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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ 12歳 学園編
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78 オーバーワークは身を亡ぼす

腰痛は怖いです。

マジで動けない。

 カイル・ランページ 王族を守る近衛騎士に多くの人材を提供しているランページ家の4男、同世代ということで、次期王の最有力候補であるスラート王子の護衛的なこともしている。やや思い込みが激しいときがあるけれど、基本的には紳士なマッチョ。必要以上にダルがらみしてこないところが特にポイントが高い穏やかな先輩だ。

 そんな先輩が、仰向けで倒れて苦痛に顔をゆがめている。うんこれは緊急事態だ。

「サンちゃん。」

「ふるるるる(周囲に人影なし)」

 OK、面倒ごとは避けられるな。

「先輩、どうしたんです?」

「いや、大したことは。」

「充分に緊急事態ですからね。自覚しましょう。」

 肩を軽き叩きながら、話しかければ返事はある。意識ははっきりしている。次に手足をざっと確認する。

「うぐ。」

「動かすと痛いんですか?」

「ああ、ちょっと。」

 ちょっとじゃないな。これ。確認した限り手足が骨折した様子はないが筋肉張っている。全体に発熱もしている、痛みに対して身体が過剰に反応しているのか?

「どこが一番痛いですか?」

「ええっと、腰かな。」

 腰かあ・・・。たしかにこれは腰っぽいなー。

「レッテ、全体的にひんやりで。」

「ぴゅう―――(面倒。)」

 発熱への緊急対応は2種類、冷やすか温めるかだ。

 例えば風邪を引いているとき、身体は原因であるウイルスやら細菌やらを排除するために体温を上げる。だから身体を温めてあげて、この状況を補助して体力の消耗を避けてあげる必要がある。

 例えば捻挫や打撲。これは何らかの形で身体がダメージを受けて内出血や炎症などを起こして発熱している場合である。こちら患部を安静にして、冷やすことで症状と痛みを和らげることが大事だ。

「す、すごいな、痛みが引いて。」

「そうですか、動かしますよ。」

 そう言っている間に白衣を脱いで地面に広げてハチさんたちをスタンバイ。

「みんな、行くよ。」

「じじじじじ(了解)」

「ふるるる(任せろ。)」

 この場で一番の力持ちであるフクロウのサンちゃんがカイル先輩の腰を掴んで持ち上げる。

「いた、いたたたたた。」

 うん、痛いよねー。私も経験(前世で)あるからよくわかる。

「じじじじ(それゆけ―)」

 わずかに持ち上がった隙間にハチさん達が私の白衣を差し込み簡易的な担架とする。

「ぐえー。」

 ぴんと張った白衣。体格が違うので足がはみ出るが、そこはハチさん達がフォロする。

「動かしますよ。」

「す、すまない。」

 状況は判断しかねる。ただこのまま地面に寝かせておくよりはいいだろう。私は、できる限り人目につかないようにルートを選びながら医務室へと先輩を運び込むのであった。


「ギックリ腰ですかねー。」

「ギックリ腰ですね。」

 医務室の先生と私の診断結果は一致した。それだけカイル先輩の反応と症状は典型的だった。

 ギックリ腰とは、背骨の腰あたりの骨、腰椎とこの腰椎を支える筋肉や靭帯、クッションの役割を果たす椎間板に急激な負荷がかかり、これらが損傷や炎症が発生する。見た目にはわからないが、激痛につながりる。

 見た目には健康的に見えるが、ちょっと触ればガチガチに固まった筋肉と、ミリでも動かすと痛がるというリアクションですぐにわかる。

「昨日は、訓練を頑張りすぎてな、今日はおとなしくしていたんだだ。」

 ちなみにぎっくり腰は、重労働をした翌日とか、同じ姿勢で長時間で過ごしたあとに背伸びをしたときなどに起こることが多いです。いやね、つらいよ、急にぴきってなるんだよ。

 やべ、思いだしただけで、冷や汗がでてくる。

「カイル君、前にも言ったけど、一週間は安静にしなさいね。腰は癖になるとつらいよ。」

「ははは、気を付けます。」

 うわー、もしかして急性じゃなくて慢性になってる感じ、やばいじゃん。

「そうなんですよ、この子、今月で2回目なんだよ。こうして運び込まれるの。前回はメイナさん、辺境伯家の。」

「ああ、知ってます。」

「そうか、君は・・・メイナ様が回復魔法で直してくれたんだけど。」

「癖になっているということですね。」

「そう、そんな感じ。」

 私と先生は、お互いに首を傾げ、そしてため息をついた。

「カイル先輩、バカなんですね。」

「ひ、ひどい。」 

 いや、バカだ。セカンドオピニオンとか必要ないくらいバカだ。 

 以前も触れたがこの世界医療実態というのは歪だ。回復魔法というチートな力によってたいていのケガは治ってしまうし、浄化魔法などのおかげ衛生管理がしっかりしているので病気が重くなることは稀だ。だから、この世界の大病と言えば、生活習慣病的な食生活に起因するものや老化による身体の寿命的なものだ。じいちゃんや私の薬が根強く人気なのは、これらの病気に対して回復魔法の効果が薄いからだ。

 逆に回復魔法を利用したブートキャンプ的なものも存在する。限界まで鍛えて、回復魔法をつかって、超回復の時間を短縮しその効果を高めるというやつだ。ゲームとかでいえば、回復しつつも連戦して経験値を稼ぐみたいなやつと思ってくれればいい。

 それはさておき、一般的な回復魔法は自然回復力を高めてケガを治すものが多い。だから結構体力と精神を消費する。その経験から人は学び、自分の行動を反省し、改める。

 だが、時に「治せるからいいや。」という気持ちで行動を変えられない人もいる。

「練習メニュー変えた?前聞いたときはだいぶやばかったけど。」

「す、少しだけ・・・。」

 うん、これダメやつだ。典型的なハードワークだ。

 回復ブートキャンプというのはある。回復魔法はケガを治す。だが即時回復というわけではない。ケガをしたならば、完全に回復するまでは安静にするか、落ち着いた行動をしないと、身体のどこかに小さなダメージが蓄積される。何より体に癖が残ってしまう。折り紙の折り筋や洋服のほつれのように最初は些細なものだけど、積み重なれば同じ場所をケガしやすくなるし、持病にもなってしまう。

 特に腰わねー。一度やっちゃうと完治が難しい。

「だめですよー。回復魔法はあくまで治療の補助であって健康や強さを支えるものじゃないんですから。抜本的な解決をしたいなら、訓練メニューを考え直さないと。」

「うう、分かってるんだけど・・・。」

 ちなみに、腰痛の痛みを和らげる湿布的な調剤も可能だし、メイナ様ほどじゃないけど回復魔法を使うことは私も先生もできる。

「と、とりあえず回復魔法は。」

「だめだよ。」「だめですね。」

 反省させる意味で、しばらくは経過観察ですね。

 腰痛の対策はまあ、考えてあげてもいいけど・・・。

ストラ「ノウキンじゃなくて、中毒患者であった。」

ハル「じじじ(飲み過ぎ注意。)」

サンちゃん「ふるるるる(無理は良くない。)」

レッテ「ぴゅーーー(睡眠は大事)」

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