81 野菜ジュース飲んでるから大丈夫というわけではない。
ストラ的処世術とスポーツ医学の改革の話です。
上げたり、下げたり料理というのはそういう緩急が楽しい。そんなこんなで手ごたえと下ごしらえの準備ができた私が行ったのは、カイル先輩が軟禁もとい入院している医務室、ではなく、愛すべき友人にして頼れる友人であるメイナ様のところだった。
「あら、ストラ様、この時間にいらっしゃるのはめずらしいですねー。メイナ様は、夕食をとられていますが、御一緒されますか?」
「ああ、いや、今日はちょっとお土産がありまして、デザートにでもしてください。」
「これは?新作ですか、楽しみです。」
上級貴族向けのゲストハウス、厳重な警備なその建物だけど気づいたら別荘ぐらいの感覚で私は訪れているので、メイドさんたちとはこのやりとりだ。
本来ならば身分差とかで門前払いされても文句は言えない。私はメイナ様の友人、そして辺境伯家の恩人として顔パスで通ることができる。女性宅なので、リットン君はさすがにお留守番だ。
そのまま通された先、そこではメイナ様が夕食を食べているときだった。
「あら、ストラ、こんな時間に来るなんて珍しいわね。」
「ええ、ちょっと熱がはいってしまいまして、でも一番に持ってきましたよ。」
「まあ、それは感心ね。」
食事中でもあるにも関わらず、和やかに迎えてくるメイナ様。いやあれだ、ハチさん達がチクるからさあ、何か新作を作ったときは、とりあえずメイナ様に献上しないとめっちゃ不機嫌になるのよ。
「訪ねてくることに対しては何もないのか?」
「あっ、今日はスラート王子も一緒でしたか、ちょうどいいや。」
「おれはちょうどいい、存在なのか。」
仲が良くて大変よろしいようでだったら。
「今日は、食後のドリンクを用意させていただきました。」
「あら、なら、デザートは変更ね。」
「侍女長には来るときに伝えてあります。」
もう慣れたもんさ。私の乱入でメニューが変更された場合は、ゲストハウスのスタッフさんの食事が豪華になるか、スラート王子へのお土産が増えるシステムだ。
まあ、それはさておき、私は冷凍させて持ち込んだカットフルーツとミキサーをテーブルに並べて、スムージーをふるまう。過程はすでに語ったので省略
「あら、野菜が入っているのに飲みやすいわ。個人的には人参のが好きですわ。」
「俺は、ベリー系だな。酸味がいい。」
すっかりグルメになってしまったお二人を満足させて、スムージーは合格。青汁は・・・、ハチミツを入れたものを提供しましょう。
「癖があるけど、これは。」
「にが、匂い強い、食用か、これ。」
「いや、これは薬ですねー。消化吸収を助けると同時に栄養補給を目的としたものです。先日、提供したエナジードリンクでは不足しがちな野菜の栄養を摂取するのに有効ですね。」
「ほう、ならば訓練所に。」
そう来るよねー、こういう携行しやすく、素早く栄養が補給できる食品を目の前にすれば。
だからこそ
「絶対、取り入れないでくださいね。国が傾きますよ。」
にっこりと笑って、王子の考えを真っ向から切り捨てておく。
「今日は、そういう考えをしないように、スラート様に警告しにきました。」
この件を相談すれば、王子に借りを作ることになる。だが、ここでためらうわけにはいかない。
「薬というのは、身体の調子を整えたり、健康になるためのものです。食事、ではありません。」
「そ、そういわれるとそうだな。だが、予防という考えを言い出したのは薬師殿では?」
予防は大事だ。日頃から清潔に保ち、休息とか食事のバランスを整える。必要ならばそれを助けるための薬なんてものもある。
「正直言うと、ハチミツアメとかエナジードリンク、それに今回のスムージーと青汁は扱いがめんどくさいんですよ。あれです、取りすぎるとかえって健康に良くないってやつです。」
薬も過ぎれば毒である。エナドリと痛み止めとかマジで死ぬかもしれないから、みんなは真似しちゃいけないぞ。
「で、俺に何をしろと。」
「とりあえずは、軍事学の訓練メニューの見直しを打診してください。現状として、ハチミツアメとエナジードリンクによる無理なハードワークをしている学生がいます。」
「えっなんだそれ。」
「わりと、国の一大事ですよ。」
そう、カイル先輩のおかげで気づけたことだけど、医務室にはカイル先輩の同類が結構いた。エナジードリンクに含まれるカフェインの覚醒効果によって深夜まで行われたトレーニングに、時短のための偏った食事と咀嚼回数の減少。オーバーワークによる筋肉痛やダメージを癒す回復魔法や薬の使用による強制回復。そして、またあやまちを繰り返す。やりすぎて、医務室の先生から見捨てられたよ・・・。
「なんというか、熱心なのはありがたいと思いたいが。」
「いやいやいや、その考えまずいですよ。まじで」
王子様が及び腰なのはわかる。生徒たちは自主的かつ向上心を持ってハードワークをしている。その上、王子に要求していることは、軍事学の権威に喧嘩を売れというものだ。
『お前のとこの訓練、間違っているから、やり方変えな。』
そういって喧嘩を売ってほしいのだ。私は。
「ぐうう、しかし軍事学の先生たちは元もとの国の重鎮。」
面倒だ。このカードをきってしまおう。
「このままいくと、メイナ様の負担が増えますよ。」
「詳しく聞かせてくれるかな。薬師殿。」
うん、ちょろいわー。
私が元凶みたいな空気になっていたけれど、カイル先輩や一部の生徒が度を越えて訓練して、身体を壊しがちなのは、メイナ様にも原因、もとい、理由がある。
「何かあっても、最悪、回復魔法で治る。カイル先輩達はそう思っているようでしたよ。」
「・・・すぐに対策したい。具体的でなくてもいいから意見をくれ、俺の責任で軍事学の全教授と生徒に周知しよう。」
食いつきが違うんだけど、なんだこのヤンデレ。
ストラ「聞かぬなら、人任せだよ、ホトトギス」
メイナ「ホトトギスってなに?」




