50 かかってこい、その覚悟があるならば、超えてみろこの試練を。
食欲の秋の次は、スポーツの秋
燻製と調理爆弾でますます、食欲の秋まっさかりなハッサム村ですが。健康的なスローライフを実現するには、これだけではいけない。やはり○○の秋を全制覇したいじゃないですか。
読書の秋、はいいか。なんか絵本たくさん作って飽きたし、気になる本は辺境伯家に出張したときに借りてくれば。
実現すべきはスポーツの秋だ。自然豊富なハッサム村はピクニックや探検に事欠かないし、そもそも子供から大人まで日々健康的に働いているので、運動不足ということはない。
しかしだ。
それらは日々の農作業であり、収穫活動だ。剣や木刀でするチャンバラ遊びや石投げなんかもいざというときの訓練だ。この世界にはサッカーとか野球といった娯楽的な運動、スポーツがないのである。
「というわけで、今回はこの休耕地を素敵に魔改造していくぜいー。」
「ジジジ(おおー。)」
「ぐるるる(何するの?)」
「報酬のチーズは弾んでもらうからなー。」
はい、軽作業担当のハチさんたちに、重機扱いのクマさんファミリー。そして何かと便利なドワーフさんたちだ。
「俺らの扱い雑過ぎない?」
やかましい、燻製チップ分けてやらないぞ。
農業は無限生産と思われるが、土地の栄養を消費している。だからこそ数年に一度のペースで畑を休ませる必要がある。適度に肥料とか水をまきつつ自然のままに放置する。そうすることで畑としてまた復活してくれる。この場所は来年使う予定なので、少し早いが土を掘り起こしたりして畑にする必要がある。つまり、何かして、何かあったら合法的に撤去することができる場所だ。
「じゃあ、打ち合わせ通りにいくよ。」
何はともあれ食べ物につられた一同を駆使して作りましたよ。あさっりと。
「アスレチックの完成ーーーー!!。」
「「「おおお。」」」
パチパチと握手する建築班と面白い気配を察知した子供たちだ。
「姐さん、これは何だってばよ。何かの装置か?」
各地を旅してきたリビオンの兄ちゃんも何かわからない各所のスポット。飛び石もあれば木材を組み合わせた塔のようなものから、一本橋。いや、これはやりながら説明していった方が早いだろう。
あれだよ、初見殺しをしたいとかじゃない。
「はーい、じゃあ、ここからスタートで順番に挑戦するよー。お子様や自信のない人は赤いロープの誘導に従って外回りに進んでねー。」
安全に配慮しつつ、最初に作ったのは飛び石だ。20メートルほどの縦長の水たまりを作り、程よい歩幅で太めの柱が設置されている。
「なんだ、これを飛んで進めばいいのか?」
「そだよ、落ちても腰ぐらいの深さだから溺れる心配はないから。」
子供向けの外側には、お子様の歩幅で安心な感覚で柱を立ててある。なんなら池にそって進むこともできる。大人向けは軽くジャンプしないと絶妙な長さの飛び石のアスレチックだ。ケイ兄ちゃんで検証したからばっちりだ。
「リビオン、よかったらやってみろよ。意外と面白いぞ。」
「そ、そうか。ケイが言うならば。まあこの程度。」
ひょいっと気負いなく最初の柱に飛び乗り、つる
「うお!」
ちっ耐えやがった。
「なるほど濡れているから滑るのか、勢いでいくと落ちてしまうな。」
「はーい、このように、獣人でもケガしかねないからねー。お子様たちは、この柱よりも高くなるまでは挑戦しちゃだめよー。」
「ええええ。」
「はい、そっちのお子様コースで練習しておきなさい。」
「「はーーい。」」
デモンストレーションも終わり、お子様たちは赤いロープに従って飛び石を歩いていく。お子様サイズで安全に考慮しているけど、なかなかにスリリングな体験に子どもたちも喜んでいる。
「ふむ、ならば私も先へと進んで、場所を開けるとしよう。」
20個ほど点在してある足場、それを飛び移りながら進む柱。コツをつかんだのかリビオンの兄ちゃんは、ひょいひょいと柱を超えていく。うむ、獣人の身体能力はすごいな。
「ははは、なかなかに面白いな。いささか難易度が獣人にはぶはあ。」
はい、ひっかりました。
「ああ、一部の柱は沈む仕様になってるから気を付けてねー。」
「ぶば、先に言ってくれってばよ。」
言ったらつまらないじゃん。
はい、この仕様、御存の人はご存じのあの池である。初見殺しかつ、のちに忍者の名前をしたあれと共に世界中で大人気となったあのお城のアトラクション。期間限定のアスレチックならばと、このネタを仕込まずに入られなかった。
「ああ、やっぱりリビオンでもだめだったか。」
「じ、地味に悔しい。もう一度だ。」
律儀に戻ってくるリビオンは、悔しそうな顔をしているが。
「旅の道をすべて教えてもらう?攻める城に知らない罠があったら、それが悪いってあきらめるの?」
「そんなわけあるか?」
安い挑発にのっかり、今度はペースよく飛び石を超えていく。なかなかのペースだけど、そんな考えなしだと。
「うそ、ここはずるい。」
そう、そういうものだからねー。なんだかんだ再放送を何度も見てきた私の心理戦に勝てると思うな。
「なるほど、あそことあそこか。」
「いや、もしかするとあそこもじゃないか。」
そんなリビオンの兄ちゃんの醜態を観察しながら冷静に分析するドワーフ達。ちなみにだが、アスレチックを無事にクリアできた場合は、新作のお酒を提供すると約束していたからだ。
あれだよ、この手のアスレチックは賞品あってこそだよね。
ちなみに初回なので心が折れない限りは何度でも挑戦して構わないというルールである。
「ぐあ、ここもか。」
4度ほど水没したリビオンの兄ちゃんのおかげで正解ルートを把握したドワーフ達。柱の都合上、安全なルートは限られるが
「ぐぼは。」
「な、なんでだ。あそこは安全だったはず。」
「そんな簡単に終わらせるかっての。」
「ふるるる(疲れる・・・。)」
柱は中空が氷で作ってあるので、クールな豚さんの魔法でいかようにもなるのだ。遠隔操作で温度を操るクールピグの能力ありきだけど、本家の池よりも凶悪だぜ。
「ず、ずるいぞ。」
「まあまあ、今日はこれ以上は変えないからさ、難易度もさげるからさ。」
子供だましの遊び、だが遊びだからこそ本気になってこそスポーツの秋である。
「言ったな、さすがに変更はなしだぞ。」
「いやよく見るってばよ、沈む柱は微妙に揺れてるってばよ。」
「ほんとか、よしそれなら。だばー。」
いい感じに白熱するドワーフ達とリビオンの兄ちゃんたちに子どもたちも大ハッスル。
試行錯誤とともに、何度も水に落ちる大人たちと興奮して水に飛び込む子供たち。風邪をひかないようにフクロウ組達に温風を送ってもらう。
「よし、これだ。このルートだってばよ。」
「よくやった兄ちゃん。」
そして、正解ルートが発見され、無事に全員が渡り終えたときにはみんなすっかり仲良しであった。
「うんうん、これだよ、これこそスポーツの秋だ。」
「いや、一番楽しんでいるのはお嬢だよね。性格悪すぎじゃない?」
テストプレイヤーのケイ兄ちゃんのおかげで満足のいくアスレチックができて、私は満足である。
まあ、アスレチックはまだまだあるから、本番はこれからだけどねー。
リビオン「なんということだ、これは拠点の防衛と訓練も兼ねていると。」
ケー兄ちゃん「絶対、そこまで考えてないぞ。」
ワクワクドキドキのアスレチック編。次回はもう少しまとめて紹介です。




