66 結果を知らなければ 毒も薬も変わらない。
ストラさんの日常回?
それなりに期待して植物学の教室を希望した私だったが、先生はダメ人間ならぬダメエルフ。長寿な気長な考えの持ち主なので決まった講義などがあるわけでなく、キャシー先生、以下授業よりも研究畑な先生たちが学園ないの菜園で好き勝手しているというのが現状だった。生徒たちの大半も籍を置いているだけ、あるいは、自分の菜園を借りて思い思いに農業やらガーデニングやらをしている。
それが許されているのは、そうやって生み出された植物の新種や生育方法などを定期的に発表しているから、食用や観賞用がメインで、キャシー先生は青いバラを創り出した植物学の権威として存在している。
なにそれ羨ましい。それが許されるのってどんだけ優秀なんだ。
学園の一角に作られた菜園、区画分けされたその場所には多種多様な植物が植えられている。用水路から水を引いて作られた水田では稲穂が育ち、丁寧に並べられた果樹園にはリンゴやレモンなどに並んでヤシの木が生えている。バラ園にチューリップ、タンポポなんかが咲き乱れている。あとは野菜の搾取、キュウリのツルが巻きついた柱に、茨のように広がったトマト。見た目も派手だが、その価値もすごい。
「おお、今日もトマトが実ってるねー。」
赤く実ったトマトをもぎって食べる。春先にトマトとはこれ以下にと思うけど、温暖な気候なのでいつでも食べごろだ。程よく貼りのある皮にかぶりつけば程よい酸味と甘み、ジュクジュクした中身が苦手という人もいるけれど日の下で食べるとこれがまたうまい。
「観賞用としてしか育てられていたとは思えないよね。」
トマトや唐辛子も日本では観賞用として輸入されたと言われているけど、この世界では赤とかオレンジがキレイという理由で持ち込まれ、乾かして絵の具などの材料にしていたそうだ。なんてもったいないことを。
「じじじ(美味しい、新鮮)」
「ふるるるる(冷やせば酒にもあいそう)。」
「ぴゅーー(私はちょっと苦手、あの細長いのがいいな。)」
いつもの動物さんたちにもトマトや菜園は珍しく、私が菜園にくると引きこもり気味なレッテまでいつの間にか集まってくる。
「細長い、ああバナナか。」
たしかにあれもあった。
「先輩ー。私、温室の方を見てきますね。」
「ああ、なんか気づいたらよろしく。」
近くで作業していた先輩たちに声をかけて私は、菜園の中心にある温室へと足を向けた。そう温室、温室まで完備されているのである。しかもビニールじゃなくてガラスで作られたマジもんのやつ。
温室、いや温室ドームといってもいいくらいの大きさの建物は、壁面はガラスと金属で作られている。
「ふるるる(ハッサム村の大浴場みたいだな。)」
「サンちゃん、それ正解。」
金属の部分は骨組みと同時にパイプとなっており、水やお湯が循環している。それらを駆使して区分けされたブロックごとに狙った湿度や気温を再現して植物の生育条件を調べる。植物学教室の最大にして最重要施設が温室であり、出入りできるのは植物学教室の生徒に限られる。
ゲームでは見たことのない施設なのだが・・・。まあ購買でバナナとイチゴがいつでも買えたという時点で、こういう設備もあったということにしておこう。
それなりに広い設備を回って、植物の状況を見る。新入りもベテランもこの広い菜園を見回り、害虫や病気の気配があれば報告する。種付けや畑づくりのように大規模な活動のときは、教室の人間や学生を一時的に雇って人手を確保する。どこか実験農場のような場所である。
いずれは私も一部を菜園の一部を借りて何か作りたいところだけど、今はこの大規模な菜園や温室での宝探しの方が楽しいのでおいおい。
「バナナ、実ってるねー。」
「じじじ(各自回収)」
「じじ(了解)」
熱帯エリアと私が勝手に名付けている場所、そこには大きなバナナの木がある。前世でいった社員旅行で唯一の癒しポイントだった温泉地のアレにあったものと同じ木を見つけたときは、感激した。観賞用の草として持ち込まれたものが、原産地では実を主食として食べるほどポピュラーなものらしい。
バナナはすごいのだ。実のおいしさはもとより、栄養価も高い。葉っぱは丈夫で加工すれば紙や服になる。そもそもが原種に近く食べれたものではなかったらしいが、長年の研究のおかげで私の知っているバナナと同じような色と味になったらしい。
「ぴゅーーー(こっちのが好き)」
ゴキゲンで食べるレッテちゃん。アイスピグの名の通り雪山や寒冷地に住む彼女だが、暑いからだめというわけでもなく、この温室もお気に入りのようだ。(主に食べ物的な意味で)
「おお、ストラちゃん、今日は何を探しているんだい?」
バナナなをもぐもぐと食べていたらバナナの木の陰から作業着姿の先輩が現れた。がっしりとした体格のわりに、きつめを思わせる細長い目。
「あっ、フォルクス先輩、おはようございます。6番から9番のバナナは食べごろみたいです。なんなら収穫してもらいましょうか?」
「ああ、うん、頼むよ。」
フォルクス・フォッコ先輩。私と同じ田舎出身の貴族、というのは失礼か。南西砂漠よりのフォッコ地方を修めるフォッコ家の人で、南部や砂漠の植物を学園へ持ち込んだ人らしい。
「助かるよ、バナナは傷みやすいから見極めも収穫も大変なんだ。」
見た目がすぐ黒くなって腐るよねー、バナナって。
「ほいじゃあ、みんなよろしく。」
「じじじ(任された。)」
「じじ(抜かりなくやり遂げます。)」
「ふるるるる(任せろー)」
ハルちゃんは兵隊ハチとサンちゃんを引き連れてバナナの木を指定し、サンちゃんが実を根元から切り落とす。落ちてきた実を兵隊ハチが協力して運び。
「ピュー(程よく冷やす。)
レッテちゃんが冷蔵魔法で冷まして、兵隊ハチさんたちに保管庫まで運んでもらう。収穫してすぐに適温で冷やすことで、実が長持ちして味もよくなる。すっかりグルメになった動物さん達の行動力によって発見された技術なんだけど。
「ははは、何度見てもすごい。さすがは精霊様だ。ありがたいねー。」
実家が自然豊かなこともあり、フォルクス先輩も動物さん、もとい精霊に対しては親しみを持っている。
「うちのあたりは、狐とオオカミだねー。狐はだめになりそうな食べ物や毒のある植物を教えてくれる代わりに、気に入った物を持っていく。オオカミは塩を上げると、その家や村を守ってくれるんだ。」
そんなことを以前聞いた気がする。そうだね、精霊とうまく付き合うコツは、対価をしっかり用意すること、私やハッサム村の場合は敬意と美味しい物。
おっと、ホームシックなっている場合じゃない。今日は更に奥をみるんだった。
「フォルクス先輩、ここってクミンとかウコンもあるんですよね?」
「ああ、獣よけの草のこと、あるけど、まさか。」
「あるんですね。どこですか?」
水田があるし、この世界でも米は流通している。
塩も肉もそれなりにある。
だが、香辛料。ああもうぶっちゃけよう、カレー用のスパイスが微妙だったんだよ。
「ああ、わかった。香りが強いからあっちの方に別枠にしてあるんだよ。こっちこっち。」
驚きつつも案内してくれるのは、フォルクス先輩が優しいのもあるが。
「今度は何を作るの?」
単純な興味というのが大きい。
なんだかんだフォルクス先輩も研究者であり、領地経営に関わる人。使える植物や活用法は知りたいのだろう。
「気に入ると思いますよ。食の革命が起きます。」
香辛料やスパイスは、この世界にも存在する。だが、種類が少ない。圧倒的に少ない。
もしかしたらゲーム制作陣がそこまで考えていなかっただけかもしれない。
ただね。私は、カレーが食べたいんだよ。
ストラ「クミンに、ターメリック、カイエン、コリアンダー。」
ハル「じじじ(なんの呪文?)」
香辛料は何時だって貴重品




