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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ 12歳 学園編
61/114

59 ストラ 偏見と人見知りを発揮する。

 教授サイドの視点の話

(医学教室教授視点)

 ヴォルト・デナスにとって、この一年、いや2年間は教師生活の中でももっとも過酷でもっともツライ時間だった。きっかけは、

「貴族病の治療法と薬が発見されたそうだ。」

 そういう噂が流れ、それに対する問い合わせや、治療依頼、そして苦情と嫌味であった。

「伝統ある医学教室の英知をもってしても、「貴族病」は不治の病であると教授は言っていたな?」

「そうですね、発病を防ぐためには食事のバランスが大事です。あとは運動ですね。」

 貴族病、というのは貴族がかかりやすい疾患のことである。

 主な症状としては頭痛や歯痛に関節痛。悪化した場合は神経や心肺機能に障害がでる。

(ただの太りすぎなだけだ。)

 ヴォルトからすれば「貴族病」は不摂生と暴食による健康被害でしかない。身体は老いるし、無理をすれば壊れる。壊れたものを戻すのは医学ではない。医学とは予防であり、対処療法だ。それを理解しない欲深く傲慢な貴族ほど年をとると「貴族病」を発症する。大きくは言えないが、性病と似たようなものだ。

「発病してしまえば、その疾患と付き合って生きていくしかない、寿命と同じようなもの。だったそうだな。」

 嫌味たらしくいう貴族様、なにかと金のかかる医学関係ではスポンサーは大事だ。そしてスポンサーが求めるものは、より楽で、より安全に手に入る健康だ。

「しかし、辺境伯家の奥方は、投薬と食事療法で回復したそうだ。噂では寝たきりで、回復魔法でも助かる見込みはないとのことだったが。」

 その話は自分も聞いている。なんならヴォルトも、辺境伯家に招かれて診察をして、手の施しようがなかった。彼のもつ医学知識では、辺境伯夫人が「貴族病」ではないということは分かっても、その治療法までは知らなかった。

 だから身体が弱った相手向けの刺激の少ない食事を薦めた。それで一時は安定したとか言われているが、その後に聞いた話では、その食事ですら不十分であったということが分かった。

「なんでも、薬師殿が処方した薬を飲んだら、普通の食事をできるほどに回復したと。」

「それはありえません、辺境伯夫人の症状は一種の栄養失調だったそうです。ですから、「貴族病」の特効薬というよりも、効率的な栄養剤というわけです。」

「つまり?」

「閣下の症状を改善するには、食事の配慮と運動が大事です。」

「ちっ、つかえんな。」

「万能薬、なんてものは存在しませんので。」

 そういって頭を下げると、イライラとしながら貴族は帰っていく。

「馬鹿が。その脂肪を落としてからこい。」

 こんなやり取りが数えきれないほど繰り返された。

 実際、辺境伯夫人の快復は奇跡とも言われるほどの事件であった。

 社交界の花ともたたえられた夫人の衰退の噂は、社交界でも野火のごとく広がり、誰もが同情し、嘲笑していた。しかしそんな夫人が急に社交界に復帰し、健康と美しさを大々的にお披露目し、自分の体験を貴族のご婦人たちに喧伝したのだ。

 曰く、治療したのは、国内で知る人ぞ知る「薬師」の処方した薬

 曰く、「薬師」の推奨したバランスのよい食事と適度な運動。

 最大のことは、「貴族病」ではなく「脚気」と言われる別の病であり感染の心配はないということ。

 夫人のカリスマ性や、辺境伯の影響力をもって、貴族たちの健康と食事への意識はだいぶ改革された。

(食事に関しては納得だ。健康的な生活というのも我々が推奨してきたことだ。)

 教会とかいう回復魔法が使えるだけの似非集団に、対処療法しかできなかった医学関係者への批判は増えて、評価はだだ下がりとなった。

 ヴォルトはそれでも良いと思っている。どんな理由であれ辺境伯夫人を救えなかったのは医学を志すものとして悔しかったし、救えた存在には尊敬と興味があった。

 何より好ましい事実は、辺境伯を通して「脚気」と呼ばれる病気に対する知識と治療法について、何の見返りを求めることもなく公表したことだ。

 そのレポートを読めば、「貴族病」に対するヴォルトの見識が間違ってはいないが考えは足りないものとだったと痛いほどわかった。健康を維持する努力と、健康を取り戻す努力。これらがあってこその医学だと己の無知を恥じた。

「なんだ、これは、ビタミン?、換気?まったくただの民間療法じゃないか。」

 同僚や上司たちはこのレポートの真価を理解せず、粗探しばかり。

「神の教えを否定するとは、まったく田舎者はこれだから。」

 もっとひどいのは、自分たちの回復魔法や独自の食事スタイルをけなされた教会関係者だった。本来なら犬猿の仲である医学関係者ところに押しかけて、こんなことを言い出すほどだった。

「馬鹿を言うな。自分たちの間違いをまずは認めろ。」

 ヴォルトはそういって、関係者を殴った。結託して「薬師」を糾弾しようなんて提案をした時点で限界だった、そして一部の同僚が同調した時点で、手が出ていた。

「ヴォルト様は、お医者様なのですね。」

 そして気づいたら辺境伯様の前に膝をついていた。良からぬことを考えていた同僚と教会関係者の多くは国家反逆罪で投獄された。 

 ヤバイと思った。

 田舎に帰りたいと思った。

「人を治すことを使命とするものが、人に暴力を振るいました。私は医学から身を引くつもりです。」

 その場の思い付きながら、いい理由だと思った。

「ははは、ならば国や人々を守る使命をもった我々や兵士が人を殺すこともおかしいのではないですか?」

 でも辺境伯の方が上手だった。

「あなたのように、謙虚さと思いやりを持った人にこそ、学園での教授を任せたいのです。」

「は、はあ。」

 やばいと思ったときには遅く。ニコニコと微笑む辺境伯とその横に並ぶ王族関係者の圧力を前に首を縦に振るしかできなかった。

 一介の医者が、王国でも権威のある学園での教授職につく。異例の出世であった。やっかみとか心配の声もあったけどヴォルトには能力も謙虚さもあり、そこそこうまくいった。

 医学教室を希望する生徒たちはまだ純粋だったし、教会とかいうカス組織は王都から消えていた。時々、「薬師」の噂を勘違いして、「貴族病」を簡単に治療できる薬を求めるバカな貴族を相手にするのは面倒だし、仕事はめっちゃあった。

 そんな日々は1年ほど経ったとき、薬師のお孫様にして、お弟子様が学園へ入学すると知った。

「自分なんかに教えることはあるのだろうか?」

 薬師に対するあこがれは大きかった。だからこそ、薬師のお孫様が「医学」の教室を選択することを疑っていなかった。期待を裏切るまいと意識改革などにも力を入れていた。

 なのに。

 ストラ・ハッサムは「医学」を希望していなかった。

「なぜだ?」

 入学時の試験でも高い教養があることは理解できた。下手な教員よりも賢いかもしれない。資格は充分になるのに、なぜか希望がきていない。

「いや、そうか。医学を希望するのは一般的に2年生以降。そういうことか。」

 知識だけでなく、謙虚さも持ち合わせている。

 これほど医学に向いた子はいない。いや、彼女のために医学がある、そう思えた。

 

 だから、無作法と思いつつ、試験結果で盛り上がる学生の中を探してみた。

 結果として、あの言動である。

 ストラ的に言えば、「教師じゃなくて、研究者だね」というタイプの変人であった。

ストラ「分かるわー。こっちの苦労を知らないで答えだけ知りたがるバカっているよねー。」

ヴォルト「そうそう、個人差とか、努力の差を考えろって話。」

 なんだかんだ、仲良くはなれそうな2人である。(この会話は架空のものです。)

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