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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ 12歳 学園編

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74 インテリは議論を求める。商人は早さと速さを求める。

 ロゴス君が語ります。

 学園の授業の1コマは90分となっている。その前後15分ほどは、教室を掛け持ちする生徒の移動時間やなにより教員側の準備時間として使われているため実態は60分ほどなのだが。

「いやー、今回も盛り上がってしまったねー、みんなも気を付けて帰る様に。」

 経済学の授業のように議論系の授業は、だいたい時間が超過する。

「では、今日の授業をもとに、ガラス製品の値段を決定する要素について、ここの考えをレポートにまとめておくように。」

 理由は経済や金の問題に答えなどないからだ。適正価格、公平な取引?そんなものは、状況と気分とそれぞれの立場によって変わるものだ。

 そして、今の私は早く帰りたくてしょうがない。教室から一秒でも早く離れていきたい場所がある。

 より利益とメリットを得るために交渉や議論をするのは商人とって大事な要素の一つである。こだわり抜き、相手や自分の考えを徹底的に分析し、気になることがあれば指摘し、より良い形を目指す。経済学の授業で議論形式なことも、間違ってはいない。必要な事である。

「うむ、今回もいい勝負であったな、ハッサム嬢に、リットン君。」

 よそ行きの仮面をつけたマーチン君も、この時ばかりは上機嫌な様子で、授業が終わるなり私とリットン君のところへ寄ってくる。

「ロゴスさんも相方らずの見識で、勉強になります。」

「こちらこそ、リットン君がガラスの産地と特徴を知っていたことには驚かされた。御父上はそうとうに。」

「あ、それは、おじょうが。」

「ロゴス様、この後のご予定は?」

 余計な事を言われる前にリットン君を牽制しつつ、私はマーチン君を見る。

「う、うむ。特に予定はない。それこそ、先ほどの授業に続きについて2人と更に論議をできたらと。」

 やはりか、この学問バカは、何かと理由を付けては知恵比べやら議論で私に勝負を挑んでくる。入学時の試験で、上下はついたと言っても、経済学の後は必ずといっても食い下がってくるのだ。

「あれは勝負じゃない。おふざけというものだ。」

 どこで聞いたか、私の本当の成績を知ってしまってからは、それが更に顕著になっている。インテリ君は、真の意味で私に勝利をしないと納得できないらしい。


 若いなーとは思う。相手の気持ちとかイライラを配慮していないあたりがとくに。


「リットン君。あの本って今も持ってる?」

「えっ、はい。今日の授業使うかと思って。」

「お見せしてあげなさい。」

 不機嫌を隠そうとしない私の態度にひるむ、マーチン君に私が突き出したのは、一冊の本だった。

「な、なんだ。これは。ずいぶんと。」

「え、ええっと僕がよく読ませてもらっている本です。」

 妙にファンタージなこの世界、本は割と高くて重い。その中で特に重くて分厚い本。あれだ言語の辞典

ぐらいの厚みで、サイズはA4ぐらいと言えば想像できるだろうか?

「これは、市場経済白書?うちの本じゃないか?」

「そうですね、ロゴス家の人が数年に一度出されている本です。」

 だけどね、真に賢い人間はそもそも最低限しか舞台に立たないものだ。

「えっ、お嬢?ロゴスさんって、えっ?」

「そうか、言ってなかったもんね、作者の名前までは。ロゴス家は「市場経済白書」「農業目録」「万国風土記」を書いた人だよ。」

「えっ、どれもお嬢が、絶対に読んどけって言ってた本じゃないですか!」

「そうだよ。」

 王国を含めた同盟三国、その各地の市場の様子や、名産品や特徴がびっしりと書かれた本。内容が内容なだけに読まれることは少ないのですが、貴重さゆえにハッサム村みたいな田舎の村にだって置いてある。

「まさか・・・リットン君?」

「面白いので愛読しています。」

 目をキラキラさせるリットン君とマーチン君はしばし、見つめ合ったあとにがっしりと握手をする。

「「同士」」

 国語辞典や地図帳をずっと読んでいる子っているよねー。

「ははは、この本の編纂は私も手伝ったんだぞ。」

 ちょろいなー心配になるレベルで。まあ、本にとって大事なのは著者よりも、そこに書かれたことの信ぴょう性である。

「というわけで、ロゴス様。このようなお願いは、マナー的に失礼と思うのですが、どうかこの本についてリットン君とお話いただくことは可能でしょうか?」

「構わない。構わないぞ、ストラ・ハッサム。ロゴス家として、いや1人の学徒として、リットン君の勤勉さに応えるのは義務と言ってもいい。」

 うわー、ちょろいー。

「でも、よかったね。リットン君、ロゴス様ならきっと市場を案内してくれるわ。」

「ほ、ほんとですか。」

「任せたまえ、せっかくだし、ガラス問屋も紹介しよう。ともに今日の授業を実践で深めるのだ。」

「え、ええええ。」

 そのまま、リットン君を引きずる様に駆け出すマーチン君。うん、若いねー。

 おそらくは、このまま王都へと突撃するだろう。

「まあ、市場は開いてないだろうけどね。」

 時間が午後4時。日暮れにはまだ余裕はあるけれど、市場や問屋などは取引を終えている時間だ。

「ジジジ(いいの?誰か送る?)」

「いいんじゃない。ロゴス家の人間なら護衛ぐらいいるでしょ。」

 なんだかんだ、ロゴス君や攻略対象はVIPな人間達である。自家用の馬車や護衛ぐらいいるだろう。リットン君ぐらいだからねー、混じりっけない庶民なのは。

「ふるるるる(さらっと、リットンの坊のおもりをまかせたな。)」

「ぴゅーー(でも、楽しそう)」

 いつの間にか集まってきた、いつもの動物さんチームと歩調を合わせながら、私も次の予定のために早足になる。

「さあ、いくよ。クマ吉も迎えにいってあげないと。」

「じじじ(楽しみー。)」

 今日は、お出かけの予定があった。


 それもリットン君とかメイナ様たちには、まだ見せられない場所ね。

 そのために、マーチン君をあしらう必要があった。ついでにリットン君の面倒も見てもらえそうだし、万々歳である。

 さらっと勝ち組のストラさん。

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