53 ストラ 学園への入学を覚悟する(逆らえない流れを知ったともいえる。)
色々あった11歳編も最終回です。
「ストラ、お前さんは学園へ入学しなさい。」
「ストラ、入学の手続き書類を準備しておいたわよ。」
「ストラちゃん、制服の準備をしないとね。」
「いいから、覚悟しなさい。」
と、やる気満々なのは、愛すべき祖父母と両親たち。母様とばあちゃんにいたってはメジャーと当て布を片手にじりじりと私に詰め寄っている。
「いや、なんで?私が学園へ行く必要なんてないでしょうに。今更。」
自慢じゃないが私は賢いぞ。なんならこの5人の中でも一番かもしれない。
「そうだな、この馬鹿息子と優しい嫁さんから生まれたとは思えないほど、わしの若い頃に似ておる。」
「ひどいなー親父。でも間違ってないな。たしかに俺の子は疑いたくなるようなくらい賢いんだよなー。」
私の反論に手放しで認めるのは男親。
「あなた、2年前の辺境伯家でのやらかしを忘れたの。ちょいちょいノリと勢いでやらかすのは確実にあなたの血よ。」
「いや、もはやハッサム家の血だと思うわ。この村を開いたお義父さまとお義母さまも、人とは違う発想で英雄と呼ばれたり、狂人と呼ばれたり色々あったりしたらしいから。」
対して、女親たちは手厳しい。手厳しくも私を正しく評価しているから手に負えない。
でもなあ、私って学園へ通う必要ないんだよねー。前世ではむしろ教える側だったし、今世でもじいちゃんたちを筆頭に色んな知識を得ているし辺境伯家の書籍のおかげでなんだかんだ知識量はそれなりだ。
「学校は勉強するだけじゃないぞ。」
でました、常套句。それは結果論だからね。
学校というのは、社会性を養う場所であり、知識や集団生活の経験からそれらを学び取る過程で一緒にいて心地よい人間関係が気づければ御の字ぐらいだ。
だからさあ、子どもに友達がいないとか、あの子と仲良くしてほしくないとかで学校へクレームをいれるなよ。ボッチでもいいじゃん。いじめたり、暴れたりして人様に迷惑かける輩の方がやばいっての。そもそもそこを矯正することまで教師の仕事にされてはたまらない。最低限のルールは教えるとして、基本は親とか周囲の人間と本人の資質なんだよ。
ああだめだ、思い出したら気分が落ち込んできた。ネバーブラック、ネバースクールの精神なのに。
「あら、目に見えて落ち込んでるんだけど。」
「学園の負の面ばかりを見聞きしてきたんじゃないのか?辺境伯家とかお前さんたちあたりで。」
「いや、そんな話をしたことはないですよ。」
ははは、この世界に渡って10年以上になるのに粘っこく眼の光を奪っていくよ。
「しかし、なあストラ。お前このままだと嫁の貰い手はないぞ。」
「いや、私の場合は婿じゃなくて?」
沈みかける意識を引き上げたのは現実的な自分の立ち位置だった。
「いや、父ちゃんたちもまだ若いし、弟や妹ができるかもしれないからそこは心配しなくても。」
子供の前でなんてことをいいだすんだ、この色ボケ夫婦が、というか聞きたくないと両親の生々しいイロコイの日常なんて。
「私はハッサム家の長子で、この世界は長子相続が原則。長子に問題があれば国や上役の貴族から別の後継ぎがあてがわれることもあるけど。私に不満でも、だったら今すぐ手伝いやめるよ。」
「「「「それは困る。」」」」
ふふふ、書類仕事は性悪執事と私が担っているし、愉快な動物さんたちとのコミュニケーションも私がいなければ成立しない。仮に家から追い出されたら着服したアレコレとコネを使ってどこか別の場所でスローライフを。
「本気か?」
「いやそこまではしないよ。」
胡乱げな視線のじいちゃんには、このカードは通用しない。なんだかんだ私はこの村が好きだし、投資した分、快適なスローライフのために積み上げたものをおいそれと手放したくもない。
「しかしなあ、だったらなおのことストラは学園へ行くべきね。」
「えっ?」
訳知り顔のばあちゃんがそんなことをいい、私は首をかしげる。
「ハッサム村、いやハッサム家は一応は貴族よね。」
「う、うん。」
「片田舎で世間知らずの僻地で、ストラのひいおじい様とひいおばあ様が叙勲とともに拝領した土地、それは分かっているわね。」
それこ耳にタコができるほど。東の二国との戦争でブイブイ言わせたひいおじい様が叙勲とともに隠居したのがこの村で、じいちゃんの薬師としての腕で国内でもちょっとした有名な家。
「だからこそ、その後継ぎは学園もでていないというのは問題でなくて?」
「うぐ。」
そこを突かれるといたい。庶民とほぼ変わらなくても貴族は貴族、そこに箔漬けは必要となる。まああれだ、社長の息子が中卒だとかっこがつかないみたいなものだ。
「今まではそれでもよかったの。ここは田舎だし、旦那様、ストラのおじい様の薬の知識は専門的なものだし細々としたものだったから、後継ぎは凡庸でも田舎だから無視された。」
「母さん、凡庸ってのはひどくないか。」
「そうだよ、とうちゃんも充分化物だよ。」
「ストラ、それほめてないよね。」
だまれ私のS〇SUKEをやすやすと突破した恨みは忘れないぞ。
「話題をそらさない。それでもお父さんもちゃんと学園を卒業して、立派なお嫁さんを貰っているわ。それにスラート辺境伯家とも知己を得ているわけなんだから、領主としては満点なのよ。」
そだねー。ちゃらんぽらんしているし、書類仕事も計算もだめで、じいちゃんの薬がなければ家が傾ていたかもしれないけど、それでも領主としては充分だろう。
「吹けば飛ぶような田舎の村。それでいて、国内に影響力のある薬師様がいるからおいそれと手出しはできない。それがハッサム村だったんだけど。」
限りなく平民に近き貴族の娘のサクセスストーリー、ゲームはまさにそれだった。貧乏なのに、並みいる攻略対象たちと接近しても違和感のないギリギリのバックボーン。言われてみればなんとも奇妙な立ち位置だったよね、ゲームのヒロイン(私ね。)
「だけど、最近のうちの村の発展、それはストラも分かるわよね。」
「そりゃもう。って、あっ。」
「気づいたようね。」
精霊の恩恵であるハチの産地にして、幻ともいえる精霊が4種類も住み着いている村。王国内でここほど安全で快適な村はない。その上で卵焼き機やブラシなどのドワーフの新商品、いやそれ以上に、ドワーフたちが住み着いて馬鹿みたいに作っている酒や道具の数々・・・。
じいちゃんの薬だけでは手を出そうと思わない価値だったけど、今のハッサム村は多少の無理を通しても手に入れたいと思える価値ができてしまっている。それこそ辺境伯とか王子と敵対する可能性がでたとしても、バカならばてを出したくなるそのレベルだ。
「そして、一番手っ取り早いのは引きこもりで学園へ通うことを拒んでいる後継ぎを。」
「ああ、わかった、分かったから、学園へいくよ。てか、行くしかないじゃん。」
他にもいろいろな手段が頭に浮かんだ。いや、想定はしていのだ。でも所詮は田舎の村と高をくくっていたのだ。
「お前、やらかしすぎ。」
じいちゃんストレートすぎません?
でもそうだよ、ここ最近のハッサム村の発展は私が原因だよ。私が悪いよ。
「じゃあ、改めてサイズを調べるわよ。」
「大丈夫、辺境伯様が制服から学用品の準備は手配してくれるそうよ。クレア様も娘が増えた見たいって張り切っているから。」
ありがたいけど、いやー。
こうして私は愛する家族の愛ある説得の結果として、今代の人生でもっとも避けたかった学園への進学を決意せざるおえなかった。
大丈夫、田舎の貴族として、影でひっそりとする陰キャになっていればいいんだ。
トラブルからは距離を置き、ほどほどに快適かつスピーディに単位を取得して卒業すれば・・・
「そううまくいかないことは、お前が一番わかってるじゃろ。」
じいちゃんやめて、じいちゃんがいうとフラグじゃなくて予言になりそうだから。
ストラ「逃れられない、これが世界の強制力ってやつ?」
祖父母「若いのー。」
両親「頼むから落ち着いてください。」
なんだかんだ両親の思いと愛情は逆らえないストラさんであった。そして、思惑とフラグが乱立する学園生活はどうなってしまうのか、次回から学園編です。