶した王子の上で、初々しくもイチャイチャしている2人。
押すと逃げるリットン君に対して、適度な距離感を保つ。その一方で同級生の優秀な生徒から学びを得るためという口実で私に近づきリットン君との接点を増やす。
「ああいう、強かだけど、礼儀を弁えている子って嫌いになれないんだよねー。」
兄を止めてくれるとなおよしだけど。そこら辺は獣人の都合なのだけど・・・。
ストラ「リットン君は私が育てた。」
リットン「死ぬかと思いました。学園は平和。」
ソフォイア 「将を射んとする者はまず馬を射よ。ではなく馬を欲するならばまず将をたおせですわ。」
次回は、獣人側の視点です。