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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ 12歳 学園編
74/74

73 ストラ、インテリ眼鏡にまた絡まれる。

 再びのキャラがらみ

 学生たちの朝は早い。そして苛烈である。

「カレーライス、売り切れです。」

「仕込み分は昼食用ですからー。」

 調理場から聞こえるそのニュースに、半数の生徒が頭を抱えて膝をつく。

「ちくしょう、またか。」

「どうして、どうして人数分用意してくれないんですかー。」

「また、食べれなった。こっちならワンチャン行けると思ったのに」

 それはまだまだ試験段階だからです。あと、そこのダメエルフは教室へ帰れ。

「なんか、すごい人気ですねー、そんなに美味しんですかカレーって。」

「うーん、ハッサム村のから揚げみたいなもんだよ。」

「なるほど。」

 それで理解できてしまうか、リットン君。なんだかんだ彼もたくましくなったものだ。

「さすがに鍛えられました。お嬢の行動の一つ一つに驚くのではなく、お嬢だからで済ませろとケー兄ちゃんも言ってましたから。」

「それは良くないよ。ケー兄ちゃんは不良だからねー。将来的には君のほうがずっと偉くなるし。」 

「でも、ケー兄ちゃんはケー兄ちゃんですから。」

「そういうもんかねー。」

 カレーで阿鼻叫喚する生徒(+ダメ教師)を横目にのんびりと朝食をとる。多くの学生の朝食やらなんやらがある関係で、学園のスケジュールはゆったり目だ。前世で言えば大学のそれに近い。

「今日は、一般教養と、午後は経済学の授業だっけ?」

「はい、一般教養も「商売の基本」だったはずです。」

「そっか、今日は経済な一日だねー。」

 食後のお茶を飲みながら、のんびりと予定を確認する。そうこれだ、これが私の求めていた学園生活ってやつなんだよ。

 スタートから色々とやらかした感があるけれど、私の学園生活はやっと落ち着いてきた。

 えっ、ボルド君? 知りませんねー。ナンノコトデスカ? 

「畑はいいんですか?」

「うーん、まだ迷ってるし、しばらくはクマ吉の寝床だねー。」

 平和ったら平和だ。私がそう判断した。

 そうやって朝の時間はのんびりと、せめて朝ぐらいはのんびりと過ごしたかった。


「ストラ・ハッサム。今日の授業が楽しみだな。」

「げっ。」

「げっとはなんだ。学友としての挨拶だろうが。」

 だって、朝からめんどうなのに絡まれてしまったら、こんな反応になるっての。

「ふふふ、だが経済学の授業では、逃がさんぞ。議論ならば試験のように手抜きもできないだろ。」

 そういって眼鏡をくいと直す緑髪。以前あった前髪はばっさりと切ったのでずいぶんと見える顔になったインテリ眼鏡がカレーの匂いを漂わせながら私たちに話しかけてきた。

 マーチン・ロゴス。国内随一の学術一家の息子様は、懲りずに私に挑んでくるのだ。。

「ロゴスさん、おはようございます。」

「おお、リットン君。マーチンでいいと前に言っただろう。」

「いや、さすがに。」

 気づけばリットン君とも仲良くなってるし。

「リットン君は俺のライバルであり友だ。君の言う通りに髪を切ったら成績もあがったしな。」

 目に悪そうだったしねー。てかロゴスの髪を切らせた男。ちょっとカッコイイな。


 そんなこんなで、授業が被るとマーチン君は、私たちに絡んでくる。なんなら私が居ないときもリットン君とつるんでいることが多いらしい。男の友情ってやつだ。

 まあ、それはともかくとして。

「では、今日は、物の値段について考えていこうと思う。」

 舞台は経済学の授業へと移る。

 経済学の授業は、需要と供給といった中学校で習うような経済の基礎を勉強しつつ、議論形式で商売の疑似体験などもできて結構面白い。

「では、この瓶の値段について考えていこう。君たちならこれに幾らの値をつけるかな?」

 そう言っておかれたのは、中くらいのガラス瓶、要領は1Lほどで円筒状、食品の保管なんかによく使われるタイプのものだ。

「相場では5ダルといったとろでしょうか?」

 真っ先に応えたのはマーチン君。しっかりと勉強している彼の言葉どおりなら、市場で5ダルで買えるということになる。

 ちなみにこの世界の通貨はダルとセントと呼ばれている。前世の感覚でいうと1ダルが100円。セントは1円といったところだ。

「よく勉強しているね。このレベルの瓶ならば、王都の市場で探せば5ダル高くても10ダルで購入することができる。私は7ダルで購入してきたものだ。」

 でもそれは、王都にガラス工房があるからの話で。

「しかし、これを王都以外、辺境伯領やラジーバへ持ち込めば値段は3倍から4倍になる。なぜかわかるかね? ハッサム君、君はどう思う?」 

「輸送コストの問題でしょうか? ガラスはそれなりに頑丈ですけど重量があります。移動中に破損する可能性なども考慮すると、王都より高くなるのは納得といったところです。」

 王都産のガラス製品と言えば、田舎ではちょっとした高級品だ。お土産でもらったジャムの空き瓶なんかを洗って、再利用したり転売したりなんてのも良くある。

「そうだね、だからガラス製品というのは王都外へ輸出される有力な商品となるんだ。しかし、これは王都だけで作れるものではない。」

「原料となる珪砂がラジーバやスベンからの輸入だよりだからです。」

 おっとマーチン君、先生の言葉を遮るのはお行儀が悪いぞ。

 ちなみに珪砂というのは砂である。天然ものは河口や海岸で採取できるので、ラジーバやスベンの海岸線からの輸入に頼っている。ちなみにマーチン君の言葉は半分正解だ。

「そうだね、質の良い天然の珪砂はラジーバやスベンで獲れる。そして、」

「質の良い窯や職人、加工技術は原産地の方が高いです。」

 おっと残りの正解も理解していたか、さすが王国一の学術一家。地方の特産物も理解していたか。

「その通りだ。ロゴス君はよく勉強しているようだね。珪砂のの産出地のあるラジーバやスベンには、ガラスの名産地がいくつか存在する。ベネーチ、バガラ、レーデル。みんなも名前ぐらいは知っているんじゃないか?」

「ベネーチは有名な色ガラス、バガラはグラス、レーデルはワインボトルの生産は有名です。各地のガラス製品が王都の市場では高級品として並んでいると勉強しました。」

「おや、ビー君はまだ市場に行ったことはないのかい。」

「あっはい、学園へ直接入学したもので、お恥ずかしい限りです。」

「いやいや、それなのに、各地の特色も理解しているのは素晴らしいよ。むしろ、君の知識をどこで得たのかな?」

「故郷で出入りする商人さんから、あとは。」

「リットン君の父上は、ハッサム村の経理も担当しています。だから各地の商人さんとの交流する機会が多いんです。」

「なるほど、素晴らしい御父上だね。」

「はあ、恐縮です。」

 おいおい、余計な事を言うなよリットン君。地理の勉強ついでに各地の名産品について私が教えたなんてばれたらどうしてくれる。

「しかし、先生。そんなに名産地があるなら、なぜ王都でのガラス製品を作るんですか?珪砂の産出地で作った方が安上がりだし、砂にするよりもガラス製品の方が儲かると思うのですが。」

 とここで、他の生徒がそんな疑問を口にする。それは当然の疑問だ。妙にファンタジーなこの国では各地で専門的な生産をしていることが多い。米作りで有名な村があれば、ブドウからワインを作る村、そうやって専門家気質な人間が多い。

「なるほど、確かに農業や食品関係ではそういったことが多いね。だけど、工芸品、ガラス製品はそうならない理由がいくつかあるんだよ。」

 悪戯を思いついた様子の先生に、生徒たちは顔をしかめる。みんなそこには気づけないようだ。

 まあ、種が分かると簡単なんだけどね。

「ハッサム君は分かっているようだね。」

「・・・ただの推論ですが。」

「構わないよ。ここはそういった考えが正しいかみんなで考える場だ。」

 うーんだめだ。この先生には私の考え、もとい悪ふざけがばれているっぽい。

「珪砂の産地から、珪砂を運搬して王都でガラス製品を作った方が安上がりだからでないでしょうか?」

「どういうことだね?」

「珪砂は砂です。ガラス製品よりも運搬は楽です。時間で品質が下がることもないから倉庫などに置いておくことも可能です。ならば、ため込んだうえで工場を作り、そこで生産していけばいずれば最終的なコストは安いのではないかと。」

 具体的な数字まではさすがに分からない。そうやって少しでも安く、儲けるための方法を考えるのが商人というものだ。ましてガラスは食品と違って工場さえあればどこでも作れる。

「面白い考えだね。ちなみに、それは王都が最大級の需要の拠点であることを理解しての考えかな?」

 ちっ。この野郎、人があえてぼかしたことを。

「・・・はい。」

 国の人口は王都とその周辺に集中している。つまり、たいていの商材は王都へ持ちこれば売れるし、儲かる。王都の近くに工場を作って、加工して売るというは、ビジネスの成功例だ。

「さすが、王都にハチミツ工場を持っているハッサムだね。」

「うちは、卸しているだけですよ。その商人さんが行っていることが、ガラスにも当てはまるかなって思ったんです。」

 それをしているのはうちの出入り商人です。

「一時の儲けよりも継続的な信頼と利益を。」

 うん?

「ある商人が昔、そう言っていたことを思い出したよ。慧眼だね、ハッサムは。」

 やめて、なんかみんなの目が痛い。

 とくに、眼鏡君のギラギラした目がやばい。

「なるほど、コスト的な問題は斬新だ。じゃあ、各地に産地があるのは技術的な特異性が考えられるのでしょうか?」

 ほら、対向してきたじゃん、面白いけどめんどくせー。

「そうだね、ビー君が先ほど言ったように、各地のガラス製品にはそれぞれ特徴がある。原料もそうだけど、伝統的な技術というのは模倣が効かない上に門外不出なものが多い。ロゴス君の考え、それが「ブランド」というものだ。」

 うん、今日の授業も楽しくなりそうだ。

 

学園モノらしく、攻略キャラたちとの絡みが続きます。


マーチン・ロゴス インテリ眼鏡枠 

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