52 不穏な噂をスルーしたいが、オチがわかっっているからこそスルーできない悲しみ
冬の日の一幕 というフラグ回収回
楽しくおいしい秋の時間。大いに盛り上がった収穫の時間はあっという間にすぎ、気づけば風が冷たくなり、ハッサム村では冬支度が始まっていた。
「ぐるるるうわ(今年も寒くなるな―。)」
「ふるるるる(珍しいなこんなに寒いのは。)」
クマパパとフクロウ親分が何やら不穏な会話をしながら、今年の冬も精霊たちはハッサム村で過ごすことを決めた。縄張り云々はどうしたと言いたいが、そのあたりは秋の間に抜け目なく準備していたそうだ。
「じじじ(そもそも山は、精霊のもの、荒さなければ自由)」
心配そうな私にハルちゃんはそう説明してくれたが、ごめん、それもう知ってるんだ。
私が前世から引き継いでいる知識は、ブラックな教職現場で身に着けたあれこれと、なぜかドハマりしていたこのゲームの世界観だ。前者は快適なこの世界のご都合主義のおかげ生かすことはまれで、後者に至ってはメイナ様のフラグをブチ折ったぐらいから当てにならないものばかりだ。
ただ大いなる自然、ゲーム開始時の世の中の情勢というのはわりと当てはまる。例えばこの寒さだ、ゲーム開始じ、ストラが学園へ入学する前後3年間は、例年以上の冷え込みが起き、各地で不作とか冷害による被害者がでる。自然豊かな王国はそこそこで済んでいるけど、周辺諸国の被害は大きく、東側の2国が無理な侵略を計画するきっかけとなる。
そんな不安定な世情の中、色ボケかましてんじゃねえよ。と今ならツッコミたくなるが、ヒロインや攻略対象は、絆を深めながらそれらの国難へと立ち向かっていく。そんでさらっと「聖女」とか「勇者」みたいなチートな職業とかスキルを発動させてなんやかんや解決してハッピーエンド。現実味、ねえよそんなもん。
「たしかに、大陸は東へ進むにつれてさむくなるが、ここまでは初めてだってばよ。」
「そっか、リビオンの兄ちゃんも知らないとなると相当だねー。」
精霊さんたちとワイワイと話していたら、いつの間に混じっているリビオンの兄ちゃん。そもそもドワーフや獣人というのはそのあたりの感覚が人間よりも精霊よりだ。
「じじじ(犬の人、詳しい?)」
「ああ、なんか獣人たちの間でも警告が回ってるってばよ。」
「ふるるるる(そういえばドワーフたちも酒を保管しているらしい。)」
「ぴゅーー。(温かい場所増えて、ここは快適)。」
「ガンテツのおじきどのが、酒とともに各地に警告をしているってばよ。」
なに、あののん兵衛たちがそんなことを?
冬の備蓄をすることは当然だ。私だって辺境伯家にはいつも以上に備蓄が必要だと「じいちゃんの意見」という切り札を使って言い含めてある。そこから王子たちにも話は言っているから、王国も対策をしているから、被害こそあったが餓死や凍死といったものはなかったらしい。
「正直いうと、その話がこの村の薬師殿からはじまったと聞いたのが旅のきっかけだったてばよ。」
「へえー。」
毎度思うが、じいちゃんの通り名すごくない?そして、頼んでも会えないのがじいちゃんなんだよねー。引きこもりな上に最近はハチさんたちの一部も手懐けて、関係者以外は近寄れなくなっている。
だからこそ私に面会を求める人増えて面倒なんだけど、これも修業と言われてしまうと文句も言えない。
「ともあれ、この寒さは来年以降も続くかもしれない。そういう風に考えて対策はしないといけないねー。」
「じじじ(そうかな?そんなことなかったよ。)」
「二度あることは三度あるだよ。」
別に無駄になるわけではない。特にわが村ではクールピグのおかげで食材の冷蔵も可能だし、薪とか燃料はフクロウ組のおかげでなんとでもなる。餌や居場所を求める獣は、クマさんファミリー達が山脈の東側へどんどん追いやっている。
「東の帝国と聖国の動きが気になりますなー。山脈越えは絶望的でも船を使って海からこちら側へ来るかもしれないってばよ。」
「そうだね、教えてあげたら?」
「ふふふ、それはもうばっちりと、スベンに住む同胞たちを中心に海上に防衛線は構築済みと聞いている。帝国の船はデカいばかりでのろまだからな。ちょっとおちょくれば、どうとでも。」
「海賊じゃん、それ。」
「じじじ(海賊ってなに?)」
「クラント」の軍隊は強いし、船も鋼鉄を使った巨大戦艦だ。だが、蒸気機関やエンジンといった動力がなく、動きは遅い。軍隊の強さは無双であるが、自然や精霊さんたちに勝てるほどではない。ちなみに、ゲームでは侵攻してきた帝国軍に対して、主人公と攻略対象が、精霊の力を借りたりなんかすごい魔法で天変地異を起こして撃退している。が、現時点防衛線が構築されているならその必要もないだろう。
温かい暖炉を囲ってそんな話をする。お供は揚げ芋とジュースで一部は酒だ。なんだかんだ賢いから色々と意思表示ができる精霊さん達だが、不思議な事に完璧に意思疎通ができるのは私とメイナ様だけだ。獣人であるリビオンの兄ちゃんもかなりの水準で意思疎通ができるが、すれ違いを防ぐ意味で私がフォローしながらもの世間話だ。そして、そんなことができることが「聖女」と呼ばれる存在と王国では言われ、お隣のおばかな宗教国家では「魔女」と呼ばれることになる。
「あらためて恐ろしいってばよ。東の境界のギリギリの村にこれだけ精霊様たちがそろっているのは。」
獣人であるリビオンの兄ちゃんからすると畏れ多くも危機感を抱くものらしく、時折そんな話もでる。
「ローレシア」、名前もするのも嫌な国だが、その国教である、創生教は大陸全体に広がっている。もっとも数ある信仰の一つという立ち位置で、西側三国では影響力は少ない。宗教にありがちな弱者救済(人族限定)な活動もしているから扱いに困るといったところだろう。そもそも「ローレシア」は国土自体が豊かなので、基本的には引きこもりだ。彼らの敵は帝国であり、自分たちの領域に入ってきた異分子でしかなく、山脈を超えてまで何かしてくることはない。
というのが定説なんだけど。
「これだけ精霊が集まってあれこれしてたら、いらないちょっかいは出されそうだよねー。」
言いながら私はもぐもぐと揚げ芋を食べながら私はそううそぶいた。
事実として「ローレシア」の一部の輩は王国へちょっかいを出している。例えばスラート王子が私を魔女扱いしたこと、クマ吉やハチ達を魔物扱いしたのがいい証拠だ。今はどうかわからないが、王都や学園には創生教の思想が紛れ込んでいる。それが宗教的な献身からなのか、利益の追求なのかは知らない。ただ害悪でしかないので、メイナ様には近づかないように警告はしてある。メイナ様を溺愛しているスラート王子も今更惑わされることもないだろう。
そんな感じで冷害に対する対策も仮想敵国からの侵略や謀略に対する防衛もばっちり。国内で一番の不安材料である辺境伯家の一人娘とそれに伴う国内のドタバタ(つまりヒロインと攻略対象の恋愛劇)は、すでに解決済み。
あれー、王国ってめっちゃ安泰じゃない?
そもそもヒロインが原因で荒れた国をヒロインたちが解決するってとんでもねえマッチポンプだよ。ゲームの世界とはいえ、なんともひどいよなー。
「くくく、薬師殿は先見の明をもっている。獣人たちの間では有名だってばよ。」
「なにそれ、めっちゃ不本意。私はちょっと賢いだけの村娘だからね。」
ほんと不本意である。
そんなことをあれやこれやと話す。相手が精霊なときもあれば、じいちゃんだったり、ケイ兄ちゃんだったりと色々だが、寒さに震えることなく穏やかに過ごせる。これがどれほど贅沢なことか、実感を得るそんな話し合いとなった。
冷害による国力の低下 → 辺境伯家を中心とした働きかけで対策済みで被害は最小限
創生教による思考汚染 → 第二王子が、婚約者にベタぼれした関係で、旗頭を失い一般的な影響力に
メイナの暴走による内紛→ 暴走の原因となる辺境伯婦人の存命により、淑女となったので国力アップ
凶作による山脈の後輩 → 大御所の精霊がハッサム村で快適に過ごしていた関係で被害0
なんだかんだ、前世の知識を活用して快適な生活を維持しつつ世界に影響を与えているストラであった。