48 秋の実りを収穫しよう。
季節は秋を満喫。
季節が過ぎるのは早いものですっかり秋だ。そして秋と言えば収穫の秋、食欲の秋である。
「今年も、この季節が来たか。」
くっくくと漏れる笑みを隠すこともなく私は村から小一時間歩いた森へと来ていた。この森には栗の木、少しあるけば梨や柿といった果樹も植わっている。村の方にはここ数年でやっと実りを見せた葡萄にイチョウの並木があったりもする。もうね、秋の山の味覚はこれでもかと収穫できるわけだ。
「というわけで、全員装備確認、長靴に穴は。」
「「「空いてません。」」」
「トングは人に。」
「「「向けません。」」」
「帽子の紐は。」
「「「汗をかいても絶対ほどかない。」」」
装備と安全の確認をした村のちびっこどもが視界にいることを確認して私は、クマパパに指示をだす。
「OK,では、やっちゃえ、クマパパ。」
「ぐるるるわ(承知)」
唸り声、もとい振動?衝撃波? それによって適度に揺らされた栗の木からはドサドサと栗が降ってきて、アタリがイガだらけになる。なんかよくわからないけど、あれだ、RPGとかである全体攻撃的なスキル。何度か練習させた結果、適度に木を揺らして栗を落とすことができる。
「お見事。」
「ぐるるるわ(他愛無い)」
誇らしげなクマパパは、巨大な見た目に反してこういう繊細な作業が得意なのだ。地面に落とす関係上、栗でしか使えないけどねー。
「さて、じゃあみんな仕事だよ。」
「「「おおお。」」」
よしいけ、ちびっこども。地に落ちた栗を根こそぎにするのだ。
栗は美味しい。だが棘がある。あと落ちたものを拾い集めるのが大人にはツライ(主に腰が)。そんなわけで最近まで一部の物好きが収穫するにとどまっていたが、今年は違う。
まずは安全に作業するための長靴とつなぎ(子供サイズ)。去年大量に手に出回ったサルたちの皮をドワーフたちがなめして布にハチさんたちがロウでコーテイング。豚さんとかフクロウさんがいい感じに乾燥させると前世の作業つなぎのような軽くて、丈夫なものができた。ついでなので、子供向けのトングもドワーフたちに作らせた。結果としてちょっとしたゴミ拾いや素材拾いで、子どもたちはとんでもない戦力となった。
「まずは、イガをふんで開いて。」
「中身を拾うんだよねー。」
うん、子どもたちが一生懸命、イガと向きながら栗を拾っている光景というのはほのぼのするなー。
「いやいや、お嬢も手伝えよ。イガ集めるの。」
子供が放り出したイガを拾うのは、監督兼護衛のケイ兄ちゃんだ。子どもたちがポイポイ投げたイガを必死に拾っている。
「ええ、やだー。」
わたしは他にも監督する必要があるのだ。あと銀杏を処理する準備とかねー。
栗といえば高級品なイメージがあるが、それは皮をむいてシロップ漬けにしたりしたものだ。そしてこの世界では微妙に貴重な砂糖も、ハチミツで代用。
水につけたり茹でたりしたうえで、渋皮を取り除き、ハチミツにつけて放置。保存もきくし、ほっこりとした食感と甘さがたまらない一品。おいそれと外には出せないので、村内限定の素敵食材。疑う人はスーパーでクリのシロップ漬けを見てみるといい、おいそれと出せる値段じゃないっての。
梨はほどほどに食べたら、ジャムにしたり、酒につける。葡萄は、ドワーフたちが根こそぎワインにするのを防がないとならない。イチョウは独特の匂いのせいで、ケモノよけとして使われていたが、その実を天日干しにしたり、発酵させたものは独特の風味があってうまい。個人的には殻をむいた身を串焼きにして食べるのが、上手いと思う。茶碗蒸しもそのうち作りたいなー。
外に出すものと言えば干し柿である。山のあちらこちらにある柿の木のあつまり、そこにはハチの王女さまの一匹セカちゃんの縄張りである。
「じじじ(今年もたくさん採れたわー。)」
「おう、受け取るよー。」
柿の実を好むセカちゃん達一派は熟したやわらかい柿を好む。花の蜜だけでなく柿の実も楽しめる彼女たちは、先日の猿蟹合戦の話がお気に入りで山の空いている場所を見つけると柿のタネを植えているとか。だからこそ消費しきれていない柿がたくさんでるのだ。
「じじじ(でもこれおいしくないよ。)」
「ふふふ、そこはお任せよ。」
大量に持ち込まれた美味しくない柿、それすなわち渋柿。
それらの皮をひたすら剥いて、大鍋で茹でて殺菌をする。それをしばって風通しの良い場所におき、豚ちゃんたちにお願いして10度ぐらいの気温をキープ。2週間ぐらいして、表面に白い粉のようなものがでれば、冬の名物である干し柿の完成である。
「うめえええ。」
ねっとりとした甘味に涙がでそうになる。前世で作ったことはなかったが、今世では、ばあちゃんは干し柿作りの達人で、冬にしか食べられない贅沢品だった。
ああ、そうだよ、作れるってことが分かったからには前世のか細い記憶を頼りに私も作り上げたよ。カビが怖いから、冬になってから、なんなら渋柿も冬なのだが、そこはファンタジー要素でゴリ押した。
「な、なんだってばよ。干してからからになっているというのに、なんでこんなにも。」
すっかり村になじんだリビオンの兄ちゃんがめっちゃ感動していた。
「ドライフルーツとか作らないの?」
「ドライ?なんだそれは?」
砂漠の国では、食べ物を干すという発想はないのだろうか?
「砂漠の旅では、保存魔法が必須だからな。水も魔法で生み出すし、食材や重要な物資はアイテムボックスに。」
なにそれ、ここぞとばかりに魔法要素をぶっこんでくるなよ。詳しく教えなさい。
「獣人独自の魔法体系とも言われているが。砂漠や長旅では必須の技術だ。」
おのれチート民族。ドワーフといい獣人といいスペックが優秀すぎないか。
「で、姉さん。そのドライ何とかってなんだ?」
ギラリと目が光るワンコ。なんというか食い物への執着がすごいなー。武芸者設定はどこへ行った。
まあいいけどね、この際だから、干しモノ系もこの世界に持ち込んでしまうか・・・。
ストラ「細かいことはわからんが、上手いからよし。」




