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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ 12歳 学園編
73/110

71 禅問答なんてする気はない。

エルフとのお話 

クマさんとともに。

「召喚魔法だと―」

 視界を埋め尽くす一撃に対して、とっさに障壁をはって攻撃を防いだボルドが上げた声はそれだった。

「その若さで!」

 いや、若さとか関係ないから。

 召喚魔法。この素敵世界の中でもかなり特殊な魔法であり、その名の通り契約した精霊を召喚して力を借りることができる。どのように力を借りれるかは、精霊との親密度や契約内容によるけど、

「ぐるるるるる(おいしそうなにおい。)」

「うん、この後で食べようね。だから、もうちょとだけよろしく。」

「ぐるるるる(やったー)」

 すっかりマブダチなハッサム村の愉快な動物たちは、ほぼノーコストで呼び出すことができる。報酬はハチミツキャンデイと、何かいい感じに美味しい物。

「食べながら話すのが悪いんですよ。」

 今回はボルドが、カレーの匂いを漂わせてくれたからすんなりだったよ。

「いや、なに、なにこれー、怖い。」

 それはさておき、形勢は完全にこちらに傾いた。最近また大きくなり猫バスサイズになったクマ吉の一撃は、魔法でチートなスキルである「障壁」でも防ぎきれるものではなく。ミシミシと悲鳴を上げながらボルト君を押さえつける。

「な、なんでだ、俺の障壁がこんなあっさりと。攻撃無効化の効果もあるんだぞ。」

「質量攻撃は、攻撃に入らないんだろうねー。」

 まあ詳しく説明してやる義理はない。

「で、アナタは誰ですか、急に拉致って話しかける変質者さん。」

「し、失礼な。俺はボルト。ボルド・カークス。こんな見た目だが、俺はエルフだ、ずっと年上だぞ。」

「年上、ということは部外者なんですね。教師の名前は名簿で確認してますから。」

「いや、俺はここの学生だ。」

「つまり、留年生?」

「いや、違う。学生という身分で学園に所属しているだけだ。俺は「ブックマン」なんだ。」

「ふーーん。」

 そこら辺はゲームと同じだ。長寿であるエルフは知識欲が高い。そのため、生き字引として様々な知識や技術を記憶し、語り部として学園などの研究施設に所属していることがある。植物学のダメエルフもそうだが、ため込んだ知識をもって質問に答えるという契約のもとボルドも学園で自由に過ごす権利を持っている。「ブックマン」というのは、そういったエルフの中でも最上位の存在であり、現存しない口伝や古代の知識も聞けば教えてくれる。

「その「ブックマン」さんが、なんでまた拉致を?」

「そ、それは、お前を見極めるためだ。その名誉がわかっているのか?」

「だったらまず、名乗りましょうよ。」

 障壁による隔離、鮮やかな拉致、超然としたイケメンのコンボでただならぬ存在であることは自己紹介されているが、やっていることは不審者のそれである。

「相手が悟ってくれることを期待する。それは甘えじゃないですか?」

「ぐっ。」

 こういう輩は、前世でもいた。自称有名人とか有識者なクレーマー。突然電話してきたら、ニュースなどについて長い事語り、学校は対策しているのか?と聞いてくるやつ。

 ニュースになる時点でね、学校とかには警察とから連絡がくるし対策もしてるっての。それをお前に説明する義務がないだけだっての。そもそも3回線もない学校の電話をお前が占拠するなっての。

 オッといけない。

「薬師の弟子よ、貴族病の治療法を見つけ、食に革命をもたらすであろうお前という存在は、興味深い。だからこそ、お前という存在を見極めよ。」

「あっ。」

 私の意図を読み取ってクマ吉が圧力を増す。(押し込む力をちょっとだけ。)

「何ですか、その上から目線。いきなり拉致って、意味の分からない言葉。落ち着いと思ったらそのものいい。私もね、暇じゃないんですよ。」

 リットン君に付き合って一般教養と経済学の授業に出席し、空いた時間は自分用に割り当てられた畑の世話。この二つだけでも忙しいのに、メイナ様とお茶会をしたり、ガルーダ王子やダメエルフ先生などの面白人物たちの相手をしたりとイレギュラーなイベントが多すぎる。

「ぐぬ、だが俺は問う。その上でお前を見極めて、記録する。ストラ・ハッサム、己のしていることの大きさを正しく理解しなさい。」

「ぐぬ。」

 クマ吉に押さえつけられながらもこの態度。「ブックマン」も伊達ではないということだろう。

「問う。お前が作り出した、カレー。それが流行った場合の影響を考えたことはあるか?」

「食事の概念が変わりかねませんね。」

 食うには困らないが、塩味ベースで薄味なこの世界でカレーの与える刺激はすごいことになる。もしかしたら、カレーをきっかけに新たな味や調味料の研究も始まるかもしれない。

「特にこのカレー、材料がすごい。ウコンやターメリック。これらは西部や砂漠地帯で獣よけの雑草として存在しているのは知っているな?」

「ええ、先輩に教えてもらいました。」

 もったいないよねー、日本人的な思考するならば、春の七草や山葵や山芋など美味しく食べられるものが多いというのに。

「今までは雑草として放置されがちだったこれらにお前は価値を与えた。しばらくはだれもがこれらを求めるだろう。」

 ちなみに唐辛子も食用にしたのは私です。

「カレーが広まって日が浅い。耳の早いものは、これらの確保に動いている。砂漠や西部では間違いなく特産となり、畑も作られるだろう。」

「いいことじゃないですか。」

 金が動き、経済が回る。

「それによって損をするモノがいても?」

「そんなものを気にする方が、不自然です。」

 カレーが広まり、香辛料やスパイスの生産が本格化すれば、その影響で損をする商人や料理人がでるかもしれない。

「商品選びで損得があるのが商人ですし、料理人はさらに美味しい物を追求する職人であるべきだと思います。」

 選べるだけいいじゃないか。私のとこにくる無茶ぶりは、ボルド含めて回避不可のだぞ。

「なるほど、弱肉強食は自然のそれだ。」

 私の回答にうんうんとうなづボルド。だがくわっと目を見開き。

「だが、それは人の子の理屈だ。これらが畑になることの自然への影響を貴様は考えたか?」

「きさま?」

「あっ、すいません。言葉がきたなかった。君はその影響を考えたか?」

 めんどくせー、こいつまじでめんどくせー。

 私は、学園に植物で、美味しいご飯を食べただけだってのに。

「じゃあ、ボルドさんは、農耕や開拓のすべてを否定するんですね。」

 イラっときたことは否定しない。ゲーム時代からこのエルフ嫌いだだったし。いや、そもそもなんであのゲームにはまってたんだろう、システムが面白かったから?少なくとも、現実のメイナ様の方が素敵だし、攻略対象たちも深く関わりたいとも思わない。

 だからこそ、

「自然のままにというのは聞こえがいいですが、何もしないで放置された土地って一か月ももたないんですよ。」

 山がいい例である。育ち過ぎた木は日の光を遮り下草が育たず、栄養のサイクルが壊滅してしまう。そうならないように木の枝を切り落として、日の光が入る様にする、山に芝刈りというのはこういう仕事だ。

「砂漠というのは、自然のサイクルの果てに、栄養と水分が枯渇した土地です。ですが、然るべき開墾がなされれば、これらの植物は育つでしょうね。」

 植物が育てば、それを求めて虫や小さな生き物が集まり、自然のサイクルが生まれる。

 人間側の理屈という人もいるが、農業や開墾というのは、自然にとっても都合がいいものだ。

「ジジジジ(養蜂箱)」

「あれ、ハルちゃん。いつのまに。」

「ふるるるる(うまい酒と風呂もいいもんだ。」

「サンちゃんも、障壁は消えたか・・・。」

 タイミングよく表れたハチさんたちとフクロウも私に同意する。

「むっしかし。」

「要はバランスですよね。まあそのあたりは今後の課題です。ですが、私には関係ない。」

 経済への影響や、環境との付き合い方、フォルクス先輩やスラート王子もそこは、弁えて計画を立てていくだろう。相談されれば乗るけれど、私はあくまで素人である。そこは弁えておく。

「偉そうに反証しかしないやつはもっと関係ないですよね。」

「あ、あああ。」

「「ブックマン」とか言うなら、偉そうに説教しようとか思わない方がいいですよ。」

 パリン。

 私の言葉に心が折れたのか、いい音を立ててくだける障壁は、なかなかに見ごたえがあった。


 批評家ほど、自分が攻められると脆いんだよねー。


召喚魔法・・・紲を結んだ精霊は時と時間を超えて力を貸してくれる。


ストラ「こいつらの場合が食い意地だけどねー。」

クマ吉「ぐるるるる(久しぶりの出番)」


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― 新着の感想 ―
2話前では領域と呼ばれていたスキル、前回とこの話では障壁となってます。 誤字報告…と思いましたけど文脈がおかしくなりそうなのでこちらでご報告。 楽しく読ませてもらっています。 更新頻度も悪くなさそうで…
>「特にこのカレー、材料がすごい。ウコンやターメリック。これらは西部や砂漠地帯で獣よけの雑草として存在しているのは知っているな?」 ウコンとターメリックは呼び名が違うだけで同一の物質です。
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