56 ストラ インテリ眼鏡に絡まれる。
ストラ「そろそろ入学しないかなー」
残念ながら、まだまだ。
なんだかんだもみくちゃにされそうになったタイミングで、私を救ってくれたのはリットン君だった。
「あのー!、申し訳ありませんが、入学式の時間が迫っているのではないかと。」
並みいるVIP達の会話に割って入る様に両手を上げて声を上げた彼の雄姿を私は忘れないだろう。
「で、では、メイナ様、スラート様、先輩、後ほど。」
「え、ええ、またね。」
「あっなら荷物はこちらで預かっておこう。」
「スラート様、助かります。」
断わるつもりだったけど、背に腹は代えられない。思った以上に時間を取られてしまってマジで時間がやばい。投げつけるように荷物をカイル先輩に預けて私はリットン君を伴って会場へと走りだす。。
「ジジジ(そうだね、鐘が鳴ってる。)」
「ふるるる(人間はこういう音で時間を教え合うだってな。)」
「ぴゅーーー(スヤー)」
おい、愉快なアニマルズ、なにさらっとメイナ様になついてるんだ。
「ストラ・ハッサムさんとリットン・ビーさんですね。遠くからよくいらっしゃいました。」
受付のお姉さんの気持ちのこもったお迎えを受けて、入学式の会場へと入る。ちなみに、「ビー」というのは、リットン君が学園へ通うことなる際に、父ちゃんがボスピンとリットン親子に与えた新しい苗字だ。一応貴族なので、何の権限もない苗字を授けるぐらいはできる。
この世界、微妙に古き時代の世界観を取り込んでいるから、庶民は名前のみ。苗字付きは、貴族あるいは、そこそこの家と判断される。
「い、いいんですかね。僕、ド庶民なのに。」
「諦めなよ、それにすぐにばれるから安心しな。」
並んで列の最後尾に座りながら、緊張でマナーモードみたいにプルプルしているリットン君をやれやれと慰める。
リットン君は庶民であった。親であるボスピンたちも頭の回るけど召使いでしかない。というか貴族級の人材を雇ったり、貴族級に取り立てる権利が田舎のハッサム家にあるわけがない。何度も言うが「ビー」という苗字も名ばかりだ。
そんな彼であるが、地頭はいいし、親に似て勤勉である。ゲームでも学園へ入学したことをきっかけにメキメキと頭角を現していく。初期ステータスこそ他の主要キャラに劣っているが、後半では知力を中心にトップクラスの強キャラとなる。大器晩成、やりこみプレイヤー御用達のキャラだが。
それを知っている私がそんなことを待つわけがない。
入学式定番の来賓とか先生とか、生徒会の紹介は、バッサリカット(精神的にね、寝てたとも言う)。普通の学校ならば、それぞれのクラスに分かれてガイダンスなり自己紹介なりのアイスブレイク的なイベントが行われるのだろうけれど。ここはゲームの世界、どちらかというとイギリスの魔法学校的なイベントが優先される。
「では、新入生たちは、先ほど配られた番号と案内に従って各試験会場に移動してください。」
250人ほどの新入生。前半の番号の生徒たちは先に実技を行い、後半の番号の生徒たちは学科試験を受ける。全体が終われば交代し、それぞれの成績と希望によってクラスが振り分けられる。
ゲームでは、特級、魔法、学術の3コースに分かれる分岐である。入学時の試験と称したミニゲームのスコアーに応じて選ぶことができる。
まあ、ミニゲームや帽子で所属するクラスが決められるわけがない。そんなものはファンタジーで、実際は入学願書を書く段階で、論文とともに所属希望を提出している。学科試験の成績を加味にして教科の担当が生徒たちの合否を判断して振り分ける。もとい自分の教室に所属する生徒を確保するわけだ。
ちなみに日本の高等学校の生徒数が350万人程度、学校は5000校。そこからもろもろ計算すると、800人程度という生徒数というのは高校の平均的なものだ。だけど、経った半日で合否どころか選別まで済ませなければならない教師陣には素直に同情する。(ブラックってレベルじゃねえぞ。)
「まあ、落ち着きなよ。一般教養と経営学はキャパ大きいから。」
相変わらずプルプルしているリットン君。先に実技なんてことになれば絶対ケガしてただろうから、これは結果往来だ。
「は、はい。とりあえず学科を頑張ります。」
うんうん、大丈夫。私の授業の方が何倍も難しいから。事前に辺境伯様や母ちゃんから聞いた情報では、そんな難しい問題はない、読み書きと四則演算、簡単な地理や常識を問う道徳的なもの。この世界の学力レベルが低いのではなく、日本の教育レベルが高いのだ。少なくとも小学校で都道府県から地元の特産品とかまで学習はいらないんじゃないかなー。
「大丈夫よ、リットン君。過去問もやったでしょ、あのレベルよあのレベル。」
「う、たしかに、8割は解けましたけど・・・。」
「充分だからねー、それこそトップレベルだ。」
私は満点余裕なんだけど。
「でもお嬢は、満点余裕じゃないですか。」
「声にだすんじゃねえよ。」
印象悪いじゃん。事実だとしても。こちとら前世、試験をさせる側だったからね。ただ、それは外聞が悪いでしょ。
「ふん、ハッサムの田舎者がずいぶんと自信家だな。」
ほら、メンドクサイのが出てきたじゃん。
「リットン君。今の発現は良くなかったよ。ほら無駄に自信と不安のバランスがとれてない子だっているんだから。」
「お嬢?」
「うん、ごめん、私が悪いわ。」
さすがに擦り付けるのはかわいそうだ。
「なっ、お前。」
「・・・。」
顔を赤くして詰め寄ってくるのは、緑色のやぼったい髪をした眼鏡少年だった。眼鏡な上に前髪が掛かっているので雰囲気が暗い。なんというかメカクレ系主人公っぽいと言えなくもないけど、これで髪を縛るとそれなりに整った顔になる。
「何とか言ったらどうだ。」
私が黙っている態度が気に入らないのか、更に顔を赤くするが、こいつは貴族のルールを知らんのか。
「マーチン・ロゴス様、貴族の慣習を守っているだけです。」
「なっ。」
詰め寄る手をパンと払い、私は冷静に伝家の宝刀をきる。
「くっ、俺の名を、いやロゴス家が同級にいると知っていてその態度か?」
「いや、そうじゃなくて、貴族の慣例じゃないですか、うちみたいな田舎貴族とロゴス様なんて家格が違いすぎるじゃないですか。」
階級が下のものは、基本的に話しかけてはいけない。ほんとメンドクサイ慣習である。ゲームではなんどもイライラさせられた。
まあ、ものは使いようなんだけどね。
「ぐうううう。」
実際、私は何も悪い事をしてない。メイナ様の時は失敗したけど、こんなちょろい坊やが私の相手になるとでも?
「お嬢、そのくらいで。」
リットン君、まだ大丈夫だよ。もうやめるけどね。
「・・・。」
「だから、なんか、ああもうマーチン・ロゴスだ。お前がストラ・ハッサムだな。」
「はい。」
「じゃあ、質問に答えろ。おまえ、自分が俺よりも賢いつもりか?」
「それはどういう意味で、もう言いましたが、私のような田舎者がロゴス家の人と比べようがないでしょうが。」
なんでだろう、こちらは自分の立場を理解して、その上でロゴス家を立てているのに?
マーチン・ロゴス。国内でも随一の学術一家で、マーチンさんのお父様は法務長官、日本で言えば最高裁判所の長官であり、司法のトップである。マーチン自身も知力面では断トツトップの存在である。反して体力がないから、最終的なステータスはリットン君にも負けるんだけどね。
「くっ、いいだろう。お前、勝負しろ。この学科試験の成績でお前のような田舎ものよりもロゴス家の方が優れているとか教えてやる。」
なんでそうなるの?
「えっいやですけど。」
「はっ?」
「私は、一般教養と経済学、それと植物学の教室に入れればいいんです。競う意味がありません。」
わかんねーなー。男の子ってどうしてこうすぐ優劣をつけたがるんだろう?
友人とか、教室の中のランク付けなんて社会に出たら無意味なのに。競い合って実力を高めあうのはいいんだけど、大事なのは順位でなく成績そのものだというのに。
「ロゴス様も、この程度の試験は余裕なのでは?」
「かあ、あとで吠え面かくなよ。」
キョトンとする私に対してマーチン君は、捨て台詞を置いてさっていった。さすがに賢いのかこの場で無駄な口喧嘩をすることが無駄であることは理解できているのだるか。
「あんなに怒って、大丈夫かねー。まあ、試験が始まれば落ち着くでしょ。」
たまにいたねー、自分の立ち位置が定まらず周りに当たってしまう子って。試験でナーバスな自分を認められず周囲に当たってしまう。それを諫めるのも大人の役目なんだろうけど、試験管の人は苦笑して、うなずくだけだった。
まあ、地頭はいいはずだから、きっとそこそこの成績はだせるだろう。
「リットン君はああなってはいけないよ。試験で問われるのは冷静に自分の実力を発揮できるかどうか、そのために過去問もやってきたし、準備もしたんだからさ。」
「は、はい。」
突拍子もない出来事だったけど、なんだかんだ騒がしかったせいか、リットン君はすっかり落ち着いていた。うん、なんだかんだ、頼もしくなったね。
「まじでわかってないんだよな。この人。」
うん、なんか言ったかい、リットン君。
ちなみに学科試験はすぐに片付いた。基礎計算や地理は過去問の記憶通りに書き込むだけだし、三角関数の証明問題なんて高校数学レベルもの、パターンを覚えてしまえば楽勝である。
魔術に関わる言語系の試験は少々苦戦したが、そのあたりはゲームのご都合主義的なもので感覚的にわかってしまう。
・・・いや、さすがにまずいか。
ちょっと調子に乗って全問正解なんてことをすれば悪目立ちしてしまう。ゲームでもマーチンの学科試験は100点中90点だったはず。ならば無難に8割ぐらいにしておこう。
そこで私は最後の方の証明問題や読解問題の答えを消しゴムで消し始めた。
はた目には、間違いに気づいて慌てて消して、解きなおしていると見えるだろう。
不正はなかったよ。
リットン 「めっちゃ煽ってますよねー。あれで無自覚なんですよ、あの人。」
左隣の席の学生「入学試験で満点って普通に無理だよ。」
前の席の学生 「論文加点とか、2年以上の学習内容もでるんでしょ?」
基礎学力に+して学術論文なんてものある本格的な学科試験であることをストラは忘れています。
スラート王子 王道王子
ガルーダ王子 ひねくれ王子
カイル先輩 ノウキン
マーチン・ロゴス インテリ眼鏡
リットン君 ワンコ系幼馴染
そこにさらにオネエ系イケメンと獣人枠、エルフ枠の攻略対象がいます。




