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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ 12歳 学園編

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82   良薬は口に苦し

心を折に行く治療法

もとい、ストラさんは何もしてないです。

「・・・すぐに対策したい。具体的でなくてもいいから意見をくれ、俺の責任で軍事学の全教授と生徒に周知しよう。」

 有言実行。私が出したいくつかの提案は、スラート王子によって即座に周知され、強制されることとなった。大きくはこんな感じ

 1 学生へのエナジードリンクの販売及び提供の禁止。

 2 回復魔法の使用回数を記録させ、規定値を超えた場合は強制休養

 3 1,2に違反した生徒は、訓練メニューは食事など申告する義務を負う。


 ほかにもあるが、採用されたのはこの三つだ。ハードワークの原因となったエナジードリンクの提供は販売当初から、飲みすぎと未成年の飲用は控えるように注意していたこと。回復魔法に関しては医務室やメイナ様達からたびたび苦情が上がっていた。

 危機感を持っていた先生もいたらしく、スラート王子のご指摘をきっかけに、軍事学の教室では訓練メニューも見直され、訓練中のケガもだいぶ減ることになる。さらっとやばい事実としては、訓練後の疲労回復として、エナジードリンクの飲用を進めている先生がいたとかいないとか、しかも彼らは回復魔法を併用したブートキャンプまで推奨していた。そんな彼らは結果にコミットしろかいって、この規制に反対した。

「何かあってもメイナ様の回復魔法があるじゃないですか。そのための聖女でしょ?」

 畏れ多くもスラート王子の前で彼らはそういって言い訳したそうだ。

「聖女ともてはやして、未来の国母に頼り、すり減らすような体制を認めろと。」

 効率や結果にこだわって反対した一部の先生には、ゲンドウポーズのスラート王子からド正論な説教と閑職送りがプレゼントされたとかされてないとか。言っていることはまっとうなんだけど、メイナ様が関わるとヤンデレ度と暴君度は上がるなあ、あの人。


 そんなこんなで、軍事学や医学の教室はバタバタと対応に追われ、気づけば一か月ほど経ったある日、ある出来事を見届けるために私は久しぶりに医務室へ来ていた。

「カイル先輩、快復おめでとうございます。」

「あ、ありがとうございます。薬師殿。」

 今日は、最後の病人、もといドクターストップだったカイル先輩の退院の日だ。

「ハッサムさん、ほんとにお世話になりましたわ。」

「ええ、ナナミ様もこれで、安心ですね。ほんとお疲れ様です。」

「あ、ありがとう。なんだろうすごく皮肉に聞こえるわ。」

「そんなことないですよ。」

 スラート王子に頼まれた。他意はない。だからそんな怖い目で睨まないでほしい。

 そんな女子同士のきゃぴきゃぷな会話をした相手はナナミ・ウォーカー様。恐れ多くもカイル先輩の婚約者である。この国では珍しい黒いロングヘヤー、スレンダーな感じは大和撫子な大人の女性なんだけど、まだ私よりも二つ上の14歳。この世界の人間はほんと成長が早い。

 彼女とは、カイル先輩への実験、もとい治療の際にメイナ様の紹介で知り合った。見た目通り、非常に女子力の高い人で、私や医務室の先生の話をよく聞いて、カイル先輩の食事管理や監視を快く引き受けてくれた。まさに内助の功、彼女が居なければカイル先輩の治療はもっと難航しただろう。


 で、そんな大和撫子さんは、カイル先輩の右腕をがっしりとつかみ、微笑みながら私を威嚇していた。

「いやーだからー私はスラート王子に頼まれて、治療の指示を出しただけですからね。今日だって用事があったんですから、来たくなかったです。」

「そ、それはわかっていますけど、カイル様に近づく女性は例外なく警戒してますの。」

 こえー、この人、めっちゃ怖い。美人だけど、嫉妬深く独占欲が強い。医療行為といっても女性がカイル先輩に触れることをよしとせず、自分がやるという行動力もあった。

「ナナミ、頼むから落ち着いてくれ。薬師殿のおかげで、俺は訓練を再開できるんだからな。」

「そ、それはそうなんですけど。」

 諫めるカイル先輩にぷくーとほっぺを膨らませるナナミ様。仲がよろしいようで何より。

(こっちはとんでもない修羅場だったけどね。)

 訓練メニューの見直しの際、一番やばい認定されたのはカイル先輩だった。訓練のし過ぎによる身体へのダメージを痛み止めと回復魔法で補い、寝不足や披露をエナジードリンクで補う。先日私に拾われたあともそんな生活を続けた結果、三週間前に腰と右腕は疲労骨折したのだ。

 うん、訓練馬鹿、ここに極まるといった感じだ。

 腰はやばいよー。選手生命、もとい騎士生命にもかかわる大けがを負ったカイル先輩は、スラート王子やナナミ様からめっちゃ怒られた。その上で、スラート王子が危惧したオーバーワークによる故障の典型例として、めっちゃネタにされた。 

「おいおい、そこらで休まないと、カイルっちゃうぞ。」

「カイルっちゃうのはやだな。気を付けるよ。」

 こんな感じだ。

 

 さてはて、骨折、特に腰骨というのは厄介なものである。薬を塗ったり、傷口を外科的に処理すればいい生傷と違って、安定にした状態で本人の回復力に頼るしかない。ここで無理をすると骨や周囲の筋肉がおかしな形でくっついてしまうこともあるので、緊急の場合以外では回復魔法も推奨されない。

 歯がゆくとも絶対安静、からのゆっくりとしたリハビリが必要である。

「ナナミ様、そのままあと三日間右腕を使わせないでくださいね。」

「ええ、わかっているわ。絶対に離れない。」

 ナナミ様がカイル先輩に抱き着いているのは、彼を支えつつ、無理をさせないためだ。この訓練馬鹿は、隙あらばベッドを抜け出して訓練しようとするのだから、医務室も手を焼いていたそうだ。

 そこで私が提供したのは、以前も処方した睡眠導入薬と痛み止めだ。カイル先輩のように力強い男子なら、痛みは我慢できる。だが痛みを意識した動きが癖になると、のちのちに悪影響になる。スポーツ選手が故障を繰り返すのがこれである、手首をかばって肩を傷める、肩をかばって肘を、そんな感じの負のループが生まれる前に、クスリを使って大人しくなってもらった。

「まさか、トイレにも行けないほどに麻痺するとは。」

 痛みを止める代わりにちょっとばかり、身体が動かなくなるけど、副作用はない。じいちゃん印の健全なお薬です。なお、クスリの処方を許可したのはスラート王子様や医学教室の先生たちで、そうやってベッドから動けないカイル先輩のお世話をしていたのはナナミ様だ。

 あとは回復を早めるために、濃さを倍にした青汁を毎食飲む様に指示もだした。

「・・・もう、アレは呑みたくない。」

「良薬は口に苦しですよ。それに栄養効率は最強ですから、エナドリの十倍は効果があります。のぞまれてましたよねー。」

 言いながら、ナナミ様に青汁粉末の入った容器を渡しておく。分量の調整や美味しい飲み方は伝えてあるけれど、あえてカイル先輩には教えていない。

「なにかあったら、これを飲ませてください。」

「ふふふ、ありがとう。この流れでもカイル様に近づかないところも大好きよ、ストラちゃん。」

 独占欲丸出しのナナミ様って超かわいい。

「い、いやだー、もう無茶はしないと約束するから、アレだけは青汁だけは勘弁してくれ。」

「退院の条件ですからね、青汁を含めた食事メニューとリハビリメニューをきっちりこなしてくださいね。」

「ひいい。」

「大丈夫ですわ、カイル様、私も使用人たちも、しっかり勉強しましたので、今後は万全のサポートをさせていただきます。」

「ちなみに、スラート王子様、公認です。結果のレポート楽しみにしてますからねー。」

「あああ。」

 がっくりとうなだれるカイル先輩に救いはない。ただ支えてくれるナナミ様がいるから大丈夫だろう。

 色々と振り回されたし、青汁とか薬の臨床データーは私も欲しかったし、カイル先輩には、自分の健康と未来の若者たちのために、今後もがんばってもらうとしよう。

「では、私はこれで。何かあればいつでも相談してください。」

「ええ、ありがとう、ストラちゃん。今度メイナ様達とも一緒にお茶会をしましょうねー。」

 ヒラヒラと手を振って見送ってくれるナナミ様と、視線で助けを求めているカイル先輩。まあ、オーバーワークの果てに騎士生命を失いかけたのだ。

 この苦い薬の数々を通じて、大人になっていただこう。


 これは更に一か月後の話になるが、

 すっかり完治したカイル先輩はケガをする前よりも、ずっと良い成績をだすようになった。それによって、休息のタイミングや食事の内容まで考慮された訓練メニューの改善の有効性が認められ、スラート王子の評判は更に高まったらしい。

 また、医務室では、わがままを言ったり、無理をしたりする患者がかなり減ったという。

「悪い事したら、アレーを飲ますからねー。」

「ひー、ひいい。」

 とのことだが、「アレー」が、何なのか私は知らない。知りたくもない。

 

 ただ不満があるとすると、

「さあ、リットン君。これを飲みたまえ、疲れなんて吹っ飛ぶぞ。」

「やめてください、お嬢。死んでしまいます。」

 今日も健気に頑張っているリットン君を実験台にして、新薬の効果を試すのであった。

「苦くないから大丈夫だよ。」

「だから怖いんじゃないですか。お嬢がそういう味にするときは、絶対やばいやつですよ。僕もさすがに学びましたから。」

 今回の件でリットン君や一部のモルも、モニター達が私の提供するものを警戒するようになってしまったことだ。

 何も言わずに青汁を飲ませたのはやはり、まずかったか・・・。

 

 違うそうじゃない。


ストラ「結局、何もしてないよね。私。」

リットン「お嬢から食べ物をもらってはいけない。覚えました。」

スラート王子「たくさん働いた。」

メイナ「スラート様素敵です。」


 補足

エナジードリンクは、炭酸飲料にハチミツとハーブなどをいれたストラ発祥のドリンク。ツバサを授けるアレに近い。


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