47 獣人がきたー
ハッサム村に新たなる風(もといトラブルが。)
獣人、それはファンタジーの王道だ。ケモミミや尻尾を装備したライトなものから、二足歩行の動物が服を着たようなヘビー級なものや、しゃべる獣など、前世の創作に置いてその形態は様々なであった。
「じじじ(しゃべる動物がそんなにめずらしいの?)」
「ぐるるるる(むしろ人間の言葉に合わせてあげるやつが珍しくない?)」
私の場合は、愉快な動物さん達に囲まれているので獣人といっても今更である。が、王国の西側にある砂漠の国「ラジーバ」そこには確かに獣人がいるし、ゲームでもそれなりに重要な立ち位置だった。
ぶっちゃけると攻略対象の中に獣人国の王子様がいる。ついでに言うと獣人国の戦士なんてのもいる。ライバル、もといマスコット的な可愛い猫耳少女なんてのもいる。ハッサム村のような田舎にはほとんどいないが、王都を舞台とした背景やスチールの片隅には、ケモ耳や尻尾を付けた美男美女のモブがどこかに必ず隠れていた。
開発者の中にケモナーがいたことは間違いないだろう。
そういうわけではないが、この世界の獣人は基本イケメンである。まあ乙女ゲームなので基本的な顔面偏差値が高いので美醜は目立たないが、その耳や尻尾のせいで珍しがられる。仮想敵国である西側の帝国では、馬鹿な貴族が子飼いにしたり、愛玩用になんてこともあるらしい。
何が言いたいかというと、色々びっくりなハッサム村でも獣人さんは、珍しいことだ。
「珍しいなー、兄ちゃん、どっから来たんだ?」
「耳のつけね、耳のつけねみせてー。」
「じじじ(独特のにおい)」
「ふるるるる(なんじゃいおまえ、ドコノ組のもんじゃ。)」
それこそ、村の酒場にふらりと現れた獣人の兄ちゃんに村人が群がるぐらいには。
「ちょ、なんだよ、なんだってばよ。」
ああ、もみくちゃにされてる。あれだ。アイドルに群がるパパラッチな人達みたい。その中心にいるのは、チョコレートのような褐色の肌のイケメンだった。肌色ににた焦げ茶色の髪の上には黒味がかった犬耳がチョコと乗っかり、ふさふさの尻尾はプルプルと増えるながら足の間に収まっていた。あれだ、イケメンなのに、公園デビューして震えているお犬様にしか見えねー。
「お嬢、どうにかしてやってくれ。さすがに力づくというのは、まずいだろ。」
「いや、私はどこぞの猫型ロボットか?」
「ろぼ、なんだそれ。」
何かあるたびに、とりあえず私を呼ぶのはどうなんだろう。
だが、今回はあれだー。事態を重く見て私を呼びに来たケイ兄ちゃんのファインプレイだ。
「よーし、久しぶりに唐揚げ作るかー。」
「「なにー」」
ぼそっとつぶやいて厨房に向かうと、酒場中の人間の視線が一斉に集まる。
「ストラちゃん、今のほんと?」
「うん、なんかお客さんぽいしねー。」
「ふふふ、勉強させてもらうわねー。」
唐揚げのレシピは酒場を運営しているコール夫妻にも伝えてある。しかし、気温や肉の品質に応じて、タレの配合や塩加減を微調整するレベルになると私には及ばないらしい。特別なことは何もしてないし、配合した調味液もレシピも渡してあるはずなんだけど、何が違うんだろうね?
「でもストラちゃんが作る揚げ物って、別格に美味しいのよねー。」
「ジジジ(ストラのから揚げは特別)」
「ぴゅー(なんというか、なにか籠ってる)」
「ふるるる(酒もお菓子もそんな感じ)」
はい、そこのアニマルズ、最初のから揚げはあげるから、クマさん達と一緒に食べてなさい。
私も忙しいので、毎日は作らない。それもあって私が唐揚げや料理を作るときは、宴会騒ぎとなる。今回は哀れな獣人の兄ちゃんから村人の注意を引くためだ。ためだったが、
「うまい、うまいてばよ、こんなにうまい肉は生まれて初めてだってばよ。」
どこぞの忍者のような口調の獣人の兄ちゃんも一瞬で虜にしてしまった。そして、おいしい料理でその舌もすべるすべる。
「いやー、王都で幻とまで言われているハッサムのハチミツと霊薬を求めて、はるばる来たけど、ここは天国か。こんなにうまいもんがあるなんて、思いもしなかったてばよ。」
「あー、あー。お嬢のから揚げは天下一品だからなー。」
「酒も旨いぞ。ストラちゃん発案のブランデーだ。」
「かー、うまい。酒精がワインとは段違いだってだよ。」
よしよし、酒の力もあって兄ちゃんの素性はすぐにわかった。
兄ちゃんの名前は、「リビオン」 予想通りラジーバ出身の旅人で、王都で味わった酒とハチミツの味に魅了され、原産地を求めて、わざわざハッサム村まで来たとのことだ。なんでも獣人たちの若者は一人前になるために各地を旅して、珍しいものや新しい物を探して持ち帰るという伝統があるとかないとか。
「大半は、嫁探しで終わってしまうんだってばよ。でもせっかくの旅だから、俺は色んなところを見てみたかったんよ。」
嫁探し、もといパートナー探しというのは、前世のゲームでもあったけ?
「この唐揚げって料理もそうだけど、香辛料と調味料の組み合わせがすごいってばよ。レシピを知りたい。」
「いいよ。」
別に隠すものじゃないしねー。
「はっ、姐さん、それはダメだってばよ。ここの料理は都会でも食べれないものばかりだ。安売りしちゃいけないってばよ。」
それは知ってる。前世の知識チート、モリモリだからねー。
「しかしなあ、リビオン。お嬢は、ほかの旅人とかにもバシバシ教えてるぞ。なんなら調味料も融通してくれるし。」
「なんだって、バカだってばよ。それは。」
馬鹿とは失礼だな。まあ、こんな反応も珍しくない。
「リビオンさんだっけ、そこは価値観とか考え方の違いだよ。」
「はっ?」
イラっと来たので説教してやろう。
「リビオンさんや、旅人には価値のあるものだとしても、私や村人にとっては日常的な知識に過ぎないの。材料さえあれば揚げ物系は、ここでいくらでも食べられるし、酒はドワーフ達が馬鹿みたいに作ってる。」
自慢じゃないよー、自慢じゃないからねー。
「むしろ、他の土地の人達がどうしてそうしないかと思ってるレベルよ。そうだね。獣人にとっての砂漠の歩き方みたいなものかしら?」
「砂漠の?」
「そう、それだけ常識、むしろ知らないことが失礼だと思うレベルってことなのよ。」
砂漠の歩き方。ルート取りや足運び、天候や星を読み解く知識は希少と言われている。その知識を求めて砂漠へと旅するものもいるとかいないとか。
「な、なるほど?」
「納得しとけ、ボケー。」
ゲームで出てくる獣人の王子様はその知識を誇りと思っていた。そして金で教えをこいた馬鹿者に激しい怒りを覚えていたけど・・・。あれはゲームの設定なのか?
「金になるだ。金を払うから教えろってのが失礼にあたるってことがあることも知りなさい。」
「は、はあいいいい。」
びしっと言ってみたが、そこまで考えてないよ。
調味料の使い方程度の知識なんて、さっさと普及させてこの世界の食事事情をレベルアップさせた方が最終的に、得だし、特産品が増えてハッサム村が悪目立ちするのを防ぐためだ。まあそのまま言っても伝わらないし、理解も得られないと分かっているからいい感じに御為ぼかしをしたけど。
「砂漠の歩き方、金、失礼?」
リビオンさんはブツブツとつぶやきながら、しばし考え込み。
「なるほど、これは失礼しました。」
何かを悟った顔で膝をついて、姿勢を正す。
「礼の欠いた言動の数々、平にご容赦を、誠意には誠意を。身一つの旅ゆえ、このような素晴らしい料理に返せるものが何もないのが情けない限りですが。せめて誠意を示させてください。」
おいばか、やめろ。その展開は知っているぞ。知っててスルーしたんだから、そのまま帰れ。
「私の名前は、リビオン・ルーサー。若輩の身ではありますが、ラジーバの一族に連なるもの。成人の試練としての旅の途中の身の上となっています。」
言っちゃったよ、聞いちゃったよ。この馬鹿貴族が。
「改めてお願いしたい、この村で、ハッサム村で修業させていただきたい。」
なんでだよ、何考えてんだよ。
なんでゲームの攻略対象が、ハッサム村までくるんだよ。
学園からでてくるなよ。
リビオン・ルーサー ゲームの隠しキャラ的な獣人。各地を旅をしていて出会えるかはランダム。何回か遭遇してフラグを立てた上で、彼に認められることでルートが解放される。獣人族の犬人の貴族で、義に熱いタイプ。普段はチャラい言動なのだが、一度道を決めると態度が侍になる。
ストラ「いや、いらない。クーリングオフで。」