55 ストラ 両親の意外な姿を知る。
ゲームのオープニングにありがちな、キャララッシュー1
その人物は突然現れた。というのはゲームでの話で、今回はメイナ様と一緒に普通に待ち伏せしていた。
「いやいや、流されるなよメイナ。明らかに問題になることをわかっていながら、今日まで黙っていた時点で確信犯だぞ。」
苦手意識を抑え込み冷静にこちらに割り込んできた、スラート様。我が国の第2王子にしてメイナ様の婚約者で、3年生で生徒会長。なんか色々盛ってあるが、出会って2年ほどで背も伸びて貴公子っぷりが上がっている。うん、ゲームのスチールとそっくりのイケメンだ。テンプレイケメンすぎて、あれだわーってなったけ?
「な、何を企んでいる。正直に答えろ。」
いや、ハチさんたちがついてきたのはハチさんたちの意思ですから。私としては便利で安全な学園生活を送れればそれでいいし。と言っても伝わらないんだろうなー。
「スラート王子、精霊様の御心というならば。」
「いや、絶対、制御、少なくとも交渉は出来る立場なはずだ。精霊がいることでどれほどの混乱が学園で起こるかわからないハッサム嬢ではあるまい。あるいはメイナに相談することだってできたはずだ。」
真面目か!そして地味に優秀じゃないか。
「はっ、確かに。ストラ、あなたまためんどくさいとか思って。」
的確な指摘にメイナ様もはっとして私を見る。うんそうだよ。ごり押しでごまかそうとしたよー。
「スラート王子、発言をしてもよろしいですか?」
「うん?はっ、そうだな。学園内では身分差はそれほど厳密じゃない。礼儀とマナーを弁えていれば問題発言程度で騒ぐバカは今はいないから安心したまえ。」
臣下の礼を取る。というか身分が下の者がおいそれと発言できないってことをそろそろ覚えてくれよ、王子様。
「メイナ様に相談する暇がなかったのです。精霊たちの同行の意思は私も直前に伝えられたのです。」
「ぐ、そ、そうか。それは失礼した。」
誰がついてくるかはそれはそれは激論になったからねー。特にクマ吉を説得するのは大変だった。
「殿下たちにも手紙を書いてはいたのですが、先に学園や役場への従魔登録などの手続きの必要もあり、このような形での報告となってしまい、申し訳ありません。」
「う、うむ。そう言われると筋が通るな。ぐうう、またしても早とちりをしてしまった、すまない。」
「いえ、まあほんと気を付けた方がいいですよ。まじで。」
ちょろすぎて心配になるわー。真面目な人間ほど理論攻めに弱いよねー
ただ、最後の一言は失言だったかもしれない。
「きさまあ、殿下に向かって無礼だぞ。」
こうやって面倒な相手に隙を与えてしまった。
「殿下が恐れ多くも気にかけてくださっているというのに、その態度。それに聞いていれば真っ先に殿下たちに相談すべきことではなかったのか。」
無駄に耳がいいなー。
と高圧的な態度で私をにらみつけているのはがっしりとしたスポコン系のイケメンだった。赤い短髪にするどい眼光、制服ごしでも分かる盛り上がった筋肉と腰に下げた木剣。さすがに抜かれることはなかったが、その態度は今にも切りかからんとするものだった。
「メイナ様、これ話しかけても大丈夫なやつです?」
「ええっと、スラート様、紹介していただいても?」
大型犬のような男の子、それがだれか私もメイナ様も知っているけれど。
「ああ、そうだな。ハッサム嬢、この男は、カイル・ランページ。近衛隊の親族でメイナの同級生だ。去年から私の側近兼、学内での護衛も兼ねている。」
「なるほど、うちのリットン君と同じような物ですか。いや、これは失礼ですかね。」
「なっ、殿下。」
「殿下ではないと何度も言っているだろう。そしてカイル。こちらの女子がストラ・ハッサム嬢だ。」
「ハッサム家の長女で、ストラーダ家の恩人です。なにより。」
「「薬師様のお孫様だ。」」
えっ何それ?
王子とメイナ様の突然のシンクロに驚いたのは、私だけじゃなくカイル先輩もだった。
「ハッサム、ハッサム家のご令嬢でありましたか。」
あれれ、おかしいなー。
カイル・ランページ先輩は、王族を守る近衛騎士に多くの人材を提供しているランページ家の4男で、年が近いということでスラート様やガルーダ―様の側近として学園へ入学している。性格は見た目通りのノウキン直情型、なよなよしているという理由でガルーダ王子を嫌い、実直なスラート王子こそ次代にふさわしいと「殿下」呼びをしている。
ゲームではスラート王子の側近として、スラート王子の周囲に現れたヒロインを警戒しているが、彼女の奔放な性格や優しさに絆されて最終的には王子よりもヒロインを守るという素っ頓狂キャラである。が、カイル先輩のルートでは主人公の実家がでてこないんだよねー。
「ハッサム様の噂はかねがね、なるほど、殿下やメイナ様が友人と呼ばれるほどの人物なら精霊ぐらい使役してもおかしくないですね。」
「なんじゃそりゃあー。」
こんな忠犬キャラじゃなかったよねー、君。
「ああ、カイルの父親は、ハッサムの先代と先輩、後輩の関係だったそうだぞ。」
「なるほど?そしてガルーダ様、いつの間に。」
「これだけ騒ぎになれば、寄ってくるって。」
カイル先輩の意外すぎるキャラに驚いていたら、知れっと横にいるガルーダ王子と御つきのチヨさんがいた。
「薬師様、新ためてよろしくな。まさか同じ学び舎になるとは思ってなかったぞ。」
「嫌味ですか、いい加減にハッサムでもストラでも好きな方でお呼びください。」
「いやいや、薬師様は薬師様だからなー。」
「そうですね、今更ストラ様と呼ぶのも恐れ多いですし、何よりガルーダ様がそう呼ばれるのはちょっと。」
「というわけなんだ。」
はいはい、相変わらずイチャイチャしているな―。
「というか、クマ吉殿は一緒じゃないのか?モフりたいぞ。」
「流石にあの巨体を連れて歩けないですよ。」
そんなことよりもカイル先輩のことだ。父ちゃん関連のことなんて知らないぞ。
「俺も入学する前にスラートから聞いたんだけどな。」
「ハッサム嬢。現ハッサム、御父上と母上殿は、学園ではそれなりに有名なんだぞ。」
「えっまじすか?」
じいちゃんならともかく、あの二人は牧歌的な農家ですよ。
「いや、私も入学してから色々聞いたんだけどな。」
「ハッサム様と言えば、現辺境伯様と実技の成績を競い合った実力者でありますぞ。」
ずいっと顔を寄せてくるカイル先輩、イケメンなんだけど暑苦しいなー。
「辺境伯様といえば、国内でも最強と言われる武人です。それと競い合ったハッサム様の実力は教師陣や近衛騎士の間では有名なのです。それこそわが父も直々に指導した後輩であったとよく話をされていました。」
「へ、へえ。」
「近衛騎士への誘いを断って、故郷の村を守るために王都を去ったことを止められなかったっと酒を飲むといつものように。」
父ちゃん、そんなことをしてたの?いや、これゲームではなかったぞ。いや待て、たしかカイル先輩のルートだと実家の話ってびっくりするぐらいでてこないんだっけ?
「スラート様やメイナ様がよく話題にあがる女子がどのような人かと思っていましたが、まさかハッサム家のご令嬢であったとは、お父様には幼いころ、稽古をつけていただいたこともあるんですよ。」
ほえー、いや知らんし。何も聞いてないよ私。
「俺も驚いたぞ。たしかにハッサム村の人達は油断ならないと思っていたが、ちょっと調べただけでボロボロと情報が。」
「ああ、辺境の田舎とあざける者も多いが、学園関係者や学友だった人達の間ではすごく有名なようだな。」
王子のたちの情報収集能力をなめていた。
これ絶対盛られてるやつじゃん。辺境伯様って、いい人だもん。噂が噂よんで尾ひれがついているやつ。
「正直、眉唾と思っていたやつも多そうだけど。」
「やめてください、それ以上は言わないで。」
分かってるよ。そんな噂の人物が愉快な動物さん達を引き連れて学園へおとずれたんだ。おまけに王子たちとも親し気。
「あれが、噂のハッサム。」
「薬師様の薬といえば、貴族御用達の?」
「貴族病の治療法も確立して、医療院のメンツをつぶしたとか。」
ああ、やばいなんか噂が広まっている。
「ふふふ、これでは地味に過ごせないかもしれませんね。」
「・・・メイナさまー。」
すごく楽しそうなメイナ様。
今になって分かる。メイナ様ってば私がハルちゃん達を連れてくることに気づいて止めなかったな。
「まあまあ、これだけ視覚的なインパクトがあれば、ダル絡みしてくる人はいないわよ。」
天使のような笑顔を私に向けるメイナ様は、かつてないほど楽しそうであった。
ストラ「なんか両親についてとてもつもない噂が。」
ゲームでは入学直線の飢餓とか混乱でハッサム家の評価がだだ下がりになっていた関係で、ハッサムの知名度は広まっていない。また、王子たちやメイナが興味を持っている相手、まともな辺境伯様の働きかけでなんやかんや有名人になっているストラさん。
ストラ「詐欺だー、陰謀だー。」