64 ミサ、舐めプをする。
結局バトルな展開
魔法を鍛えるには、とにもかくにも魔法を使うことが大事である。使った分だけ魔法への親和性が高まり、スキルレベルが上がって魔法の威力があがる。同時に魔法を使うためのマジックなポイントも強化される。これはゲームへの知識とこの世界での経験から証明されている。
だが実践的な魔法運用をするとなると、それだけではいけない。戦闘時の立ち回りから使用する魔法、相手の攻撃や魔法に対処する方法は、知識や銭湯経験が大事となる。
「ふふふ、感謝するぞ、メイナ嬢。」
だからこそ、「決闘君」ことプレールは常に研鑽相手を探しており、何かと理由をつけて魔法戦を挑む狂犬のような男。
「魔法が関わらないと理性的でいいやつなんだけどなー。」
「剣を使っていいから、他流試合をしれくれって頼まれたなー。マジで魔法撃ち込んできた。」
というのは、スラート様とガルーダ様、王子様兄弟。なまじ優秀な魔法使い見習いであるので、学園としても王族としても扱いにも困る問題児。
まあ、あれです、結局私は「決闘君」ことプレール君と立ち会うことになりました。
「勝負は、対面式で移動アリ。それでいいんだな?」
「ええ、お手柔らかに」
ノリノリなプレール君の言葉を補足しておくと、これは学園における魔法戦の試合形式の一つだ。
遠くの的を順番に狙い命中率を競う「並列式」
同系統の魔法を使い、その威力を競う「直列式」
そして、テニスコートのように区切られた場所でお互いに打ち合う「対面式」である。
「フフフ、見た目は可憐で知的な美少女と思っていたが、その度胸と自信、見せかけでても尊敬するぞ。」
貸し切りにされた訓練場で向き合いながらプレール君のテンションはどんどん上がっていく。昨日メイナ様から聞いた話では、無茶がすぎるから「対面式」で試合をしてくれる人にも困っているそうだ。いや、私だって嫌だよ。ただ他二つを選んだ場合は、無限ループにしかならないんだよ。仕方ないんだよ。
「では、双方、加護の魔道具の確認を。」
だとしたら、スラート王子が審判をしてくれるこの機会に、はっきりと白黒つけないと、フラグを回収しておきたい。そう仕方なくだ。
仕方なく蹂躙してやるのです。
「くれぐれも、くれぐれも、やりすぎないように。」
「「全力で、いきます。」」
「話をきけーーー。」
そして始まる魔法戦。プレール君の初手は様子見の火炎魔法。詠唱も短くコスパもいいスタンダードなもの。
「遅い。」
しかし、そんな攻撃を許さずに速攻で空気弾を顔面に叩き込む。
「うお、容赦ないな。」
のけぞって空気弾を躱すプレール君。事前に私がそれを使うことを理解し予想していたとはいえ今のを躱すか、すごいな。
「って、まてずるいぞ。」
感心しながらポンポン空気弾を撃ち込んでいく。威力は石ころ以下の空気弾だが、マシンガンのごとく打ち出す空気弾のせいでプレール君は集中を乱されて魔法を発動できない。
「なんだ、この速度は、いくら威力はないといってもオカシイだろ。」
「そうですか、うちの村ならみんなできますよ。」
圧倒的な発動速度。んなわけない。最初からマシンガンのように空気弾を出す魔法を準備していただけだ。魔法が一発ずつなんて誰が決めた?
「く、だが威力はない。ならば。」
圧倒的な初動で流れを掴んだ私だが、プレール君は多少の被弾を覚悟して魔法の障壁を作り出して攻撃を防ぐという基本的な戦術をとった。
相手の魔法を躱したり防いだりしながら、攻撃を繰り出す。対面式の魔法戦に置いては、複数の魔法を平行して発動させてこのように戦うのが主流だ。
だから私ももう一つの魔法を用意しているわけで。
「雨よ。」
発動させるのは相手のフィールドを水浸しにする中級の水魔法。水浸しにすることが目的なので威力はない、その分発動時間は短いので、プレール君は発動を防げない。
「く、だが、威力がなければ加護は削れないぞ。」
加護の魔道具は一定エリア内での魔法攻撃によるダメージを肩代わりするものである。燃費は微妙だし対になる装置が大型であるため模擬戦にしか使えないけど、訓練で大けがをすることは防げる。ゲーム的なご都合主義な装置だけど、対面式では相手の加護を削り切るか、相手をエリアから押し出せば勝利となる。
「その空気弾も障壁をはった今なら効かない。今度はこっちの番だ。」
いや、君のターンはこないよプレール君。
びしょ濡れになった床。雨のように降り注ぐく雨に対応してプレール君は球体上の障壁で身体を守る。この障壁魔法、何気に高度な技術で、自分を基点としてその周囲に展開するという性質があり、そのまま移動することもできるし、球体上なので効率よく攻撃を弾き、燃費もいい。
でもね、自分も移動できるってことは。
連続空気弾でプレール君を妨害しながら、もう片方の手に意識を向けて力を貯める。
「いいぞ、こい。生半可な攻撃ではこの障壁は破れないぞ。」
移動しながら球形の盾で身を護ることに集中するプレール君。生半可な攻撃では破れないというのは事実だろうし、彼の狙いは私の渾身の一撃を防いでからのカウンターだろう。攻撃をいなしながらも魔力が高まっていくのが分かる。
ただ、戦略意図的な意味で、私の魔法の方が発動が早い。
「エアプレス。」
やがて繰り出すのはバズーカ砲のような勢いと大きさで繰り出される巨大な空気の塊。
「むだだ、そんな攻撃で、ってうお。」
障壁は破れない。だけど巨大な壁によるプッシュの所為でプレール君は足をもつれさせる。
「う、うわあああああ。」
つるんと転んだのは彼の足元がびしょびしょで滑りやすくなっていたから、そして障壁は固い壁でしかなく、うまいこと押し込めば体制は容易に崩せるのだ。
ふふふ、ハッサム村でクマ吉相手に練習したから、こういうのは得意なんだよ。
「お、おおおおおお。」
踏ん張りが効かない以上、プレール君は空気に押されてそのまま場外へと押し出されるしかなかった。
「場外、そこまで。」
場外勝ち。
あえての空気魔法オンリーという舐めプだが、手のうちを明かすようなことはしないのだ。




