77 ストラ・ハッサムのわりと優雅な学園生活
学園生活続きます。
左団扇な将来がある程度保証されたところで、私の学園生活は相変わらず忙しい。
日々の授業と課題、リットン君へのフォローと動物たちの相手。その合間を縫って学園の畑で使えそうなものを物色し、時折届くハッサム村からの報告書の確認をして、必要がありそうならアドバイスをする。薬師としての腕を衰えさせないために調合や製薬なんかもやっているから忙しいことこの上ない。
・・・すいません、嘘です。わりと余裕があります。
一般教養の授業に関しては、試験で必要な実力を示しているので、たまにリットン君からの相談乗ってあげればいいし、植物学に関してはクマ吉やハチさん達が好き勝手にしている様子を見守りつつ、やる気のない教授を適当にあしらえばいい。カレーの調合とか、使えそうな食材の研究も先輩たちが嬉々しておこなっているので、私はたまに経過を教えてもらう程度。
唯一手間なのが経済学の授業なのだけれど、前世の生活やハッサム村での日々を考えれば穏やかなものだ。なのだけれども。
「ストラ、アナタ働き過ぎよ。もう少し落ち着きなさい。」
メイナ様はご不満らしく。こうして私を招待(強制拉致ともいう)して、お茶会の場にて私に説教をすることが習慣になりつつあった。
「そんなことないですよ。むしろ丸投げしまくってますから。」
「アサギリ村の人のためにレシピ本を書き下ろしたんでしょ、それも結構な量を。」
「なんで、それをご存じなんですか?」
アサギリ村の人たちにレシピ、もとい私のアイディアノートを渡したのは事実だ。そのためにちょっとだけ夜更かしをしてまとめなおしたけど、のちのことを考えれば大した手間じゃない。
「何日も夜更かして、ノートを作り、畑のお世話も積極的にしているそうじゃない。」
「そっちは趣味みたいなものなので。」
「それでもよ。精霊様たちに心配をかけている時点でアウトよ。」
そうか、情報源はハチさん達か。余計な事を言ってんじゃないよ。
「じじじじ(夜更かし良くない。)」
まあ、12歳の子どもがするにはちょっとばかし夜更かしをしているかもしれない。ただすべては自分の興味と趣味によるものなので、無理はしていない。身体が休息を求めれば休むし、ストレスをため込まないように我慢なんてこともしていない。
「もっと、遊ぶとかお茶の時間を大事しなさいと言っているのよ。」
「さいですか。」
「もっと子供らしく、学生らしく過ごしたほうがいいわ。」
学生らしさというのはピンとこない。そこは前世のブラックな教師生活とハッサム村でのはっちゃけ具合で一般的な娯楽で満足できないからだとは思う。
「もっと、趣味とか交流も意識しなさい。」
珍しい?普通逆じゃない?
この世界で女子の娯楽といえば、詩や絵描きといったお嬢様なものばかり。要するに女子同士で集まって、なんやかんやするという時間が娯楽とみなされるのだ。女子サッカーとかテニスサークルなんて陽キャのたまり場みたいなものはない。あと海もないので水泳部とかもない。
おしとやかで華やかに、それでいて社交性のある女子がもてるのである。
「あなた、この前の詩会も断ったでしょ。仮にも貴族なんだからもっと交流もしなさい。」
だからこそ、メイナ様のような高貴な身分な女子たちは、時間を見つけてはそういうお嬢様な企画をおこなって、日々の生活を充実させていく。
「あなたはもっと、そういう華やかな世界に関わるべきよ。」
「ええ、めんどく。」
「はあ。」
「ごめんなさい。」
美少女なのに、すごむと笑顔が怖いよー。怒っている理由もわかる。メイナ様は私の今後の事を心配してくれているのだ。やっていることは陰キャだからねー私。
「でも、今更ですよメイナ様、私、いやハッサムの変人ぷりは学園でも有名ですから。」
入学して数か月、色々と濃い目の人達に絡まれ過ぎて、平穏な学園生活は諦めている。危険人物扱いされて遠巻きにされるのがデフォですよ、もう。
「本人がそれを楽しんでいるのが重傷よね。」
「うん、何か言いました?」
「何も言ってないわよ。」
開き直る私に対して、メイナ様は呆れた顔で私を見ていたが、そこはスルーさせていただくとしよう。
メイナ様も呆れるほどのお嬢様度の低い日々を過ごす私。日々平穏とはいかないが、自分から進んでトラブルに飛び込むようなことはしていない。
「ふるるるる(姐さん、魔法の坊ちゃんが近づいてますぜ。)」
むしろメンドクサイ人達からは全力で逃げている。今日もやる気満々な魔法少年から逃げ回っているわけだし。つーかなんで顔を合わせたら勝負を挑んでくるかな、あのオレンジ、上下関係はきっちりつけたはずなんだけど。ゲームと違うにしてもめんどくさすぎないか?
「じじじ(元気な子ばかり)」
「そうだね、それでこっちは迷惑してるんだけどねー。」
トラブルを避ける一番の対策は、相手に会わないことだ。特別な理由がない限り奴らに付き合う義理はない。愉快な動物さん達の索敵能力を駆使して、安全なルートを設定する簡単なお仕事だ。
「ふるるるる(なんか、今日は一段と張り切ってるな。魔力がバリバリだ。)」
おっと、それは一大事だ。こういうときのオレンジ君はマジでメンドクサイ。
すれ違いそうな道は避け、遠回りして目的地を目指す。急がば回れ、そういう気持ちで歩いていた。
だからね、これ私悪くないよねー。
「す、すまない、ストラ嬢。手を貸してくれないか?」
「なにやってんですか? ガルシア先輩。」
校舎裏で行き倒れているガルシア先輩を見つけてしまったのは偶然だ。
偶然たら、偶然なんだよ。
学園を散歩していたら、イケメンな先輩が倒れてました?
こんなのゲームにもなかったぞ。
「だ、大丈夫だ、ただの筋肉痛と肉離れと、たぶん腰痛だから。」
「いや、だめでしょ、致命傷よ。」
トラブルを避けてもトラブルに迷い込む、ストラの運命はいかに?
ちなみに補足しておく
カイル・ランページ 王族を守る近衛騎士に多くの人材を提供しているランページ家の4男
「55 ストラ 両親の意外な姿を知る。」で出てきています。