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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ 11歳 やりすぎ領地改革 
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46 ハチミツによる経済侵略 とある商人の後悔

 ハチミツを定期購入することになった商人の視点です。

 私はランド。しがない商人であった。

 行商をしている両親のもとで各地を放浪したことで鍛えられた審美眼と人脈。それをもとに細々と各地を巡る一般的な行商人だ。この国は生産地が各地に分散しているため私のように各地を巡って商材を探し旅をする商人は多い。基本的には親や師匠などから受け継いだ交易を大事にしつつ、商売を広げ、弟子や子供に受け継いでいく。そういった商売である。

 だからこそ、一つ一つの取引は大事にしている。例え取引先が国の果てや砂漠の向こうであっても、約束や依頼があれば訪れる。逆に相手が信頼できないと取引を辞めることもあるし、断れることもある。

 そんな取引先の一つとして、親の代からお世話になっている場所で最近変化があった。

「これはまた、美味ですなー。」

「そうでしょ、そうでしょ。いい感じのハチミツなのよ。」

 国の果て、辺境の端っこにあるハッサム村。立地の悪さで訪れる行商人が少ないこの村で、ハチミツという新たな商材を紹介してくれたのは、まだ10歳だという村長の娘さんだった。

「これが定期的に、すごいですね。」

「まあ、やりすぎると値崩れするかもしれないけど。」

「ははは、なかなかに先を見ていらっしゃる。」

 ストラ様は非常に聡明な女の子であった。聞けば養蜂という新技術を提案したのは彼女で、ハチミツの大量生産や活用も彼女の働きによるものらしい。

 子どもが?と思うこともあるが、彼女は国内でも知る人ぞ知る薬師様のお孫様で、幼いながらにその知識を受け継いでいる唯一の弟子なのだ。かの薬師様の薬の効能は素晴らしく、私も幼少のころに薬師様のおかげで一命をとりとめたことがある。ハッサム村を訪れる者の多くが薬師様に恩を感じる者や薬師様の薬を求めてのものだ。

 なればこそ、貴重なハチミツが大量にあると事実も薬師様のお孫様となれば納得である。

「で、この金額でどう?」

 だが、資金面に関しては疎いらしく。ハチミツの相場よりもずっと安価なものだった。

「失礼ながら、ストラ様。これでは安すぎますよ。」

 商人として真摯であろう。儲けるにしても信用は大事。そんな思いから私は諭すようにいった。

「いいですか、ハチミツを含めて甘味というのは非常に高価なのです。瓶単位の販売なら、仕入れ値でもこの倍、王都へもっていけば4倍の値が付きますよ。」

 短慮な商人ならば、こんなことは言わない。

 しかし、ハッサム村との今までお付き合いや、今後生み出されるであろう利益を考えればここで、正直かつ、真摯な情報は伝えておくべきだ。その上で継続的な取引を。

「そうか、うーん、じゃあちょっと上乗せして、この金額で。」

 私の言葉を聞きいれた上でストラ様が提示した金額はそれでも安いものだ。

「原価と加工料。それにこちらの取り分をとればこの程度でいいわ。その代わりだけど、今後とも変わらない取引をお願いしたのよ。儲かるんでしょ、これ。」

「は、はい。とんでもない利益がでますね。」

 瓶詰めのため運搬には気を使うことになるが、その手間を含めても莫大な利益となる。それこそ王都に店を構えられるぐらいに・・・なるほど。

「そうそう、金脈を見つけたから引退というのも困るからね。」

「そういうことでしたら。」

 末端価格をしって売り値を吊り上げようする生産地は存在する。妙に賢い手合いは一時的に儲けるが、訪れる商人が減ってしまい、結果として大損する。

 さすがは薬師様のお弟子様だ、先を見据えている。

 ならば、私も誠心誠意、互いに利のある取引を心掛けなければなるまい。

  

 まずは、販路を広げるために、お手軽な価格で手広くハチミツを宣伝して、ネームバリューをつける。そんなことを思っていたが、「薬師印の魔バチのハチミツ」は恐ろしい価値が見いだされた。私が王都へ運ぶ込む前には王城を中心に噂が広がっており、積み荷は競うように売れた。

 これはまずい。

 恐ろしいほどに売れる。それこそ市場をひっくり返さんばかりに。

 そんなすごい商材の可能性を改めて知り、私の目は濁った。

「取り扱う商人を限定されてはいかがでしょうか、現状はいくつかの行商人が買い付けるかお土産程度に買っていくだけです。そこで私どもがハチミツの取り扱いを一手に引き受けるという形にすれば、商品の取り扱いも責任もって行えますし、交渉の手間もはじけます。」

 欲がなかったと言えば、嘘になる。一度の取引で過去一番の利益もでき、馬車や装備を新しく出来た。儲かる商材に飛びつかない商人はいない。ハッサム村やハチミツは今度大きな利益を生み出し、ハッサム村は発展してくだろう。その利益をより確実なものにしたいという思いがあった。

 一方で、牧歌的なこの村を発展させようとしている健気なストラ様の助けになってあげたいという思いもあった。

 思えば、自分はなんと傲慢で、無知であったか。

 転売や偽造など、思いつく限りの危険性を並べ立て、図々しいと思える条件をだして、いい感じの落としどころを探る。

 守ろうなんて思うことがおこがましい。傲慢だ。

「お嬢さま。」

 なじみのあるハッサムの家令であるトムソンもさすがに止めようとしたが。

「いいですねー、じゃあハチミツの販売はお任せします。樽売りも許可しましょう。」

「い、いいんですか。」

「はい、うちの村の規模では瓶詰めにして商品にするには人手が足りません。そちらが加工から流通を引き受けてくださるなら、こちらとしてもありがたいのです。」

 ストラ様がしたのは、その上を行く、とんでもない提案であった。

 何度も言うが、ハチミツは確かに高価な商材である。精霊であるハチは気に入った場所にしか営巣せず、取られるハチの量は限られ宝石と同等とも言われる貴重品である。そして、それは加工品にすることで更なる価値が着いていた。王都では、ハチミツを加工した菓子や酒が0を一つ増やして売られていた。そういった加工品を取り扱う店に、タル単位で降ろすことができれば利益は更に安定するし、増える。なんなら自分たちで加工場を作ってもいい。

 なにより、「ハッサム村のハチミツ」というブランド、その販売の権利を譲ると言っている。それは今王都で起きているハチミツブームの根っこを私が・・・。

「よ、よろしいのですか。それではこちらがあまりに。」

「いいですよー儲けちゃってください。こんな田舎まで仕入れに来ていただけるだけでもありがたいんです。」

 こちらを信頼してのものか、それとも私が商人としてハッサム村を訪れなくなることを危惧してのことなのか、どちらにしても、ストラ様の判断は間違っていると思った。思ってしまった。

 ならば、商人として期待に応えつつ、儲けさせてもらおう。

「謹んでお受けさせいただきます。」

 おそらく、終生、何代も続く取引となるだろう。私がこの村のハチミツの価値とブランドを守り、なおかつ儲けさせてもらおう。


 と思っていた時期が私にもありました。

 だが、養蜂の技術はすぐに王国中に広まって、質は別としてハチミツの生産量は増大し、ハチミツの価値は、当初の爆発的なものから、すぐに落ち着くことになった。

 そのあたりの話はまたの機会に語るとして、ハチミツの価格は、ストラ様が最初の取引で提示した金額程度に落ちついた。正直言えば、輸送コストなどと合わせると儲けはほどほどといった感じだ。

「施設投資までしなくてよかった。」

 ハチミツが増え、ハチミツそのものの価値が下がれば、その価値は加工技術に依存する。私はあくまで商人であり、料理人ではない。だから信用ので料理屋や大棚に卸す程度で済ませた。安価で高品質なハチミツということで定期的な取引が約束され、商売は安定した。

 もしも欲をだして、設備展開やブランド売りをしていたら・・・。

 やはり商売は信用が一番である。 

 なにより、ストラ・ハッサムという才女とは今後とも仲良くしていきたい。いや、仲良くしていくしかない。

ランド「なんか思ってたのと違うけど、なにこれはこれで、儲かる。」

ストラ「それ以上に儲けている人もいるからびっくり。」


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