83 とある若者の一人語り うちのお嬢は絶対オカシイ
ところ代わって村の様子です。
俺の名前はケイロック。苗字なんてものはない庶民で農民で村人だ。年齢は15歳、もうすぐ15歳になる14歳だ。15歳と言えば、大人として扱われる1人前、気の早いやつには将来のお相手がいるらしい。まあ、国の端っこの田舎じゃ、子どもだって貴重な労働力だし、嫁の当て?、そんなものはあってないようなものだ。どこも田舎はそんな感じらしいな。
俺の住んでいるハッサム村は、とんでもない田舎だった。王国の端っこ、険しい山脈のふもとにあるこの村には特産品はおろか、農業で食うのがやっとの辺鄙な村。先代様が作る薬が中央の貴族様に売れるから辛うじて成り立っていた。と、村の老人たちは良く語る。
それが今となっては、そこそこ?発展した村らしい。これは出入りの商人から聞いた話。まあ、お世辞もあるんだろうけど、今の生活に不満はないな。
さて、我らがハッサム村を語る上で、「お嬢」の存在は欠かせない。
ストラ・ハッサム、恐れも多くも貴族様にして、ハッサム村の領主様の一人娘。将来は跡を継いでハッサム村を治める女の子、俺たちは尊敬と親しみと恐怖を込めてお嬢と呼んでいる。
お嬢は昔から賢かった。3歳で外を出歩くようになれば、年上の俺たちとまともに言葉を交わすどころか、言い負かし、喧嘩になれば不意打ちや目つぶし、武器の使用なんてことも平然とやりやがる。年上のメンツで、やり返そうとすれば罠を張って返り討ち、4歳にして村のガキどもの頂点に君臨してた。
お嬢はオカシイ。その片鱗はこの時、すでにあったんだな。俺らを統括したのも先代から薬師としての技を教えてもらうための条件だったかららしいし・・・。
どうして知っているか、散々ひどい目にあわされた上で、ガキどものまとめ役を当時6歳の俺におしつけたからだよ。
「早い段階から、人をまとめる仕事をしておくと、将来のためになるよ。」
信じられるか、これが4歳の子供の言葉だせ。あの当時はその言葉に乗せられたけどな、今なら分かる、お嬢は4歳にしてお嬢だったと。
お嬢のとんでもなさに拍車はかかったのは、2年前、お嬢が10歳の誕生日ということで辺境伯様主催の夜会に行ってからだ。あのころのお嬢のはっちゃけぶりときたら、未だに村人たちの間で話題に上がるぐらいすごかった。
めっちゃ落ち込んだ村長、じゃなかった領主様が、頭を押さえたお嬢を抱えて馬車から降りてきたときは、またなんか悪さをしたのかと思ったけど、辺境伯様の娘様に粗相を働いたうえに、辺境伯家をひっかきまわして、辺境伯の奥様を治療したんだとか。詳しくは教えてくれなかったけど、先代様まででてきて説教したってことだから、相当なことをやらかしたに違いない。
あんなお転婆だと、将来の相手は大変だねーなんて、大人たちが笑っていたよ。だが、その時から明らかにお嬢の行動はおかしくなった。
まずは、何と言っても精霊様関係だろう。村に帰って数日、お嬢は、家令のトムソンさんを村のあちこちへ連れまわしたと思ったら大きな木の箱をもって、養蜂家のハークスさんの家へ突撃して、ハチたち手懐けた。
愚か者のハチの巣狙いなんて言葉があるくらい、ハチってのは物騒な生き物だ。小鳥ほどのサイズなのに、体当たりで大人を転がすし、鋭い針は鉄板や家の壁だって貫いちまう。おまけに風魔法を操って、匂いとか痕跡を探れるらしくて、一度怒らせると地の果てまで追ってくる。どんな悪ガキや悪党だって、ハチの巣からハチミツを盗もうなんて思わない。
そんな化物たちにお嬢が群がられているのを見た時の衝撃ったらなかったねー。アッ村終わったって思ったもん。
「話せば、いい子たちだよ。」
なのにお嬢ときたらニコニコと笑いながらハチたちと戯れていた。そりゃ養蜂家がいるぐらいだ、ハチが賢いのはわかる。でも住処とか作物を条件にハチと交渉しようなんて普通は思わないだろ。
うちのお嬢はオカシイ。
あの光景をみた村人たちはみんなそう思ったはずだ。本人に言うと怒るから言わないけど。
だがお嬢のはっちゃけはそこで終わらなかった。どこで思いついたのか「蒸留」とかいう酒作りの方法をちらつかせて、村一番の頑固ジジイであるガンテツと交渉して、なんか面白い道具を次々と作った。いつでも入れる風呂に、アスレチック、卵焼き機に歯ブラシ。大きなものから小さなものから、お嬢の考えたモノは面白いし、売れた。ハチミツを求めてやってきた商人たちが、頭を抱えるレベルで王都で人気らしい。
ああ、商品に関してはトムソンさんに聞いてくれ、あの人の方が詳しいからな。
そうそう、精霊と言えば、あんた梟組にはあったか?だいたいは大浴場でくつろいでるけどな、あれもお嬢が原因だ。お嬢が風呂に入りたいっていって、グランドベア、お嬢はクマさんファミリーっていってるけどな。そう、あのグランドベアーだ、山の主の。あいつらも村の料理とかハチミツのファンでよく遊びにくるんだよ。それで、そのクマさんファミリーの子どものクマキチってのがいるんだけど、そいつがまたすごくて、こーーんなデカい穴だってすぐ掘っちまう上に、馬より速く走る。
えっ、クマをどうやって手懐けたって、よく聞いてくれた。俺もその場に居合わせたんだ。いやー、あの時は死ぬかと思ったぜ。よりにもよってお嬢のやつ、俺を盾にしてクマに突撃したんだよ。その上でハチミツで作ったハチミツアメで餌付けしやがった。いやー1年とそこそこ前だったけど、時々夢に見るよ。
ああ、お嬢の話だったな。
まあ、お嬢の話ってなると精霊様関係ばかりになっちゃうけど、やっぱりドワーフたちだな。あの偏屈なドワーフたちが、お嬢には乗せられちゃうんだよ。あれだ、あれ、酒。蒸留酒ってから始まってよ、酒と果実酒を混ぜるカクテルってやつ。それでもうすっかり虜。やつら、仲間まで呼び寄せて、お嬢のアイディアで酒作りとモノづくりに励んでんだよ。酒で釣ってから挑発、ドワーフ達でも首をひねるようなキテレツな発想で好奇心と職人魂を煽るだよ、ついで酒の肴もうまいときたもんだ。だし巻き卵に揚げ物。ハチミツの売り上げで家畜を大量に仕入れた時は何考えてんだって思ったけどな、あれはやばいぜ。いくらでも食えちまう。
えっどこで買えるかって?すぐそこの食堂で食べれるぜ。まあ、お嬢が作る揚げ物には一段落ちるって言う奴はいるが、普通にめっちゃうまいから。
ああ、貴族が料理をするのか? お嬢の場合は喜々して料理しているぞ。なんか忙しいって言ってなかなか作らないけどな。
へえー貴族さまってのは自分では料理をしないのか。やっぱうちのお嬢は変わってるんだな。
ああ、あと、食堂で金を払えばレシピものメモも教えてくれるから、気に入ったら頼んでみるといいぞ。俺の紹介って言えば、たぶん大丈夫だ?
はあ、文字の読み書きができるのか?そんなの当たりまえだろ? ここじゃ子どもから大人までお嬢に習ったぞ。自分で絵本を作ってガキどもに読み聞かせして、教えてくれたんだ。
えっ?読み書きは貴族や裕福な家の人間ができる技能?普通は庶民には教えない?
そうなのか、お嬢は、「読み書きぐらい覚えて、私に楽させろって。」って無理やり教えてたぞ。そりゃそうだ、俺もだけど勉強なんてしてる暇があったら、遊んでたいだろ?当時はそう思ってたさ。だけどな、お嬢が用意した絵本、あれが面白くてよ。最初はお嬢が読み聞かせしていた話を聞いていたんだけど、みんな続きが気になって、競うように勉強したよ。おまけにハチや梟まで文字を使うようになってな、このままじゃいけないって、必死になるの。そうやって人を乗せるのがうまいんだよ、お嬢は。んで、ちょっとしたこととかをメモにしておくと、これが便利なんだわ。ちょっと前の自分たちは何なんだって思ったさ。
えっなに?お嬢を紹介してほしい?自分もココに住みたい?何言ってんだあんた。さっき、自分は都会暮らしのイケてる商人っていってじゃん。こんな田舎に移住なんて馬鹿じゃないの?
数ヶ月後ケイ兄ちゃんの話を聞いた商人一家が、ハッサム村へ移住した。という話を私は手紙で知った。
「いや、何やってんだ、ケイ兄ちゃん?」
ケイ兄ちゃんの話を聞いて移住者がでた。村の近況を告げる手紙の一文に私はしばし、首をかしげるのであった。
ストラ「楽をしたいなら、周囲を使う。周囲が使えないなら使えるようようにしよう。」
ケイ兄ちゃん「結果として一番働いてるよな、お嬢って。」
2日ほど時間を置いて、再開です。改めて読み返して設定などがガバガバだったので、プロットから書き直しました。だいぶ修正がはいるかもですが、投稿ペースは維持しつつ、今後もストラさんのハチャメチャな物語を紡げたらと思います。




