54 ストラ12歳 学園へ入学する 1
平穏が不可能ならば、可能な限りぶち抜いていこう。
桜舞う、うららかな春の青空のもと、行われるのは学園の入学式。夢と希望に不安を織り交ぜた新入生と、それ以上にテンション高く子どもの晴れ姿を目に焼き付け記録に残そうとする親たち。
いや、この世界にサクラはないし、日本の四月って高確率で雨が降るんだよねー。そして、子ども以上にテンションの高い親がベストアングルを求めてあちらこちらに踏み入るんだよ、そしてそういう親ほど手続きに手間取って式が遅れるんだよ。ハレの記念日だから多少は目をそらして見て見ぬふりしてたけどさあ、入学式の前に子どもの集中力とか体力を削らないでほしいだよねー。そして式が終わったならさっさと帰って次の日に備えてください。入学式の親のテンションがトラウマで、学校へ行けなくなる子とかいるんやでー。
「じじじ(ストラ、目が死んでる。起きて。)」
「はっ、ありがとうハルちゃん。」
いかん、前世のトラウマな経験でつい教師目線になってしまった。
というわけで、新入生のストラ・ハッサム12歳です。今日からピッカピカの一年生ってやつだぜい。
「いやー、まさか人生でまだ学校へ通うことになるなんてねー。」
「ふるるるるる(なんだい嬢ちゃん、ここは初めてじゃないのか?)」
「違うよ、サンちゃん。ここに来るのは初めてだよ?」
「ふるるう(じゃあ、どういうこと?)」
「人生は常に学び続けるものなんだよ。それは場所が変わってもね。」
就職したら、もう勉強とはおさらばと思っていた。転生したから勉強とも、うんやめよう。黄昏るのも飽きたわ。
「さてさて、校門でこれからの未来に不安や期待を感じながら見上げるというシーンは再現したとして。」
12年越しの再会。ゲームでさんざん見たオープニング。入学式へと向かう主人公は、大きなトランクを引きずるように運んでいた。学園へ通うような貴族といえば召使いをつれていくか、ポーターを雇うなどして荷物をあらかじめ運び、自分が運ぶなんてことはしない。だからこそ主人公はめっちゃ浮いてるんだよね。
「じじじ(荷物は我々にお任せください。)」
「ええ、それは僕の仕事ですよ。」
「じじじじじいじ(適材適所だ、ルーキー、お前の仕事は学ぶこと。雑事は我らに任せよ。)」
そんな光景の代わりに荷物を奪い合うリットン君と兵隊ハチさんたちの姿があった。
「リットン君、おいてくよー。荷物はハチさんたちに任せればいいの。」
「ええ、待ってくださいお嬢様。それは先輩たちにあまりに失礼では?」
「じじじ(報酬はいただいている。気にするな。)」
ゲームではリットン君と一緒に2人の荷物をひーひー言いながら運んでいるところを、警備員のおじちゃんが見かねて手伝ってくれる。その結果、警備員のおっちゃんと仲良くなってのちに学園を抜け出すフラグになるんだけど。
「あ、あのー。そちらのハチやフクロウは。」
「私の従魔です。登録証はこちらです。」
「じじじ(よろしく。)」
「ふるるるる(舐めんじゃねえぞ、こら。)」
おいおいサンちゃん、そんな喧嘩腰になるなよ、ハルちゃんを見習って愛想よくしなよ。
「ぴゅー(うん、ついたの?)」
「あっ、豚?」
「ああ、そういう感じです。基本無害だから気にしないでください。」
「あ、ああ。わかった。しかし嬢ちゃん、すごいな。その年でこんな数の従魔を使役するとは、がんばったんだなー。」
おお、語尾はゲームと同じだ。なんか初手がめっちゃ丁寧だけど、声だけ出演していた警備員のおっちゃん、おっちゃんじゃないか。
「お騒がして申し訳ありません。初めての王都と学園ということではしゃいでいるようなんです。」
ぺこりと頭を下げる。
「ははは、なんぞすごい嬢ちゃんだとは思うけど、いい子だなー。貴族様に頭を下げられるなんて初めてだよ。」
おお、ゲームでの発言だー。メタいけどちょっとテンションが上がるんですけど。
「まあ、そのうち慣れるし、慣れてもらえるさ。がんばれよ、そっちの兄ちゃんも。」
大雑把だが優しい警備員のおっちゃんの激励を受けながら、私たちは先を急ぐ。
「いい人でしたねー。」
うん、リットン君のセリフもゲームと同じじゃね?まさかねー、そうなるとさ、次は悪役令嬢だったメイナ様を見つけて、コソコソしてそれをガルーダ王子に笑われるって展開だったような?
「ストラ―――――――。」
なんかーきたー、コソコソとかする前に私がロックオンされてる。ちょっとハチさんたち。
「じじじ(尊き子、久しぶり。)」
「ふるるる(なるほど、これは別嬪な姐さんじゃないか。)」
「ぴゅーーー。(この子、いい子。わかる。)」
わー愉快な動物軍団出張版があっさりとメイナ様になつきおった。いや兵隊ハチさんたちは荷物を放り出してまで行くんじゃないよ。
「わわわ、ハルさんお久しぶりです。それにこちらのフクロウさんとあれ、アイスピグ?なんで水の精霊様がここにいるんです。」
おお、惜しい。
ゲームでは、「田舎の珍獣がなぜここにいるんです。」だったはず。
いやー12年前のゲームでも覚えているもんだな―。皆さんも心当たりありません?
「ああ、ストラ、何を、何をしているんですか、精霊様達を学園へ連れ込むなんて。」
「メイナ様、お久しぶりです。一層背も美しさも育っていてうらやましいです。」
「え、ええ。ストラも久しぶりね。ストラも・・・。」
「いえ、なんかとんと背が伸びなくてですねー。」
11歳から12歳って、成長期のはずだよねー。なのに背が伸びてないし、女の子の日もまだなんだよねー。まあゲームでも、背が低いからちびっ子とか子ザルとか色々言われるんだよねー。
「ああ、わかった。そうやってまた煙に巻こうとしているでしょ。」
「そん、ソンナコトないですよ。」
「なら、こちらを見て話しなさい。」
やべ、久しぶりにあったメイナ様の威厳とカリスマ性が爆上がりしている。さらっと精霊さん、もとい動物さん達がまとわりついているせいか、神秘的すぎてまぶしい。
「お、落ち着いてください。私だろうと誰であろうと精霊さんたちの行動を制御できるわけないじゃないですか。」
ぶっちゃけると、面白そうだからと彼らは私についてきただけだ。
王女たちの中でも一番若く活動的なハルちゃんが、新たな縄張りを探すためにお付きの兵隊ハチさんたちを引きつれて私に同行すると宣言したことをきっかけに、フクロウ組の若頭のサンちゃんとアイスピグの姉妹の妹のレッテちゃんも私についてくると表明した。
「精霊さんの行動に協力はしても、拒否はできませんよ。」
「そ、それは確かに。」
「だからこそ、私も仕方なくですね。」
なんてことはないんだけどね。ハルちゃんたちに学園生活についてプレゼンした上で報酬を掲示して学園生活への同行を依頼したのは私である。
報酬は、定期的な料理や菓子の供与と周囲との意思疎通の支援。私やメイナ様が彼女たちの意志や言葉を誤解なく伝えることで彼らに快適な環境を与える。という条件だ。
私にも、協力することで得ることができるメリット、ハチさんたちのセキュリティーと軽作業支援フクロウと豚さんによる快適な気温維持、一度知ったら手放せないじゃん。
ギブアンドテイクにWinWinの関係である。そうなるように誘導した感は否定しないけど、遅かれ早かれ、精霊さん達の存在は、ばれるし問題になるだろう。だったら入学初手からその存在を公にして、社会権を獲得しておこうという画策である。
「精霊さん達は、私たちの生活に興味をもってくださっています。相互の理解を進めていくのは大事だと思いませんか。」
「そうね、ごめんなさい。驚いて疑ってしまったわ。」
よし、これでメイナ様を説得できたし、後はごり押しで動物さん達も学園へ侵入成功だ。
「いやいや、流されるなよメイナ。明らかに問題になることをわかっていながら、今日まで黙っていた時点で確信犯だぞ。」
と思ったらナイスタイミングで邪魔が入った。まあ、誰かはわかりきっているよねー。
ちっ、君のように勘のいいガキは嫌いだよ。
「お嬢様、入学式・・・。」
リットン君分かっているよ、そろそろ長いし、ここできっちり王子たちとのフラグはへし折っておこう。
ストラ「学校の人間関係は第一印象が8割よ。」
ハル「じじじ(残りは?)」
ストラ「学力と財力。」
サンちゃん「ふるるるる(世知辛い)」
レッテ「ぴゅーーー(友達百人出来るかなー?)」
精霊ごと乗り込んだストラ。その学園生活が今始まる。