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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ 12歳 学園編

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76   創始者と経営者は違う②

 会社の設立と経営っぽい話?

 閑話休題

 このハニーで素敵なアサギリ村について、もう少しだけ説明しておこう。

 まず、なんどか述べたがこの世界、もといこの国の村や町は専門的なものが多い。ハッサム村のようなハチミツの名産地もあれば米やブドウといった名産品がある場所もあれば、鍛冶職人が集まる鍛冶の街や、魔道具や魔法使いが集まる魔導街などだ。ゲームではこれらの街を訪れることでアイテムや装備を整えることができる。同時にそれらの街に投資することで、新しいアイテムを開発したりイベントのフラグを立てたりもできた。

 アサギリ村は、その典型だ。

 高い城壁で囲まれた丸い村の入口には、集積と搬出用のエリアと倉庫が設置され、反時計回りに加工場や保管庫が設置され、中央付近には旅行者や仕入れの商人向けの宿がある。利便性とかアクセスのしやすさを考慮して設計されたこの構造だが、この規模はもはや村じゃないよねー。

「はじめして、薬師殿。アサギリ村の村長をさせていただいているガルシア・アサギリと言います。高名な薬師殿に会えて光栄であります。」

「あっいえ、薬師は祖父のことで、私はまだまだ半人前の小娘なので。子爵様。」

「いやいや、「養蜂箱」の生みの親はあなたなのでしょう?」

 小娘相手にも丁寧に接してくれるナイスミドルな紳士様はガルシア・アサギリ様子爵。王国からアサギリの村を受領した歴とした貴族様でこの街の支配者である。

「先はなく、静かに滅んでいく運命にあったわが村が、活気を取り戻したのは「養蜂箱」によるハチミツの流通とランド様の援助のおかげなのです。そんな恩人に頭を下げるのは当然のことなのです。」

 と子爵様言っているが、王都と辺境伯家を繋ぐこの場所は、宿場町として栄え優秀な料理人や菓子職人が多く、遅かれ早かれ美食の村として有名になるポテンシャルを秘めていた。

 なんでそんなことを知っているか? それはゲームの知識だ。「お料理コンテスト」というサブイベントが行われるのが、「アサギリ村」で「リビオン・ルーサー」を仲間にするにはこのイベントで上位に入賞する必要があった。

 まあ、あのワンコ兄ちゃんは、ハッサム村で酒造りに勤しんでるけどねー、今。「究極で至高を酒を造るんだってばよ。」とか言って、ガンテツのおっちゃんのところに弟子入りしてた。

  おっと、話がずれてきたな。 

 ともあれ、遅かれ早かれ、発展するであろうこの「アサギリ村」に目を付けて、出資したランドさんの慧眼と、2年と掛からず結果を出したガルシア村長の実力、これらがあって、起業して1年ながら、この村は「ハチミツ加工のアサギリ村」として、王国でも有名な場所となったのだ。

「この成功は「ハッサムのハチミツ」と薬師殿が教えてくださったレシピのおかげです。」

「だからこそ、今日はその成果の一部をぜひみていただきたい。」

 そんな功労者の2人にステレオをほめられてるとむずがゆい。

 何度も言うが、私は、相談されたから適正価格での取引を提案しただけだ。ハチミツブームが一過性のものだと見抜いていたじいちゃんも反対しなかったし、あの腹黒執事トムソンも納得した上での提案であるので、けして私だけのものではない。

「いえいえ、養蜂業が盛んになり、多くのハチミツを取り扱う今だからこそわかりますが、「ハッサムのハチミツ」は他のハチミツとは一段上のクオリティーです。味は濃厚なのに、さらっとして食べやすく加工もしやすい。混ぜ物をすれば一発でわかる繊細さも商人としてはありがたいものです。」

「ほえーそうなんですか。」

 よそ様のハチミツというのを使ったことがないので、これがお世辞なのか真意なのかはわからない。だが、これだけの規模の投資に踏み切れるほど儲かったという事実は確かなのだろう。

「ええ、恐れ多くもハチミツそのものを求める王族関係者もいらっしゃいますし、加工品は「ハッサムのハチミツ」の使用割合で等級を決めています。些細ながら違いのわかる人には、「ハッサムのハチミツ」は手放せないものとなっているようでして。」

「それこそ、ランドさんやガルシア様達の試行錯誤の結果なのだと思います。」

 混ぜ物をして商品を作る。。食品系の話ではわりとよくある話である。

 例えば、お酒。生産量や保存技術が落ち着くまでの時代は、酒屋が水や古い酒を混ぜてブレンドしたものを売っていたと言われている。そうすることで売る酒の味や量を安定させて提供するのが酒屋であった。あとは牛乳もそうだ。大手メーカーが各地の酪農家から牛乳を買い取り、集積したものをそのメーカーの商品として販売している。その過程でできるのは低脂肪乳や成分調整牛乳などだ。

 品質の維持という意味において、カサマシは悪ではない。質を良くしたものがブレンドでありブランドとなり、儲けのために悪質なものをカサマシというわけだ。

 アサギリ村で行われているハチミツのブレンドは、量の確保と同時に、商品に等級をつけることでプレミア感も生み出している。その企業努力はホント尊敬する。

「変わらぬ価値というのは大事です。どうか、うちのハチミツを今度ともごひいきに。」

 まあこっちとしては、今後も安定した収入になればいい。今後とも契約通りにハチミツを買い取ってくれるだけで充分だし、買い取ったものをどう扱うかはランドさんやアサギリ村の人達にお任せ、という体裁の丸投げ状態である。

「じじじ(自慢のハチミツ)」

 うん、そうだね、ハチミツの生産だってハルちゃんたちとハークスさん達だよりなので、現時点で私は何もしてない。

 いや待て、私はまだ12歳で学園へ通う学生さんである。扶養や保護の対象であってもいい。私がしたことといえば、「養蜂箱」という道具の提案とハチさん達との交渉。そこから生じたハチミツの増産とその加工は、大人の仕事だ。

 私の実家は貴族で、実業家なの!

 いや違うな、養蜂業者は領地で働くハークスさんだし、うちに入っているのは、取引の仲介料と税金である。ハチミツに関してはその程度で、私のお小遣い、もとち資金になるのは、「養蜂箱」の売り上げとアイディア料、ドワーフ達に作ってもらった便利グッズの売り上げ。あとは辺境伯家などで診療の御駄賃ぐらいだ。

 薬師としての仕事はいい。それは私が将来的に身に着けたい技術と職であり、技術や知恵に対して対価をもらうのはプロとしての心構えである。

 しかし、しかしだ。今更ながらハチミツやその他の面白商品での利益はどうだろう?私はアイディアを出して、試作品を手に入れた時点で満足しているが。今回のハチミツのように、想定事情の規模で価値がつき、気づけば多くの人、それも村レベルの生活を支える基盤となってしまっている。

 万が一にも、ハッサム村やハチさん達と関係がこじれてしまったら、アサギリ村は終わりである。

(そりゃあ、小娘相手にも丁寧に接待したくなるか。)

 ランドさんやガルシア様達にとって、私という存在は、上にも下にも置けない存在となっているということだ。

 うん、正直めんどくさいなー。私は、そんなキーマンになりたいわけじゃない。ほどほどに収入がある田舎のスローライフが出来ればいいのだ。

「ガルシア様、今日はありがとうございました。」

 一通りの見学を終えた私は、そこでまた一つ手を打つことにした。

「これは若輩のものでありますが、今日のお礼と今後の関係を願う意味でのものであります。どうぞお役立てください。」

 ギリギリまで迷っていたけれど、そのカードを切ることにためらいはもうなかった。

「こ、これは?」

「薬師である祖父から教わった「ハチミツアメ」のレシピです。あと拙作ですが、私の考えたレシピと活用法のメモです。」

 ガルシア様に託したのは、ハチミツの活用法の覚書だった。

 喉に優しく栄養もあるハチミツアメに、炭酸とスパイスを混ぜたなんちゃってエナジードリンク、お肉が柔らかくなる煮込み料理の方法。さらにはハチミツがない場合の代替品であるメープルシロップの作り方まで、薬師としての知識と前世の知識をブレンドしたハイブリットで唯一無二のアイデアノート、その一部を書き写したものだ。

「あああ、ありがたい話ですが、薬師どの、これは秘儀なのでは?」

「いえ、別に一子相伝とかじゃないので。」

 薬師としての修業は厳しく、責任は問われるものだが、ここに載せているのは危険性のない応用だし、そもそもじいちゃんの技術や知識も、奥義とかじゃないから。

「ちなみにですが、一部のレシピはまだ理論段階のものです。どう扱うかはお二人にお任せします。」

 メープルシロップの採取は楓の木。そこから作られる生キャラメルとかは前世のテレビでみた北海道のあの牧場の特集の知識程度のものでしかないし、美容品についてはまだ作ったことのないものばかり。お試しで作るにしても相当なリソースと時間がかかることだろう。

 でも食べたいじゃん、生キャラメル。使いたいじゃん、ヒアルロン酸配合の化粧品とか。

「薬師様、いやストラ・ハッサム様。この御恩は忘れません。アサギリ村はいつでもアナタを歓迎します。」

「いえいえ。それもそうですが。」

「はい、ハッサム村との取引は今後も誠意を忘れずに続けさせていだきます。」

 私からすれば、あったらいいなこんなものレベルの思い付き。いつか形になったものが手に入ればうれしい程度のものだ。ランドさん達がこれらの知識をどう活用して、どう儲けるのかにまでは興味はない。

 仮に失敗しても、養蜂事業が傾くほどのギャンブルをするとは思えないしね。

「では、今日は失礼させていただきます。有意義な時間をありがとうございました。」

「こちらこそ、ほんとに、本当にいつでも来てください。歓迎します。」

 別れ際のその時まで、ガルシア様は私に感謝してくれた。ほんと大したことしてないんだけどなー。


「じじじ(よかったの?)」

 帰りのクマ吉のハルちゃんまでそんなことを言ってきたとき、私は声をあげて笑ってしまった。

「いいいんだよ。結果として今後も美味しい物が食べれるようになるんだから。」

「ふるるるる(それは楽しみ。)」

「ぐるるるる(このあたりもヌシいない。パパに言っておく。)」

「ふるるるる(そいつはいい。親分にも言えば、誰か来るかもしれない。)」

「ぴゅうう(そうでもなくても、精霊に居心地の良い場所になる。)」

 いやまて、なぜそうなる?

 ちょっとだけ不穏な動物ファミリーの言葉に少しだけ不安を覚えつつ、私はその日の視察を終えた。

 特に礼金も収入もなかったけど、振る舞われたアサギリ村の料理はおいしかったし、お土産のお菓子もおいしそうなので、私は満足である。



ストラ「不労所得は楽しいなー。」

ハル「じじじじ(でもなんだかんだ、忙しそう。)


アサギリ村

 とある事情から衰退していた過去を持つ村。宿場町として栄えた過去から腕のいい料理人や職人がいる。ランドの出資によりハチミツを中心とした食品加工の拠点として発展していく。


ガルシア・アサギリ 

 アサギリ村の村長にして、子爵。代々アサギリ村とその周辺を支配している一族の長。本人も料理好きでストラ曰く、放っておいても村を発展させる能力をもった逸材。



リビオン・ルーサー ep.49 47 獣人がきたーで出てきた獣人キャラ。


 ゲームの隠しキャラ的な獣人。各地を旅をしていて出会えるかはランダム。何回か遭遇してフラグを立てた上で、彼に認められることでルートが解放される。獣人族の犬人の貴族で、義に熱いタイプ。普段はチャラい言動なのだが、一度道を決めると態度が侍になる。

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